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二度目の人生、裏切りヒモ男の援助をやめた第1話

この話は約2796字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

結婚式の日。またしても彼氏の谷口竜也(たにぐち たつや)が私・中島玲奈(なかじま れな)を放っておいて初恋の陣内篠(じんない しの)と出かけてしまった。

その時、小説の世界でよくある「妻を亡くして後悔し、血を吐くような思いで追いかけてくる」あのお決まりの展開になってほしくて、私は18階から身を投げたのだ。

しかし私が死んだ後、竜也は一滴の涙も流さず、私の全遺産を相続した。それどころか、翌日にはさっそく篠と手を繋いで、私のお墓にまでやってきて、悪びれる様子もなく言った。

「お前が金で俺と篠を引き裂いたんだ。今の結果も全部、お前の因果応報だ。玲奈、今日、俺と篠は結婚した。もう、お前を恨むこともない」

篠は竜也の腕を抱き寄せ、善良で心が広いだなんて、お世辞を言っている。

だが、かつて彼の母親が重い病気でお金が必要だった時、私の前に跪いて自分を金で買ってくれと懇願してきたのは、他ならぬ竜也自身だった。

今、竜也が並び立てる私の「999個の罪」を聞きながら、私は吹っ切れた。

ふたたび目を開けると、私は飛び降りる直前に戻っていた。今度は飛び降りるのをやめ、真っ先に竜也のカードを止め、竜也の母親の入院費を打ち切った。そして、彼が何より大事にしているその愛を、存分に成就させてやることにした。

けれどどうして後になって、竜也は目を真っ赤に潤ませて、やり直そうと私に縋り付いてきたのだろう?

* * *

「いい加減にしろ!玲奈、篠は病気なんだ。頼れる家族が誰もいないから、俺が代わりに見てやってるだけだ。いちいち文句を言って、情に訴えるような真似はやめてくれ。

いい歳して、屋上から飛び降りるなんて、脅しかよ。やりたきゃ勝手にやればいいだろ!」

彼氏の谷口竜也(たにぐち たつや)が、失望した目で、ビルの上にいる、私・中島玲奈(なかじま れな)を見ていた。

冷たい風が吹き抜け、私は言いようのない悪寒に震えた。そこで初めて、自分は時を遡ったのだと悟った。

心臓が激しく波打つのを感じて、私は一歩後ろへ下がった。

下で見ていた人々は、私の行動を見てほっと息を吐き、口々に「危ないから降りてきて」と声をかけてくれた。

けれど、私が死に物狂いで10年もの間愛し続けてきたその男は、私の姿を軽蔑するように見ていた。「どうせ演技だろう」とでも言いたげな表情で。

竜也が「病気だから助けなきゃ」と言い張る相手。それは彼の初恋の相手、陣内篠(じんない しの)だった。

竜也と付き合っている間、彼はいつも「篠の方が可哀想だ」と言っては、私を置き去りにした。

今回は、10年間夢見て、私の両親と縁を切ってまで用意した結婚式だったというのに。

竜也は結婚式を放り出し、私と多くの招待客を残して、ただ風邪を引いただけの篠を看病しに行ったのだ。

前世の私は、どうかしていた。自分がもっと酷い目に遭えば、竜也が私を少しでも愛してくれるようになるのではないか?それを確かめたかった。

おまけに竜也に刺激され、反抗心が芽生えた私は、衝動的に高層ビルから身を投げた。

死ぬ瞬間のその時まで、竜也が後悔し、絶望にくれる姿を夢見ていた。

けれど、彼はそうならなかった。

後悔どころか、涙一つ流さなかったのだ。

竜也は私の体から飛び散った血を無表情で拭うと、幼稚な奴だと私を鼻で笑っただけだった。

そして、翌日、私の遺産を持って篠と入籍したのだ。

その瞬間に、私はようやく全てを理解した。

「篠が可哀想だから助けている」という竜也の言葉は、すべて嘘だった。

竜也はただ、篠が好きすぎて、何事も篠を優先し、彼女を中心に回っていたのだ。

私は10年もの間、騙され続けたまま、無惨な死を迎えてようやく真実に辿り着いた。

今の私には二度目の人生がある。二度と他人のためだけに自ら命を絶つような馬鹿はしない。

私は冷静になって踵を返し、ビルを出た。野次馬も、警備員によって散らされていく。

人だかりからも安堵のため息が漏れた。

「よかったな、吹っ切れたのか?」

「そうだよ。人生、これから先が大事なんだから。どんなに大きなことがあっても、命を粗末にしちゃいけないわよ!」

優しい人が私に水を一本差し出し、「これでも飲んで落ち着きなよ」と言ってくれた。

しかし、竜也が私にかけてきた言葉はいたわるものではなく、電話越しに篠へ投げつけた悪態だった。

「見ただろ?玲奈のやつはすぐ降りてきた。演技だって言ったのに、信じないからだよ」

竜也はそう言うと、私にスマホのスピーカーを突きつけてきた。

すると、篠の弱々しい声が聞こえてきた。

「玲奈さん、お願いします。小説に出てくるような、お金にものを言わせて、竜也を追い詰めるような真似はもうやめてください。お金さえあれば、何をしてもいいと思っているのですか?

この10年、竜也は本当に苦しんできました」

それを聞いて、竜也は瞳を真っ赤にし、恨めしそうに顔を背けた。まるで被害者であるかのような表情だった。

私は竜也が見せた恨みの混じった表情から、前世の私の墓の前で彼が言っていた言葉を思い出した。

「勉強しろと強要して俺の自由を縛り、篠と話す時間すら奪った。

結局、俺の家の格が低いのが嫌なんだろ。大卒の俺を軽蔑してるんだ。

大学受験を5回もやり直しさせられて、篠とは遠距離恋愛になるように留学までさせられた。

金を投げつけて俺を馬鹿にする。金なんて、プライドを踏みにじるだけの侮辱でしかなかったんだ」

そんな、泣き言のような言葉を聞き流しながら、私は虚しい笑みを浮かべるしかなかった。

元々は竜也自身が、私の袖を引いてこう頼んできたのではなかったか。

「玲奈、もっと上を目指したいんだ。お前のヒモなんて言われたくない。だから協力してくれ。ちゃんと勉強したら、お前の会社の役に立ってみせるよ。恩返しさせてほしいんだ」

私はそんな恩返しのことなど求めていなかった。ただ竜也の願いを叶えたい一心だった。

挙句には、竜也が大学院に落ちたと聞けば、多額の投資をしてまで無理やり名門大学へ入れてやったのに。

竜也に金を渡したのは、留学先で周囲のハイセンスな学生たちと並んだ時に、格安の服を着て卑屈になる彼を見て、少しでも自信を持って生活してほしいと思ったからだったからだ。

しかし、全てを手に入れた今、竜也は私が彼の愛を邪魔したのだと逆に恨みを持つようになっていた。

竜也は、絶望的にため息をついた。

「いいんだ、気にすんな。玲奈は傲慢だから何を言っても無駄だ。篠、少ししたらそっちに行くから、今はゆっくり休んでろよ。いつまでもグズグズ騒がれたらたまらないからな」

電話を切ると、竜也は警告するような目つきで私を一瞥した。

前の私なら、竜也の懸念は正しいと言えただろう。

怒鳴り散らし、泣き喚いて、何としても彼の行く手を阻もうとしただろうから。

だが今の私は、無表情のまま竜也の脇を通り過ぎる。

「行きたいなら勝手に行って。私はもう邪魔しないから」

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