今後、想いを馳せぬ第3話
この話は約1420字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
運転手は歓奈を無事に家まで送り届けた。
ボディガードたちは誉の指示通り、階下で待機した。
歓奈は家に入るとすぐ、浴室へ向かいシャワーを浴びた。
歓奈は誉に言わなかったが、妊娠してから嗅覚が非常に敏感になっていた。
美紅の香水の匂いは、彼の上着だけでなく、彼女が帰宅時に乗った車にも染み付いていた。
浴室から出ると、スマホに再びあの見覚えのある番号が表示された。
【今夜、彼は帰宅すると思う?】
これは美紅からの挑発のメッセージで、初めてではなかった。
最初の頃、彼女は大胆にも直接歓奈の前に現れた。
「賀茂さん、お久しぶりね。私のこと、覚えてる?」
歓奈はその時、見覚えはあるものの、誰だか思い出せなかった。
美紅はその様子を見抜いたようで、色っぽく笑った。
「私、昔は賀茂さんの手で死にかけたんだよ。もう忘れたの?」
その言葉で、歓奈はすぐに思い出した。
そして、前回の誉の極端な行動に対して謝ろうとした。
だがその瞬間、美紅は気にも留めず、さっと自分の長い髪を払うと、得意げな表情で彼女に笑いかけた。
「賀茂さんとは縁があるからね、ちょっと見せてあげましょう?」
美紅が見せたのは、彼女と誉がベッドで抱き合う写真だった。
どの写真にも、美紅の手は歓奈の名前が刻まれた誉の胸に置かれていた。角度も姿勢もさまざまだった。
だが主役は、誉と美紅だった。
歓奈はスマホを閉じ、目をぎゅっと閉じた。見なければ、悲しみも裏切られた痛みも忘れられると思ったのだ。
彼女はその日、どうやって家に帰ったのかも思い出せなかった。
誉がどれほど心配そうに接していたかも忘れた。
彼はいつも耳元で、彼女がいなければ生きていけないと言っていた。
しかし、その言葉を信じた歓奈は、徹頭徹尾愚か者だった。
その夜、誉が眠った後、歓奈はリビングで一晩中考え続けた。
彼女は誉と離婚する決意を固めた。彼女は子ども以外、何もいらないと決めた。
だが、彼女をさらに絶望させたのは、お腹の子どもが自分の子ではなく、美紅と誉の子どもだったことだ。
【誉は私の先天性心疾患も知ってるし、出産が危険だと知ってる。
でも、彼は私との子どもが欲しかったの。これは仕方のないことなのよ。賀茂さん、本当にありがとう!】
歓奈と誉は結婚して5年になるが、ずっと子どもに恵まれていなかった。
誉は彼女がどれほど子どもを欲しがっているか知っていたのに、体外受精のために海外に連れて行った。
しかし目的は、歓奈に彼と美紅の子を産ませることだった。
真実を知った日、歓奈は妊娠8か月あまりの腹を抱え、ビル最上階で長く立ち尽くした。
風に吹かれても、顔の涙は跡形もなく消えていた。
彼女の心はこれまでにないほど痛み、人生そのものを引き裂かれるようだった。
なぜ誉が自分にこんな仕打ちをしたのか、彼女は理解できなかった。
彼女は本当に生きる気力を失いかけた。
しかし最後に、歓奈の父である賀茂博之(かも ひろし)からの電話が彼女を冷静にさせた。
死んではいけない。彼女が死んだら、父はどうやって生きていけるのか。
しかし、彼女はもう誉に会いたくはなかった。彼女は彼が憎い。
たとえ彼女を愛していなくても、彼がこんなやり方で彼女を辱めるべきではない。
彼女はより決然とした方法で、自分を誉の世界から完全に消すことを決めた。
歓奈は、彼の計画を全て台無しにし、誉から二度と見つからない場所へ逃げるつもりでいた。
深夜、放映室の明かりが突然灯った。
「歓奈、どうしてこんな遅くまで映画を見てるんだ?」
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