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七年目の裏切り――私は身代わりだった第2話

この話は約1669字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

結衣は一晩かけて荷物を整理した。

服、本、この家で少しずつ増やしてきた小物や壁掛けもすべて。

かつては自分がこの家の女主人になると信じて、心を込めて飾りつけた場所。

けれど、その持ち主と一緒に、この家から消えるべき時が来た。

その夜、雨は一晩中降り続いた。

司が帰ってきたのは翌朝だった。白いシャツ一枚のまま、全身びしょ濡れで、結衣を見ると、一瞬だけ視線が泳ぎ、気まずそうに笑った。

「もっと寝てればよかったのに。なんでこんな早く起きてるの?」

「朝の空気が気持ちいいから」

司はうなずき、特に気にも留めずに言った。「じゃあ、先にシャワー浴びてくる」

「司」

「ん?どうした?結衣」

「昨日の夜……」

「ああ、昨日は残業だよ。クライアントが急に作業を言いつけてきてさ、徹夜で片付けて、飯食う暇もなかった。ほんと疲れたよ……」

人は嘘をつくとき、やたらと饒舌になる。

細かい話を盛り込み、少しでも信じてもらおうとする。

司もそういう人間だった。

普段は口数が少なく、なだめるでさえ長々と言葉を連ねることはないのに。

「ただ聞きたかっただけ。昨日出かけたときはコート着てたよね。そのコートは?会社に忘れた?」

司はほっとしたように息をつき、笑って答える。「ああ、会社だよ。大丈夫、寒くない」

「そうか。じゃあ早くシャワー浴びてきて」

司は近づいてきて、結衣の髪をくしゃっと撫でた。「俺の結衣は、そんなに俺のこと心配してくれるのか?」

結衣は軽く頭を傾け、手を避けるようにすり抜けた。

「早く行って。濡れたままだと体に悪いよ」

司の手が宙に止まり、少し驚いた顔をする。けれど、自分のびしょ濡れのシャツを見下ろして笑った。「そうだな。結衣まで濡らすわけにはいかないしな」

やがて浴室からシャワーの音が聞こえてくる。

結衣はこれまで司のスマホを覗いたことはない。

司も、彼女が見るとは思っていないのか、いつも無造作に置いている。

――ブッ。

スマホが震えた。

【唯:ショートケーキ、もう家に着いた?】

【唯:コートありがとう。本当にあったかかった】

驚きはしなかった。

昨夜、彼が慌てて出て行ったとき、結衣の中ではすでに予想がついていた。

ただ、予想と現実は別物だ。

結衣は自分のスマホで、唯のアカウントを検索した。

30分前に、新しい投稿があった。

雨の中、唯が楽しそうに駆け回る動画。

小さな精霊のような無邪気で、愛らしい笑顔。

やがて彼女は立ち止まり、後ろから大きなコートがふわりと包み込む。

その男の声は、結衣が一度も聞いたことのないほど優しかった。

「ゆっくり走れよ、風邪ひくぞ」

唯が笑いながら言う。「あなたがいるなら、何も怖くない」

彼はくすっと笑い、甘やかすように答えた。「ああ、ずっと後ろにいる」

動画のコメントにはこう書かれていた。【巡り巡って、ずっとあなたがここで待っていてくれた】

司が髪を拭きながら浴室から出てきた。「スマホ鳴らなかった?」

結衣はテーブルを指差した。「なってたよ」

司はすぐさま駆け寄り、結衣の手から勢いよくスマホを奪い取った。

驚くほどの力で。

返信を終えてから、自分の態度に気づいたのか、ぎこちなく言う。「クライアントに送る資料があって……痛くなかったか?」

「平気。じゃあ、私、出かけるね」

司が追いかけ、手首をつかむ。「結衣、怒ってる?」

「怒ってない」

怒る資格すらない気がしていた。

司の視線が、部屋の隅に積まれた大きなゴミ袋に向く。「大掃除でもしたのか?なんでこんなに捨てるものがあるんだ?」

「うん」

「じゃあ俺が下まで運ぶよ」

「司、浴室に何か足りないものがあるって、気づかない?」

「……いや、別に。あ、ボディソープ切れた?買ってくるよ」

結衣はただ、静かにうなずいた。

浴室には、色違いのお揃いのタオルや歯ブラシ、スリッパ。

彼のは青、結衣のはピンク。いつも並んで置かれていた。

けれど昨夜、結衣は自分の分をすべて片付けた。

残っているのは、彼の物だけ。

司は気づかなかった。

たぶん他のことで頭がいっぱいなのだろう。それとも、最初から気にしていなかったのかもしれない。

結衣はもう、確かめようとは思わなかった。

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