二年間の夢を、彼は一言で消した第3話
この話は約2037字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
渉は私が冷戦を仕掛けていると思い込み、二日間私を放っておいた。
でも私の不自然な静けさに気づいて、珍しく家で夕食を食べながら、さりげなく話しかけてきた。
「そういえば結婚式……ホテルのプランをいくつか見たんだけど、どれも立派だったよ」
おかずを一口つまんで、何も答えなかった。
彼は少し気まずそうに咳払いをした。
「つまり、式を国内で挙げた方が楽じゃないかってことだよ、そうだろ?」
箸を置いた。
「何が言いたいの?」
彼は言葉に詰まって、少し居心地悪そうに言った。
「別に、ただのお喋りよ」
気まずい沈黙が続いた。私は不意に口を開いた。
「渉、アイスランドに持っていく荷物リスト、覚えてる?月日が経つのは早いものだわ。もうすぐ使う日が来るね」
彼の目が一瞬泳いで、すぐに少し焦った笑顔を作った。
「なんで急にそんな話を?
凛、あんな遠い場所まで行ったら体が持たないよ。
市内の一番いいホテルで式を挙げようよ?楽だし立派だし」
引き続いて彼は慌ててスマホを取り出した。
「綿が作ったプランを見てくれ、星空の天井に、お花も全部生花で……」
さっと目を通した。どれも派手で浮ついていて、私の好みに合うものはひとつもなかった。
「うん、二人で決めて。私はもう何も言わない」
彼は固まった。私の素直さに戸惑っているようだったが、すぐに喜びが顔に広がった。
「やっと分かってくれたんだな!」
明らかに機嫌がよくなって、ウェディングドレスを試しに行こうとまで言い出した。
ドレスショップで、オフショルダーのドレスに着替えたところで、カーテンがさっと開いた。
綿がタブレットを持って飛び込んできて、興奮気味に渉の隣に駆け寄った。
「渉くん、変えてもらったメインドレスが届いたよ!凛さんきっと気に入ってくれるよ!」
そして綿は大げさなくらい華やかなヘッドドレスを手に取った。
「これ見て!私と渉くんが一目惚れしたやつ、凛さんの上品な雰囲気にぴったりだよ!」
渉は違和感を覚えもしなかった。
「綿のセンスは間違いない」
綿はさらに宝石のネックレスを取り出して、彼に渡した。
「渉くん、早く凛さんにつけてあげてよ、あなたが特別に選んだんだよ!」
渉は受け取って、少し不器用にかけようとした。
そのネックレスは、先週、綿のSNSで見た。彼女の首についていたものだった。
店員が困ったように指摘した。
「それは、深いVネックに合わせるものなので、奥様のオフショルダーには少し……」
「変えて」渉はさっさと手を振った。「綿の言う通りにして」
店員は困り顔で私を見た。
渉はそこでようやく思い出したように聞いた。
「気に入ったか?」
「いらない」
渉と綿が同時に固まった。
渉を見て、淡々と言った。
「忘れたの?私、合金アレルギーがある。
二年前の誕生日に似たようなの贈ってくれたじゃない。三日もつけてたら首が痒くなり赤みが出た。
その時、気づいてくれたのも渉だったよね、病院に連れていってくれた」
綿の方に目を向けると、彼女の顔が青ざめていた。
「彼女には言っていなかったみたいね」
渉はネックレスを持ったまま、顔色を悪くして固まっていた。
綿の目にすぐ涙が浮かんで、彼の袖を引いた。
「渉くん、私わざとじゃなかったんだけど……」
渉はすぐに彼女をかばって、私に怒鳴りつけた。
「いちいち嫌味を言うのはやめてくれないか?綿は忙しく動いてくれてる、全部お前のためだろ!
ネックレス一本のことで、こんなに場を白けさせてどうするんだよ。
少しは分かってくれないのか?」
彼が別の女をかばおうとする姿を見て、あまりにも滑稽だと思った。
「渉、私に分かれというくせに、あなたの要求って本当に多いね」
痛いところを突かれたように、渉は急に手を払いのけた。
「そうだよ!お前のそういうところが本当に嫌なんだ!」
綿が彼の腕に絡みついて、耳元でそっと言った。
「渉くん、もういいよ……」
渉は鼻で笑って、声を張り上げた。
「言わせろ!俺は限界だ!
細かいことにこだわって、疑って、大げさに騒いで、だからお前の心臓がそんなに弱くなるんだよ。ちょっとしたことですぐ具合が悪くなって、誰のせいだと思ってるんだ?
だいたいお前にはいつも言い訳がある!俺がお前の腎臓を半分借りてるから、それを盾にしてるだけじゃないか!」
ショップの空気が一瞬で固まった。店員はうつむいて別の仕事を忙しそうにこなすフリをした。
心臓が冷たい穴に落ちていくようだった。
彼の中では、命をかけた私の選択が……
わがままを言うための、同情を引くための道具でしかなかったのだ。
私がまだ惨めにも期待していたなんて。世界を旅する結婚式の約束を、彼が覚えていると。
怒りで歪んだ彼の顔を見つめた。
ふと、腎臓移植手術が終わったばかりの頃のことを思い出した。
夜、眠れなくて、何度も手を伸ばして私の鼻先に当てて息を確かめていた。
あの時の彼の手は震えていた。怖くて仕方がないという表情をしていた。
怖さと嫌悪は、紙一重しか違わなかったのだ。
何も言わなかった。ただ静かに二人を一瞥して、背を向けて出ていった。
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