人獣の結婚と転生の姫第1話
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人と獣(けもの)との大戦が終結し、互いの合意により、世界は半獣人(はんじゅうじん)の統治下に置かれることになった。
百年に一度、人と獣の政略結婚が執り行われ、最初に半獣人を生んだ者が、次世代の支配者となる。
前世の私は、情に厚いと名高い狼族(ろうぞく)の長男へと嫁ぎ、誰よりも早く半獣の白狼(はくろう)の子を身ごもった。
我が子は人獣同盟(じんじゅうどうめい)の次代の統治者となり、夫もまた当然のごとく絶大な権力をその手にした。
一方で、妖艶な狐族(こぞく)に心奪われて嫁いだ妹は、夫である狐族の長男が女色に溺れ病を得たせいで、ついには子をなす力すら失ってしまった。
嫉妬に狂った妹は、火をつけて幼い白狼と私を無惨にも焼き殺した。
そして再び目を開けた時、私は結婚の日へと戻っていた。
だがそこには、狼族の長男・墨景(ぼくけい)のベッドに潜り込む妹の姿があった。
やはり彼女もよみがえったのだ。
しかし妹は知らない。墨景は、生まれつき残虐で、暴力を信奉する男。
決して良き伴侶ではないことを……
* * *
人と獣(けもの)との大戦が終結し、互いの合意により、世界は半獣人(はんじゅうじん)の統治下に置かれることになった。
百年に一度、人と獣の政略結婚が執り行われ、最初に半獣人を生んだ者が、次世代の支配者となる。
前世の私は、情に厚いと名高い狼族(ろうぞく)の長男へと嫁ぎ、誰よりも早く半獣の白狼(はくろう)の子を身ごもった。
我が子は人獣同盟(じんじゅうどうめい)の次代の統治者となり、夫もまた当然のごとく絶大な権力をその手にした。
一方で、妖艶な狐族(きつねぞく)に心奪われて嫁いだ妹は、夫である狐族の長男が女色に溺れ病を得たせいで、ついには子をなす力すら失ってしまった。
嫉妬に狂った妹は、火をつけて幼い白狼と私を無惨にも焼き殺した。
そして再び目を開けた時、私は結婚の日へと戻っていた。
だがそこには、狼族の長男・墨景(ぼくけい)のベッドに潜り込む妹の姿があった。
やはり彼女もよみがえったのだ。
しかし妹は知らない。墨景は、生まれつき残虐で、暴力を信奉する男。
決して良き伴侶ではないことを……
「お姉様、私と墨景様は本当に愛し合ってるの。お願い、二人を認めてくれない?
それに……私たち、もう床を共にしたのよ。もし墨景様と結ばれなければ、私はこれからどうやって嫁げばいいの?」
ふと、妹・白容瑶(はくようよう)の泣き叫ぶ声が耳に届いた。
その傍らで、父もまた彼女の肩を持つ。
「白若(はくじゃく)よ、いっそ別の婚約者に替えてはどうだ。容瑶も一時の気の迷いで、間違いを犯しただけなんだから」
父は元々白容瑶を偏愛していた。なぜなら、私は彼が外で作った私生児であり、白容瑶は彼が正式に娶った妻との間に生まれた娘だったからだ。
私は視線を上げ、地に膝をついている白容瑶を見やった。
彼女の顔は涙に濡れ、哀れみを乞う表情を浮かべている。だがその瞳の奥に潜む野心と興奮は隠しようもない。
やはり、彼女もよみがえったのだ。そして私より先に墨景の床へ忍び込んだのだ。
前世、私が選んだ婚約者は狼族の長男・墨景だった。
私の考えでは、蛇族(へびぞく)は冷酷無情、狐族は移り気で多情、龍族(りゅうぞく)は傲慢不遜。
唯一、狼族だけが一途で情け深く、それが最善の選択だと思われた。
婚姻から半年、私は狼族のために白狼の半獣人を産み、その子に天澤(てんたく)と名を授けた。
人と獣の間に生まれた最初の半獣人として、天澤は当然のように人獣同盟の次世代の支配者となった。
一方で白容瑶は、狐族の美貌に惹かれ、長男・陸為華(りくいくか)を選んだ。
だが陸為華は女色に溺れ、遊興に耽り続ける男だった。
そのせいで白容瑶は病を得て、生涯子を産めぬ身となり、狐族からも疎まれることとなった。
それでも彼女は自らの不幸を私のせいにし、私が幸せに暮らしていることに嫉妬した。
そして、こっそり私に薬を盛らせ、火を放ち、私と天澤を焼殺したのだ。
思い返すだけで、胸の奥から憎悪が湧き上がった。その場で白容瑶を斬り伏せ、天澤の仇を討ちたい衝動に駆られた。
だが袖の中で強く握り締めた拳に走る痛みが、わずかに理性を取り戻させた。
私は小さく頷き、すべてを悟ったような表情を作った。
「容瑶と墨景様が心を通わせてるというのなら、姉として当然、二人の仲を邪魔したりはしないわ」
白容瑶は私がこんなにもあっさり承諾するとは思っておらず、無理に絞り出した涙が気まずく眼の縁に残ったままだった。
「容瑶、さあ立て。姉に感謝せねばなるまい」
父は安堵の息を漏らした。
「……あ、ありがとう、お姉様!」
白容瑶は嬉々として駆け出し、狼族へ知らせに行くと口にした。
「まったく、娘というものは手元に置けぬな」
父が冗談めかして呟いた。だが次の瞬間、冷ややかに沈んだ私の顔を目にし、気まずそうに声を濁した。
「白若よ、いま残ってる未婚の御曹司は、蛇族の時野(じや)か、狐族の陸為華だけだ。
父としては、狐族のほうが容姿も地位も蛇族より遥かに勝ってると思うが……
それに容瑶もそう申してたし……」
その言葉を遮り、私は静かに言い放った。
「父上、私は蛇族の時野と結婚する」
古来より人は蛇を冷酷無情の象徴とみなし、蛇族もまた同じ偏見に晒されてきた。
数千年の間、蛇族と結婚する人間は一人もおらず、そのため蛇族からは一人も人獣同盟支配者が生まれていない。
その結果、蛇族は獣の五大家族から除名され、地位が急激に低落となり、発展に必要な資源も寸断された。
――あの日、炎に呑まれる私を見ていたあの瞳。
碧緑に輝く双眸の主は、時野だった。
彼は私を助けようとしてくれたが、炎の勢いが強すぎて、なすすべがなかったのだ。
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