中古PCの壁紙が婚約者の裸でした第1話
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私は三枝麗奈(さえぐさ れいな)。
ある日、フリマアプリで中古のノートパソコンを購入した。
届いた箱を開け、何気なく電源を入れる。すると、立ち上がった画面の壁紙に映し出されたのは――婚約者の手塚有博(てづか ありひろ)の、全裸の無修正写真だった。
頭の中が、一瞬で真っ白になる。
どういうこと?
まさか神様のいたずら?
有博の持ち物が巡り巡って、また私のところに戻ってきたってこと?
混乱したまま、有博に電話をかけようとスマホを手に取った、そのときだった。
知らない番号から、着信が何度も続けざまに入る。
恐る恐る出ると、受話器の向こうから若い女の声が飛び込んできた。
「すみません!彼氏のパソコンを間違えて送っちゃいました!そのパソコンの中に大事な仕事のファイルが入ってるんです。絶対に触らないでください!
すぐ本来送るはずだったパソコン、送り直します!送料も全部こちらで負担しますので、中のファイル、本当に触らないでくださいね!」
電話越しに響くその言葉が、胸の奥に重く沈んだ。
甘ったるい声が、やけに耳に残る。
有博には――いつから、私以外の彼女がいたの?
* * *
私は三枝麗奈(さえぐさ れいな)。
ある日、フリマアプリで中古のノートパソコンを購入した。
届いた箱を開け、何気なく電源を入れる。すると、立ち上がった画面の壁紙に映し出されたのは――婚約者の手塚有博(てづか ありひろ)の、全裸の無修正写真だった。
頭の中が、一瞬で真っ白になる。
どういうこと?
まさか神様のいたずら?
有博の持ち物が巡り巡って、また私のところに戻ってきたってこと?
混乱したまま、有博に電話をかけようとスマホを手に取った、そのときだった。
知らない番号から、着信が何度も続けざまに入る。
恐る恐る出ると、受話器の向こうから若い女の声が飛び込んできた。
「すみません!彼氏のパソコンを間違えて送っちゃいました!そのパソコンの中に大事な仕事のファイルが入ってるんです。絶対に触らないでください!
すぐ本来送るはずだったパソコン、送り直します!送料も全部こちらで負担しますので、中のファイル、本当に触らないでくださいね!」
電話越しに響くその言葉が、胸の奥に重く沈んだ。
甘ったるい声が、やけに耳に残る。
有博には――いつから、私以外の彼女がいたの?
電話を切ると、私は無理やり気持ちを落ち着けようとして、震える指でマウスを動かした。
壁紙以外には何もない。不気味なくらい整然としたデスクトップに、「My Treasure」と名付けられたフォルダが一つだけ置かれていた。
有博も昔、同じ名前のフォルダを私のために作ってくれたことがある。そこには、子どもの頃からの二人の写真がぎっしり保存されていた。
心臓が「どくん」と嫌な音を立てる。
あり得ないはずの考えが、不意に頭の中に浮かんだ。
――有博が、浮気?
その考えは一瞬だけよぎって、私はすぐに首を振って打ち消した。
だって私は知っている。たとえ世の中の男がみんな裏切ったとしても、有博だけは違う。
私たちは近所のみんなに見守られて育った、幼なじみなのだから。
有博は私を愛していた。
毎月の生理の時期をちゃんと覚えていて、前もってカイロや温かい飲み物まで用意してくれるくらいに。
スマホも、パソコンも、SNSも――どれも私の誕生日をパスワードにしてしまうくらいに。
それに、結婚式はもう半月後に迫っている。
だからこれはきっと、何かの間違いに決まっている。
私は深く息を吸い込み、胸の奥で膨らみ続ける正体のわからない不安を、必死に押し込めようとした。
フォルダをダブルクリックする。
次の瞬間、画面に表示された写真を見て、思考が止まった。
そこに写っていたのは、有博と見知らぬ女の子が肩を寄せ合っている姿だった。
全身の血が一瞬で凍りついた。
頭の中が真っ白になって、息さえ止まりそうになる。
一枚、また一枚と写真をめくるたびに、そこに映る現実が、必死に目をそらそうとしている私を逃がしてくれなかった。
有博は、本当に浮気していた。
それなのに私は――もうすぐ彼の花嫁になれるのだと信じて疑わなかった。
……なんて滑稽なんだろう。
どれくらい呆然と座り込んでいたのか、自分でもわからない。それでも私は、無理やり気持ちを落ち着けた。
真っ先にスマホを開き、七日後のパリ行きの航空券を予約した。
パリは、絵を学ぶためにずっと憧れていた街だった。
有博と一緒にいるために、私はその夢を一度、手放した。
でも、もう二度と諦めない。
今度こそ絵筆を握り直して、恋のために置き去りにしてきた夢を、自分の手で取り戻す。
それから私は、パソコンの中にあったあの写真をすべてまとめて、幼なじみの柴田美里(しばた みさと)に送った。
送った途端、美里から電話がかかってきた。声は驚きと怒りで震えていた。
「有博って、ほんとに最低……こんなの許せない。待ってて、今から私があいつに思い知らせてやるから」
私はその言葉を途中で遮った。
自分でも驚くほど、声は静かだった。
「いいの。土曜日、両家の顔合わせの席で――私が自分で終わらせる」
一度だけ息を整えてから続ける。
「美里、お願いがあるの。有博にとびきりの贈り物を用意したい」
言い終えた瞬間だった。
背後から、有博の声が不意に響く。明るくて、いつも通り優しい声。
「麗奈、何を買ってきたと思う?」
振り返ると、有博は私の好きな店のシュークリームを手に立っていた。
けれど私の顔を見た途端、その笑顔がふっと消える。
「麗奈?どうした?目、赤いけど……」
袋をその場に置くと、有博は足早に近づいてくる。腕を伸ばして抱き寄せようとして――
私は反射的に身を引いた。
思わず口を開いた。
けれど、出てきた声は自分の声とは思えないほどかすれていた。
「有博、あなた……」
続きを言おうとした、そのときだった。
突然、有博のスマホが鳴った。
有博はとっさに画面を見て、顔をこわばらせる。
慌てて音を止めると、そのまま画面を伏せるようにしてテーブルに置いた。まるで見られたくないものでもあるみたいに、その動きは妙に早かった。
「ただの……営業の電話だよ」
そう言った声が、わずかに上ずっている。
でも、私は見てしまった。
画面が光ったほんの一瞬、そこに表示されていた名前を。
――日菜。
取り繕うように笑うその顔が、ひどく滑稽に見えた。
私は顔を上げ、有博をまっすぐ見つめる。
「有博、私のこと、愛してる?」
有博は一瞬きょとんとして、それから吹き出すように笑った。
甘やかすように、指先で私の鼻先を軽くつつく。
「ばかだな。急にどうしたんだよ。愛してるよ。当たり前だろ」
私はその目をじっと見据えたまま、静かに問いかけた。
「じゃあ――雨宮日菜(あまみや ひな)は?あの子のことも、愛してるの?」
雨宮日菜。
それが、あのパソコンを売っていた女の名前だった。
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