一寸の恋、一寸の災い第1話
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神に誓って、桜庭加豆子(さくらば かずこ)は本当にいい子だった。
一条家に引き取られて十八年、彼女は養育の恩に報いたくてたまらなかった。
だが、一条おじさんが提案した政略結婚には応じられなかった。
なぜなら、加豆子の心は、すでに一条佑翔(いちじょう ゆうと)に全部奪われていたからだ。
そして彼女の十八歳の誕生日の夜、酔っ払った佑翔にベッドに誘われて……
あの夜以降、体だけでなく、心までも彼に捧げてしまったのだった。
* * *
「んっ……」
首筋に走る微かな痛みが、桜庭加豆子(さくらば かずこ)の思考をかき乱した。
霞む視界の先に見えたのは、頬を紅潮させる一条佑翔(いちじょう ゆうと)の顔だった。そしてその瞳には、濃厚な欲望が宿っていた。
「姉ちゃん、ちゃんと集中してくれない?」
佑翔の声は低くかすれ、甘く耳元をくすぐった。
彼は罰を与えるように加豆子のくびれをつかみ、動きを速めた……
深く息を吐くと、満ち足りたように加豆子の胸に顔を埋め、いつものように事後の告白を始めた。
「姉ちゃん、俺がどれだけ姉ちゃんを愛してるか、分かってる?
姉ちゃんがいなきゃ、俺……死ぬよ」
体に残った快感が波紋のように広がっていた。
その上に重ねられた告白が、加豆子にわずかに残っていた理性を、容赦なく砕いた。
佑翔には母乳への異常な執着があり、加豆子は生まれつき豊満で、思春期からブラは毎日替えなければならないほど早く成長していた。
ふたりは、あまりにも相性が良すぎた。
加豆子は震える声で、けれどどこか期待を込めて口を開いた。
「佑翔……結婚しようよ。私、もうすぐ二十八歳になるの。そろそろ……」
だが、その続きを言う前に……
胸元に甘えていた佑翔は、突然体を引き離した。
立ち上がると、肩幅の広い逆三角形のシルエットがあらわになった。
背を向けたまま服を着ていく彼の声は、いつもの冷たく無機質なものに戻っていた。
「そんな話、まだ早すぎる、会社も忙しい。結婚式なんて無理だ」
加豆子は下に敷いていた服をぎゅっと握りしめ、唇を噛んで、遠慮がちに言った。
「式は構わない、籍だけ入れたいの」
佑翔の体が微かに硬直した。
気まずさの漂う空気の中、彼の携帯が鳴った。
佑翔は車を降り、電話に出た。
その間に加豆子は着替えを始めたが、足がもつれて近くの草むらに倒れ込んでしまった。
そのとき、一筋の赤い光が視界をかすめた。
草むらには、小型カメラがあった。
加豆子は震える手でそれを拾い上げ、ボタンの掛け違いにも構わず、佑翔のもとへ駆け出した。
ようやく彼の姿を見つけ、盗撮されたことを伝えようとしたそのとき……佑翔は冷たい声で、電話の向こうに言った。
「映像、届いたか?ちゃんと高画質で撮れてるな?加豆子の顔がはっきり映らないと」
その言葉は雷鳴のように耳元で炸裂した。
加豆子の足が無意識に止まり、頭の中が真っ白になった。
佑翔はスピーカーモードのままだった。
電話の向こうから、男のいやらしい笑い声が聞こえてきた。
「さすが一条社長、あんな極上の女の体を俺たちに見せてくれるとは、太っ腹だね」
佑翔はあざけるように軽く笑い、皮肉すら隠さなかった。
「ただのおもちゃだ。欲しいなら今度貸してやるよ。
清凪のためじゃなきゃ、あんな女に関わる気もなかった。
あと二日でコンクールだ。加豆子に何も起きなければ、清凪は優勝できない。ピアノは清凪の夢だ。
清凪が悲しむ顔なんて、見たくないからな」
……彼が加豆子と一緒にいたのは、幼なじみの清凪のためだった。
加豆子は、ただの「おもちゃ」にすぎなかった。
加豆子の全身から血の気が引いていった。
まるで氷の底に突き落とされたように、心の奥底まで凍りついた。
顔は瞬く間に青ざめ、身体は崩れ落ちそうにふらついた。
そのとき、加豆子の携帯が震えた。
佑翔の父親、加豆子の養父の一条徹(いちじょう てつ)からのメッセージだった。
【加豆子、政略結婚の話、本当に断るつもりか?お相手は本当にいい家柄なんだ】
加豆子は目を閉じ、全身の力が抜け、涙がぱたぱたと足元の泥へと落ちていった。
彼女は佑翔に背を向けたまま歩き出し、指先で返信を打ち込んだ。
【おじさん、考えはまとまりました。私は、政略結婚を受けます】
徹からの返信はすぐに届いた。
画面越しにでも、彼の喜びが伝わってきた。
【それはよかった。お相手の方も、君の返事を待っていたところだ。二週間後に、海外で結婚式を挙げよう】
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