七年の嘘、愛も憎しみも虚しく第2話
この話は約1791字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
重い足取りで家に戻ると、玄関に入った瞬間、自分の荷物が無造作に床に投げ出されているのが目に入った。
ちらりと床に転がる父の遺影が目に映り、私の顔色は一瞬で蒼白になった。
震える手で遺影を拾い上げ、赤くなった目で使用人に怒鳴りつける。
「誰が……誰が勝手にお父さんの遺影に触れろって言ったのよ!」
使用人は一瞥もくれず、冷たく言い放った。
「旦那様のご指示です。文句があるなら旦那様にどうぞ」
その口調はあくまで蔑みを隠さず、私のことなどこの家の女主人とも思っていない様子だった。
この家での私は、きっと犬以下の存在だ。
背後から声が響いた。
「俺がやらせた。何か文句でも?」
振り返ると、嘉山が明らかに不機嫌そうに私を見下ろしていた。
「真夏が帰ってくるんだ。彼女は南向きの部屋が好きだから、お前の部屋は明け渡せ。お前はこれから使用人部屋でいいだろ」
そう言って、彼は床に散らばった安っぽい服を一瞥し、皮肉げに口元を吊り上げる。
「どうせお前なんて、小さい頃からそんな暮らししてただろ?別に苦労でもないだろう」
嘉山は、私の出身をずっと蔑んできた。私が彼と結婚したことすら、彼にとっては家の名誉を汚すものらしい。
玉の輿とはよく言うけれど、どんな悔しさも飲み込んで、表には出せないものだ。
でも、もうこれ以上我慢したくなかった。
父の遺影をそっとしまい、私は黙って外へ向かった。
私が使用人部屋へ行かないのを見て、嘉山は眉をひそめ、私の腕をつかんだ。
「どこに行く気だ?」
私は冷たく答える。
「真夏が戻ってくるなら、私はここにいる必要ないでしょ」
嘉山は舌打ちしながら言った。
「お前も分かってるじゃないか。でもまあ、別に出ていく必要はない」
彼はまるで施しを与えるように顔を上げて告げた。
「真夏がさ、海外にいた時に一番恋しかったのはお前の作る白玉入りのおしるこだと言ってた。この間、お前はここにいて彼女のために料理を作れ」
そして、何か思い出したように冷たく念を押す。
「それから、真夏には絶対に言うな。俺がお前に触れたことは。お前も分かってるだろ?知られたらどうなるか」
そのまま、私の手首をぐっと強く握り、目に脅しを光らせた。
口の中に、あのピル入りの牛乳のえぐみが蘇る。
私は静かに頷いた。
「分かってる。あなたたちの邪魔は絶対にしないから」
もう二度と。
嘉山は満足げに頷き、二階へ上がっていった。
しばらくすると、家にブランドもののスーツや高級腕時計を抱えたスタッフがやってきた。
私は、彼がここまで楽しそうに、そして真剣に誰かを迎えようとしている姿を初めて見た。真夏のためなら、どんな手間も惜しまないのだ。
私には、彼の惨めで荒れた姿しか見せてこなかったくせに。
夜、嘉山は真夏を連れて帰ってきた。
私が使用人服のまま、おしるこを運ぶと、真夏は一瞬、得意げな目をしたが、口では申し訳なさそうに言った。
「あら、時雨さんに作ってもらうなんて悪いわ。あなたは相澤家の奥様なのに」
嘉山は彼女を見つめ、優しい目で微笑む。
「俺にとって、俺の奥様は真夏だけだ。料理を作るのは、あいつの役目だ」
私はただ木偶のように二人のいちゃつきを聞き流した。しかし、おしるこをテーブルに置こうとしたその時、突然、腕を何かにぶつけられた。
熱々のおしるこが飛び散り、手の甲が真っ赤になった。
痛みをこらえる間もなく、嘉山は私を突き飛ばし、怒鳴りつけた。
「何してるんだ!真夏に怪我でもさせたらどうする!」
彼は大切そうに真夏を抱き上げ、ソファの前で片膝をつき、彼女のハイヒールについたおしるこを丁寧に拭き取った。
私は顔を上げ、ちょうど真夏の挑発的な視線とぶつかった。
「嘉山、時雨さん怒っちゃったのかな?私、ただ彼女の手作りが飲みたいって言っただけで、使用人扱いしたつもりなんてないのに……」
彼女のか弱げな声が、嘉山の保護欲を刺激したのだろう。彼は振り返り、私を睨みつけた。
大股で近づき、私の手を床の割れた陶器の破片に無理やり押しつける。
「真夏を傷つけようなんて、許さない。少しは痛い目を見ないと、わからないようだな!」
私の両手が血だらけになるまで、彼の怒りは収まらなかった。
ずっと歯を食いしばって声を上げなかった私を見て、嘉山は一瞬だけ動揺し、手の力を少しだけ緩めた。
その時、真夏の甘える声が響く。
「嘉山、上に行こうよ。あなた、私のために用意してくれたプレゼントがあるんでしょ?」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)