二年も延期された旅行が、愛人のためだった第2話
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私は彼をじっと見つめた。
こんな言葉を、どうしてそこまで真に迫った顔で口にできるのかしら。
私が黙ったままでいると、拓海はひどく焦った。
あの子は単なる職場の後輩であり、深い意味はないと彼は釈明を繰り返している。
「旅行プランを立てたのは、彼女が旅行先で遅くなって、部署の仕事に支障が出るのを避けたかったからだ。
やましいことなんて何もない。頼むから、変な勘繰りをやめて。
晴香、もし気に食わないなら彼女をブロックしてもいい。二度と会わないと約束する。別れようなんて脅しはやめてくれ、いい?」
私は指先で画面をスクロールした。
目に焼き付くようなチャットの履歴が、次々と脳裏に突き刺さる。
友達以上、恋人未満。
これが彼の言う「深い意味はない」という関係の実態だった。
「拓海、あんたが私を世間知らずの大学生か何かだと思ってるの?
ブロックしたって、どうせすぐに解除するんでしょ? 同じ部署にいる以上、会わないなんて不可能な話よ。
行き届いた旅行プラン。宿泊先から観光地、食事の店まで……
それらのプランを私は二年もずっと待ち続けていた。
あの女は、たった二ヶ月で手に入れた。
一線を超えたようなこの親切も、部下を大切にするための一環なの?」
そこまで言い切ると、私は黙って彼の返答を待った。
息が詰まるような時間だった。
彼が残業だと信じて気遣っていた夜、まさか他の誰かのために旅のプランを作っていたのだ。
その事実は、悪意に満ちたブーメランのように次々と私を突き刺し、全身の血の気が引いていく。
「頭を冷やしてよく考えて。考えがまとまったらまた連絡して。私たちには、整理しなきゃいけないものが多すぎるの」
私はコートを手に取り、外へ出ようとした。
拓海は一足飛びに私の前に立ちはだかった。
大きな影が私を覆い隠し、ゴツい手が私の腕を強く掴んでいる。彼の目は充血し、喉の奥から絞り出すように言葉がこぼれた。
「行くな」
見つめ合う。無表情だった私の目元が、次第に赤く潤んでいった
焼けるような痛みが胃のあたりから込み上げ、喉を焼き切っていく。
彼を突き放し、私は部屋を出ようとした。
彼は涙を流しながらも、そのまま動かず、「行くな」と繰り返すばかりだ。
その日、私は寝室に引きこもり、ドアを閉ざした。
彼はドアの外から一歩も動こうとしない。
やがて、親友から電話がかかってきた。
「晴香、深沢と何があったの? 取引先との会議にも姿を見せてないんだけど」
私は黙ったままだった。すると向こうで、親友がため息混じりに言い始める。
「あなたたち、いつも熱々だったじゃない。いいから、ここは妥協しなさいよ。あんな男、そうそういないんだから」
「浮気されたの。別れるつもりだから、もう説得しないで」
私の声は震えていた。
親友は一瞬言葉を失ったが、すぐに口を開いた。
「晴香、深沢はあなたが薔薇を好きなのを知ってて、大学の四年間、毎日早起きして一番新鮮な花束を贈ってたじゃない。
あなたが出前の料理を嫌うからって、わざわざ料理の勉強もした。
卒業してからも、私たちがたまにプレゼントを受け取ることがあったけど、あなたがそこまで気が利くタイプじゃないのも知ってる。あれ、全部深沢が手配してたんだよ。
あの人って、本気であなたを愛してるんだから」
締めくくりの言葉を聞き終え、私は電話を切った。
その後も、同級生から恩師、友人、親戚まで、ありとあらゆる所から拓海との復縁を促す電話が鳴り止まない。
最後の電話は母からだった。
「晴香、我儘を言うんじゃないわよ。拓海は私たちにも良くしてくれるし、仕事もできるわ。
他の女性との距離感を間違えただけで、本当に不倫現場を押さえたわけじゃないでしょう? 若い男なんて、そんなこともあるわよ」
指先が震えた。
友人や家族はこんなにたくさんいるのに、今この瞬間、私はひどく孤立していた。
彼らは皆、拓海から利益を得ているのか、それとも私が彼と添い遂げることを当たり前だと思っているのか。
でも、私は嫌だ。
「わかったわ。お母さんの言う通りにする」
そう言って電話を切った。
扉を押し開けると、拓海が床に座り込み、こちらを見上げていた。その瞳には、隠しようもない疲労と不安が刻まれていた。
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