五百円診察料を巡る冤罪、追い詰められた医者の逆転劇第1話
この話は約1774字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
母は一生をクリニックに捧げ、診察料はたったの五百円しか取らなかった。
僕がクリニックを引き継いでからも、母の教えを守り、誠心誠意、村人たちの治療に当たってきた。
だが、あるインフルエンサーに診察料の五百円を請求したことがきっかけで、ネット上で「悪徳クリニック」「金のために命を弄ぶ」と激しく非難された。
村中の老若男女が僕のもとに押しかけ、取り過ぎた金を返せと迫ってきた。
僕は彼らの望み通り、すべての診察料を返金し、自らの手でクリニックを閉めた。
「皆さんのご希望どおり、クリニックは閉鎖します。
今後、体調を崩された場合は、三十キロ離れた市立病院で受診してください。どうかご自愛を」
ところが翌日、再び人々は僕の家の前に集まった。
ただし今度は、クリニックを再開してほしいと懇願するためだった。
* * *
「三千円?ぼったくりじゃないの!」
そう言い放ったのは、つい最近村に戻ってきたばかりのインフルエンサー、浅桐未桜(あさぎり みお)だった。
彼女はただ慣れない環境で、軽い下痢を起こしていただけだ。僕は最も穏やかな整腸薬を処方したにすぎない。
「浅桐さん、この薬は原価が二千五百円なんです。診察料として五百円しかいただいていない、高くはないですよ」
「嘘つかないでよ!」
彼女は手にしたスマートフォンを振り、画面をこちらに突きつけた。
「今ネットで調べたけど、まったく同じ薬が二千円で売られてる!しかも送料無料よ!
診察料が五百円だけですって?あんたたちみたいな田舎のクリニックには国から補助金が出てるでしょ?それ、全部自分の懐に入れてるんじゃないの?」
補助金?
僕は一瞬言葉を失い、苦笑した。
あの補助金は申請手続きが煩雑なうえ、焼け石に水にすぎない。
仕入れの手間を省くため、僕は昔から顔なじみの製薬工場を自ら回って薬を仕入れている。効き目がよく、副作用が少ないものを選ぶためだ。
思えば、名門大学を卒業した当時、いくつもの大病院から声がかかった。
だが村長が訪ねてきて、村は市内から遠く、高齢者や子どもが診察を受けるのがあまりにも不便だと訴え、戻ってきてくれないかと頼んだのだ。
幼い頃、父を早くに亡くした僕と母を支えてくれた村人たちへの恩を思い、僕はその願いを受け入れた。
こうしてこの村の医者になって、もう五年になる。
この手の理不尽な患者には、これまでも何度か出会ってきた。僕はすぐに壁に掲げてある料金表を指し示した。
「すべての薬の価格は公開されています。仕入れにも費用がかかりますし。あなたから一銭たりとも余分には取っていません」
「へえ、見た目だけはちゃんとしてるのね」
未桜は腕を組み、鼻で笑った。
「でもね、こういうぼったくりのやり方は、世間知らずの田舎者しか騙せないのよ」
そう言って白い目を向けると、クリニックの内外で順番を待っていた患者たちに向かって声を張り上げた。
「みんな見て!この医者、ぼったくりしてるわよ!私たちをカモにして金を搾り取っているだけよ!」
その言葉と同時に、周囲の視線が一斉に僕へと集まった。そこには値踏みするような疑念が混じっていた。
すると、隣の家の小さな女の子――吉田琴代(よしだ ことよ)が人混みをかき分けて出てきて、頬をふくらませながら未桜をにらみつけた。
「未桜さん、嘘つかないで!大城先生はいい人だよ。
この前、私が熱出したとき、診てくれたうえにお菓子もくれたの!とっても優しいんだから」
胸の奥に温かいものがよぎり、僕は思わず彼女に微笑みかけた。
だが、未桜の顔色は一変した。彼女は僕が出した薬をスマホでスキャンし、その画面を琴代の目の前に突きつけた。
「よく見なさいよ。ネットじゃ二千円。それなのにこの人は二千五百円取ってる。きっちり五百円も上乗せしてるのよ!
このガキ!飴玉ひとつで丸め込まれて、将来は人さらいにでも騙されるような馬鹿になるわね!」
「……!」
琴代は悔しさで目に涙を浮かべた。
「言葉を慎んでください」
僕は表情を曇らせた。
「よく見てください。これは別の製薬会社の製品です」
僕は彼女のスマホに表示された画像の違いを指摘した。
「こちらが出した薬は精製技術が優れていて、副作用も少ない。その分、原価が高いんです」
だが彼女は、まるで弱みを握ったかのように、さらに得意げに笑った。
「言い訳ね!そんな説明、ネットの専門家がとっくにデマだって否定してるわ!」
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