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九十九回の諦め第2話

この話は約1606字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私の従順さに、家族は一瞬言葉を失う。

しばらく沈黙が続いたあとで、父がようやく口を開く。

「そうだ、それでいい。みんな家族なんだから、話せばわかるだろ。俺だっておまえのためを思って言ってるんだ」

「うん、わかってる」

私は素直にうなずき、顔に麻痺したような笑みを浮かべる。

私が本当に気にしていないように見えたのか、家族は安心したように紗月の手を取って、再びリビングへ戻っていく。

私は少しだけ足を止め、それから二階の自室へ向かって歩き出す。

階段を上がろうとしたそのとき、手首を誰かに掴まれる。

怜司だ。

いつの間にかすぐそばに来ていて、耳もとで小さくささやく。

「本当に……怒ってないのか?」

その優しい声を聞いた瞬間、こらえていた涙があふれ出す。

胸の奥に積もった言葉は山ほどあるのに、私はただ黙って首を横に振ることしかできない。

怜司は安堵したように小さく息をつき、そして言う。

「やっぱり、澪はしっかりしてると思ったよ。ちょっとしたことで怒るような子じゃないって。

それでな、ひとつ相談があるんだ……」

彼は視線をそらし、少し言いづらそうに続ける。

「来週の結婚式、少し延期しようと思ってる。

おまえの妹に約束してたんだ。成人したらオーロラを見せてやるって。

もう成人式も終わったし、あの子が行きたいって言うからな。だから、数日後にみんなで旅行に行こうと思ってるんだ。どうだ?」

怜司は穏やかに微笑み、目の奥が、やさしく光る。

「招待状もまだ出してないし、結婚式なんて数日ずれても問題ないだろ?」

その笑顔を見た瞬間、胸の中がすっと冷たくなる。

さっきまで感動して流していた涙が、急に滑稽に思える。

――九十九回も見捨てられてきたのに、どうしてまだ期待してしまうのだろう。

私が黙り込んでいると、怜司は少し苛立ったように頭をかく。

「紗月は今まで一度も海外に行ったことがないんだ。

家族なんだから、初めての旅行は一緒に行ってやりたいだろ?

それに、おまえもオーロラを見たことないだろ?新婚旅行の予行練習みたいなもんさ」

「……いいよ」

説得を続けようとしていた怜司の動きが、一瞬止まる。

「……今、なんて言った?」

深く息を吐いて、私は静かに答える。

「結婚式をやめようって言ったの」

怜司が眉をひそめ、不機嫌そうに言い直す。

「やめるって何だよ。延期だ。結婚式をやめるわけないだろ」

私は視線を落とし、口の端だけでかすかに笑う。

――何が違うの?

紗月がいる限り、私たちの結婚式なんて、きっとまともに進まない。

あの子は昔から、私のことが気に入らない。

それに、私が持っているものすべてを欲しがっている。

小さいころからわかっていた。

どれだけ頑張っても、私は彼女には勝てない。

家族の愛情はいつも彼女のほうへ向かっていて、その偏りこそが、彼女が私を見下ろし続けられる理由だ。

そして今は、婚約者までが彼女の味方をしている。

目の奥が熱くなり、喉の奥がひりつく。

さっき飲んだマンゴージュースのせいで、肌のあちこちがじわじわとかゆくなっていく。

私は軽くうなずいて、背を向ける。

「……わかった」

そのまま階段へ向かう。

寝室には常にアレルギー薬を置いてある。

症状が出る前に飲まないと。

背後から、甘ったるい声が響く。

「お姉ちゃん、もしかして怒ってるの?私が怜司さんとオーロラを見に行くから?」

振り返らずに、私は歩みを速める。

紗月はいつもそうだ。

私が何もしていなくても、少し涙を見せて、大げさに騒げば、家族はみんな、簡単に彼女の味方になる。

陽介が真っ先に声を荒らげる。

「いい加減にしろよ、澪!紗月が話しかけてるのに無視する気か?

さっきまで『怒ってない』って言ってたくせに、この態度はなんだ!」

その怒鳴り声にも、私は反応しない。

こういう理不尽な責めは、子どものころから何度も経験してきた。

だからもう、表情ひとつ変えずにやり過ごせる。

二階へ足をかけた瞬間――頭皮を鋭い痛みが走る。髪を、誰かに強く引かれる。

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