七年後、夫が私と娘に泣き縋る第3話
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「ママ、パパにもう一度チャンスあげようよ?
私の誕生日までにパパが覚えてなかったら、その時は出て行こう」
「うん」
渡辺千明、これが私と安珠からあんたへの最後のチャンスだ。
翌朝、私は娘といつものように露店を出した。
本当は私も名門大学を出ていた。
けれど、出産で社会から離れすぎて、もうどこの会社も雇ってくれなかった。
仕方なく、安珠を連れて公園で露店を出すしかなかった。
私はお菓子やおもちゃなどを売り、安珠はその横で歌ったり踊ったりして客を呼び込む。
安珠は人懐っこくて甘えも上手だ。
その愛らしさに惹かれて、多くの人が私の店に立ち寄ってくれた。
「店主、このアイスいくら?」
「一つ六十円、二つで百円です」
顔を上げて、思わず息をのむ。買いに来たのは思月だ。
「じゃあ二つちょうだい。早くしてね、うちの人にバレたら困るから」
まるで泥棒のように、思月は百円を差し出し、辺りを気にしながらアイスをポケットへ押し込んだ。
そのとき、不意に大きな手が横から伸びてきて、彼女の手を掴んだ。
「思月、何度言えばわかるんだ。生理中で生理痛もあるのに、冷たいものはダメだ。
すみません、このアイスはなしで」
視線が交わった瞬間、千明の顔は一気に険しくなる。
なのに、思月は気づかないふりをする。
「いいじゃない、千明。見てよ、この子ども、すごく可愛いじゃん。二つくらい買ってあげようよ、商売の助けになるし」
その憐れみを帯びた眼差しは、むしろ私の心を鋭く突き刺した。
「痛っ!」
ちょっとの間の不注意に、手にしていた編み棒が指を突き抜け、鮮血がにじみ出た。
私の血を見た千明は眉をひそめ、思わず近寄ろうとした。
「千明!お腹が痛い!」
次の瞬間、思月が腹を押さえて呻き声をあげた。
その声に反応して、千明はすぐに振り返り、彼女を抱き上げた。
千明の肩に頭を預けながら、思月は私に向かって得意げに笑った。
最初から、彼女は私が誰か知っていたのだ。
その瞬間、胸の奥に鋭い針が刺さったように、心が痺れて痛くなる。
「ママ、大丈夫?」
安珠は何もわからず、心配そうに私の傍に寄って、小さくフーフーと息を吹きかけてくれる。
「大丈夫よ」
私は安珠を抱きしめ、その温もりにすがった。
幸い、私には安珠がいる。
千明は思月を抱えたまま立ち去ろうとしたが、安珠は何も知らずに、彼を呼び止めようとする。
「パパ!ママが怪我してるよ!手当してあげて!」
その声に、千明の足が一瞬止まる。
だが結局、振り返ることもなく歩き去った。
かすかに、思月の声が耳に届く。
「千明、あの子……あなたの娘なの?」
「知らない。人違いだろう」
人違いだ。
五年もの間、彼は私と娘が共に過ごしてきたのに、最後に残されたのは、ただその一言だ。
私は娘の頭を優しく撫でながら言う。
「聞いたでしょ、安珠。あの人はパパじゃないの。私たちが人違いしただけ」
夕方、楽器店から突然電話がかかってくる。
「お客様のピアノが届いております。ご自宅での受け取りをお願いします」
その言葉を聞いた私は、急いで安珠を連れて家に帰った。
すると、千明がすでに家にいた。
私が口を開く前に、彼は私の腕を引いて寝室に連れ込んだ。
「手、大丈夫か?」
彼は私の手を取って、丁寧に確かめる。
私は手を引っ込めて、急いで問いただす。
「手は大丈夫。それより、ピアノはどこ?」
「ピアノ?なんのことだ」
私は彼が安珠にサプライズを用意しているのだと思い、笑って答える。
「隠さないで。楽器店からもう連絡があったわ」
その瞬間、千明の目がわずかに揺れる。
「多分間違い電話だろ。安心しろ、時間ができたら買うから」
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