今世では手放すことを決めた第2話
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「彼に数日だけ私の傍にいて欲しかっただけなんです。ほんの数日だけ!」
声が最後には泣き声になっていた。
私は静かに聞いていたが、視線は彼女を通り越して、その背後の悠斗に止まった。
男の瞳は瞬きもせずに私を睨み、全身の筋肉が張り詰めていた。目の奥には、今にも爆発しそうな嵐の気配が醸し出されていた。
かつて私の傍で影のように寄り添っていた守り人が、今は他人の傍の「番犬」になっていた。
私が清香に少しでも危害を加えようものなら、すぐに飛びかかって私の肉を引き裂くつもりだろう。
どうにもやり切れない気持ちだった。
ただ一つはっきりしていた。この人生では、もう自分勝手に悠斗を傍に縛り付けることはできないと。
私は口元に浅い笑みを浮かべ、清香に言った。
「怖がらなくていいわ。二人を引き裂きに来たんじゃない。ただ二人を深月家に連れて帰りに来ただけ」
清香は驚いて、信じられないという顔で確認した。
「二人を?」
「そう」私は頷いた。「あなたは彼の恋人よ。あなたを残したら、彼も一緒に来てくれないでしょう?
荷物をまとめて、悠斗と一緒に深月家に帰ってね」
私の声は平坦だった。
「叔父様と叔母様もあなたのことには了承してる。二人のことに反対していないわ」
清香は大きな喜びに打たれ、悠斗の手を掴んで、彼に向かって格別に嬉しそうに笑い、振り返って荷物をまとめに行った。
悠斗はこの時ようやく、私が清香に悪意を持っていないと確信した。彼は唇を引き結び、態度が少し和らいだ。
「さっきは悪かった。清香を傷つけに来たのかと思った」
彼の感情の良し悪しは、全て清香次第だった。
誰も覚えていない。かつて清香がしつこく纏わりついていた時、彼は煩わしげに私の懐に飛び込んできて、わざと怖がるようなフリをして、私を「妻」として外に向かって主張するよう催促していたことを。
「蛍は彼女たちに言わなきゃ。俺は君だけのものだって。語気は厳しくね」
彼は眉を寄せて凶悪な顔を作って、私に真似させた。
最後にはいつも笑い転げて、ソファの上で騒ぎ続けた。
残念なことだ。
悠斗は、もう私のものではない。
私は口角を引き上げ、二人を連れて深月家に戻った。
私を紹介する番になると、深月家の人々は何と言えばいいのか分からず迷っているようだった。
私から口を開いた。
「私は彼と一緒に育った幼馴染よ。昔はいつも妹のように可愛がってくれてたわ。
私に恋人を紹介してくれるとも言ってたのに、記憶喪失でこの話がずっと引き伸ばされ続けてたの」
その言葉を聞いて、部屋にいる事情を知る人々は皆複雑な表情を浮かべたが、悠斗は疑わず、冗談めかして言った。
「分かった。事態が落ち着いたら、すぐに彼氏候補を見つけてきてやるよ」
……
真夜中、火の光で目が覚めた。
ドアを開けて出ると、私と悠斗に関する全てのものが、火の中で激しく燃えているのが見えた。
幼い頃からの写真、一緒に取った競技会の賞状、彼が告白の時にくれた木彫りの人形……
全てがパチパチと音を立てながら灰になっていった。
胸に鋭い痛みが走った。何かに心臓を強く握りしめられたような感覚だった。
私の気配に気付き、悠斗が振り向いて私を見た。
「昔は俺たちにはお互いに恋人がいなかったから、仲良くしても変に思われなかったんだろ。
でも今は清香が俺と住んでる。清香がこれを見て不愉快になったみたいだったから、燃やした。気にしないでくれ」
私は掌を強く握りしめた。悠斗に狼狽した姿を見せたくなかった。
「構わないわ」私は軽く答えた。「ついでに私の部屋のも一緒に燃やしましょう」
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