仮病の幼馴染を優先して、私を流産させた夫第3話
この話は約1354字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
颯太は私の言葉を聞き、無言で水をあおった。
表情は重く、床を睨みつけたまま何も言わない。
しばらくして、怒りをぶつけるように、彼はグラスを床に叩きつけた。
その姿を見て、私は思わず失笑した。
颯太が子供を欲しがっていたのは知っている。
でも、ずっとできなかった。
ようやく授かった子を、彼自身が殺したのだ。
颯太は私を見て、自分に言い聞かせるように、あるいは私を慰めるように言った。
「なくなったものは仕方ない。俺たちはまだ親になる準備ができてなかったんだ。
落ち着いたら、また子供はできる」
私は颯太を見据えた。
「そんなに里奈が好きなら、彼女に産んでもらえばいいじゃない」
颯太は眉をひそめた。
「また里奈の話か。いい加減にしろ。
あいつは妹みたいだって何度言えば分かるんだ」
またその言葉だ。
もう聞き飽きたわ。
以前は私も、里奈をただの妹のような存在だと思い込もうとしていた。
でも、それはただの自分への誤魔化しに過ぎなかった。
だから今回は、もう自分を騙さないことにした。
「サインしないなら構わないわ。調停を申し立てるわよ。
どのみち離婚してもらうから」
そう言い捨て、私は颯太を一瞥もせず、その場を後にした。
……
私には、独身時代に購入したマンションがあった。
颯太の起業資金のために私財をなげうった時でさえ、この部屋だけは手放さずに守り抜いたのだ。
今となっては、それが私の唯一の避難所になった。
離婚を切り出してから数日、颯太からの連絡はなかった。
私自身も仕事探しに追われ、離婚の手続きを進める余裕がなかった。
ある日、面接を終えて家に帰ると、颯太がいた。
彼が珍しくエプロン姿で、キッチンに立っていた。
結婚前は、よく料理を作ってくれたものだ。
残業があっても、まず家に帰って私にご飯を作ってから会社に戻るほど甲斐甲斐しかった。
私が「無理しないで」と言っても、彼は「愛する君のためなら、これくらい平気だよ」と笑っていた。
でも結婚後、彼は変わった。
いつからだろう。あの頃の優しさは跡形もなく消え去ったのは。
それどころか、いい加減な態度が目立つようになった。
何日も帰らなかったり、半月も出張に行っても電話一本寄越さなかったり。
私が病気の時さえ、「忙しいから看病できない」と言い放った。
一週間入院した時も、彼は一度も見舞いに来なかった。
退院して家に戻った私に、彼は開口一番「飯はどうしたんだ」と文句を言ったほどだ。
今、恋人同士だった頃のようにキッチンで忙しく動く彼を見て、まるで遠い昔の夢を見ているようだった。
颯太は私に気づき、笑顔を向けた。
「おかえり。俺の腕は落ちてないかな」
私は動かず、テーブルの上のケーキに視線を移した。
私がケーキを見ていることに気づき、颯太は慌てて言った。
「結婚記念日に食べられなかったから、今日埋め合わせだ。
わざわざ東の町まで行って買ってきたんだぞ」
私はスマホに目を落とした。
画面には、里奈が投稿したばかりの写真が表示されていた。
彼女が手に持っているケーキは、目の前のものと全く同じだった。
そこにはこう書かれていた。
【颯太くんが仕事帰りに、わざわざ東の町まで行ってイチゴのケーキを買ってきてくれたの。
でも残念ながら、お医者様に甘いものは控えるように言われちゃったから……
颯太くんに私の分まで食べてもらうことにしちゃった!(笑)】
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