三度目の番を逃した日、花嫁は選び直した第2話
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通りかかった職員たちがその様子を見て、翔大と咲子をからかうように声をかけた。
「仲のいいご夫婦ですね。
こんなところで足を揉んであげるなんて、見てるこっちが照れちゃいますよ」
咲子は恥じらうように頬を染めた。
翔大は気まずそうに笑っただけで、特に否定もせず、誤解を解こうともしなかった。
私は何も言わず、椅子へと戻った。
鼻の奥がツンとしたが、どうにか涙をこらえた。
咲子は電光掲示板をこっそり確認し、私たちの順番が過ぎたのを確かめると、つっていたはずの足もすっかり治ったようだった。
翔大の手を取って立ち上がり、振り向いて気まずそうに私へ笑いかけた。
「依織、本当にごめんね。私のせいで順番過ぎちゃって」
翔大は咲子を支えて椅子に座らせてから、ようやくこちらを向き、咎めるような目を私に向けた。
「何をそんなに急かすんだよ!
お前が急かすから咲子の足までつったんだろ。少しくらい待ってやれないのか?」
咲子はいかにも申し訳なさそうに翔大の袖を引き、まるで私をかばうように言った。
「翔大、そんな言い方しないで。
依織も入籍のことで焦ってるだけだから。ただ……番号札はもう一度取り直さなきゃね」
私は何も言い返さず、ふたりのほうも見なかった。
立ち上がって番号札の発券機のところへ行き、新しい番号札を取った。
機械のそばにいた職員が私のことを覚えていたのか、ため息まじりに声をかけてきた。
「もう何度も順番を逃していますよね。今度こそ順番を逃さないようにしてくださいね。
本日の日曜開庁での受付は、これが最後になります。間に合わなければ、平日にもう一度お越しください」
私は振り返り、座席のあたりへ目をやった。
翔大が咲子の耳元に顔を寄せ、何か話している。ふたりとも肩が揺れるほど笑っていた。
「わかりました。ありがとうございます」
翔大。これが、あなたに与える最後のチャンスだ。
私は番号札を手に、また席へと戻った。
バッグの中でスマホが鳴った。母からだった。
私は電話に出た。
「依織、翔大くんと婚姻届、もう出した?
朝8時に家を出たんじゃなかったの?ご飯、もう2回も温め直したのよ。どうしてまだ帰ってこないの?」
私は俯いたまま、母に何と言えばいいのか、一瞬わからなくなった。
長い沈黙のあと、母も何かがおかしいと気づいたようだった。
「またあの咲子って子も一緒なんでしょう?またあの子が何かやらかしたんじゃないの」
鼻の奥がツンと熱くなり、こらえていた悔しさが一気にこみ上げてきた。
「うん……2回も順番を逃しちゃって」
母は大きく息を吸い込んだ。
「依織、仏の顔も三度までって言うでしょう。彼に誠意がないなら、たとえ婚姻届を出したところで、結婚してからだってろくな暮らしにならないわよ。
電話、翔大くんに代わりなさい。私から言うから」
私は振り返り、スマホを差し出した。
「母が、あなたと話したいって」
翔大はちょうど咲子と楽しそうに話し込んでいたところを、不意に遮られた形になった。
目の奥に不快そうな色を浮かべながらも、電話を受け取った。
声の調子を和らげて応じた。
「お義母さん、どうしました?」
「まだ婚姻届、出してないんでしょう。まだ入籍してないんだから、『おばさん』で結構よ。依織は朝早くから支度して出かけて、1番の番号札まで取ったのよ。一番乗りで出そうとね。あなたの遅刻はもういいとして、どうしてまだ出せてないの?」
翔大は私をちらりと睨んで答えた。
「依織、また愚痴ったんですか?
本当に大したことじゃないんです。ただ途中で咲子にちょっと用事があって、順番を逃しちゃって。今はもう取り直してます。あと少し待つだけで、ちゃんと間に合いますから」
母は翔大のその投げやりな口調にますます腹を立てた。
そのまま大きな声で言い放った。
「大したことじゃない?婚姻届を出し損ねることが大したことじゃないの?
翔大くん、依織と入籍するっていう日に、よその女の子を連れ歩いて邪魔させるってどういうつもり?咲子もよ、人の結婚に割り込むようなことして、図々しいにもほどがあるわ!」
母の声はかなり大きかった。
そばにいた咲子にも聞こえていたのだろう。たちまち目を赤くして涙をこぼし始めた。
咲子は私のそばへ駆け寄り、電話越しの母に、いかにも傷ついたような声で訴えた。
「おばさま、ごめんなさい。
本当に、わざとじゃないんです。依織とは長い付き合いの友達で……依織が入籍するって聞いて、ただこの目で見届けたかっただけなんです。他意なんてありません」
咲子が泣き出したのを見て、翔大の母に対する口調もきつくなった。
「おばさん、咲子にも、もう少し礼儀をわきまえて接してもらえませんか。咲子だって依織の友達なんです。
悪気があってやったわけじゃないんですし、そんなに強く責めることでもないでしょう」
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