二年も延期された旅行が、愛人のためだった第3話
この話は約1754字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「晴香、旅行の航空券、予約しておいたよ」
拓海はスマホを見せ、訪れる予定の観光地をひとつひとつ嬉しそうに紹介している。
二年間心待ちにしていた旅行結婚の計画が、ついに目の前に差し出された。
でも、それは私が泣いて騒いだ末に手に入れたものだ。
愛情なんて感じられない。
私がこれほど手を尽くして、やっと手に入れたものを、あの女はたった二ヶ月であっさりと手に入れた。今、私の中にあるのは、ただ言葉にできないほどの、言いようのない痛みだけ。
いっそ全部破り捨ててしまいたいほど、憎かった。
だが、私はその感情を抑え込んだ。
なんといっても、十年も共に過ごした二人、絡み合ったものがあまりに多い。
すべてに決着をつける時間が、私には必要だ。
「晴香、旅行の準備をしてくるけど……いいかな?」
拓海が様子を窺うように聞いている。
私は彼に逃げ道を与える。
「それなら帰りに和菓子屋で苺大福を買ってきて。急に食べたくなったから」
「わかった」
私が仲直りする気になったと思ったのでしょう、拓海はほっとしたように笑った。
出かける前、彼は振り返って言った。
「晴香。結衣のことはもう断ったよ。一人で行ってもらうことにしたから」
ドアが閉まると、すぐに拓海からビデオ通話がかかってきた。
私を一人にしておくのが不安なのでしょう。
それから数日間、彼は外出するたびにビデオ通話をかけて来る。
まるで私に片時も目を離したくないと言わんばかりに。
私が以前と変わらない様子を見せ続けると、彼も次第に安心している。
結衣が飛行機に乗る日、拓海はわざわざ搭乗前の写真まで送ってきた。
「晴香、これで安心した?」と彼は聞いた。
私は頷き、続けて結衣の連絡先を消すように求めた。
拓海は驚くほどあっさり従った。結衣の携帯番号も、会社用の連絡先まですべて削除し、ブロックした。
皮肉なことに、私がわがままであればあるほど、彼は安心していくようだ。
そして私たちの日常も、表面上は元に戻ったように見えてる。
だがそんな日々が続いたある日、会社からの指示で、拓海が結衣を迎えに行くことになった。
彼は「変なことは考えないで、最初から最後までビデオを繋いでおくから」と言っていた。
結衣から突然、LINEの友達申請が届いた。
承認して間もなく、彼女は写真を何枚か送ってきて、すべてベッドでのツーショット写真だった。私が既読にしたのを確認すると、すぐに送信取り消しをした。
その下にニコッと笑うスタンプを添えている。
【あっ、ごめんなさい。送り先間違えちゃいました】
【でも綺麗な景色だから、そのままプレゼントってことで♪】
【先輩のスマホ、充電切れちゃってるんです】
【このあと、取引先の商談のパーティーに付き合ってもらうので、今日はビデオ通話できないって晴香に伝えてほしいって言われました】
続いて、別のメッセージだ。
【斎藤さんと先輩って本当に仲良しですよね】
【お仕事中なのに、わざわざ伝言まで頼まれるなんて】
【こんな素敵な人、絶対手放しちゃダメですよ♡】
彼女はスタンプを送ってきたが、それが見るに堪えないほど卑わいな写真と一緒になっていると、皮肉にしか見えなかった。
私は返事をせず、会社へ向かった。
異動届に同意のサインをする時、胸の中ではいろんな思いが千々に乱れていた。
以前、私が本社への異動候補に挙がったと知った時の拓海を思い出した。
彼は不安そうな顔で、私を抱きしめながら言った。
「俺の将来には、いつだって晴香がいるんだ。
もちろん晴香を応援したいけど……正直、怖いんだよ。
晴香がいなくなったら、二人で描いてた未来が、俺一人のものになってしまうから。
晴香、俺はなんて自分勝手なんだろう。晴香なしじゃ生きられない。会社を辞めてついていくことも考えた……
でも晴香、今の生活も、今の仕事も、長い時間をかけて築いてきたものだから……急にすべてを捨てろと言われると、どうしても迷ってしまうんだ」
今となっては、彼はもう迷う必要はない。
二人で描いた未来の設計図から、私は身を引き、その席を結衣に譲ったのだから。
これからは、私たちは別々の道を歩むことに。
会社から渡された新幹線の切符を握りしめながら、私はこのまま拓海と顔を合わせることはないでしょうと思っていた。
だけど、オフィスのドアを開けた瞬間、私は拓海と結衣に鉢合わせてしまった。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R67207- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。