ロマンスの始まり第3話
この話は約1534字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
チャット履歴は不気味なほど綺麗だった。
曖昧な言葉は一切なく、あるのは各種ファイルと業務報告だけ。
だが、私は奏太という男をよく知っている。
彼は慎重でかつスリルを求める男だ。
私はあの「年間リスニングレポート」のリンクを開き、この二人だけのグループにシェアした。
次の瞬間、里帆からメッセージが届いた。
【奏太さん、さっき車の中で激しすぎ。唇、腫れちゃったよぉ】
私は返信せず、このシェア履歴を削除した。
奏太がシャワーから上がり、さっぱりとした顔で出てきた。
「そうだ、週末に会社の集会があるんだ。里帆が君に久しぶりに会いたいって言ってるし、君も来ないか?」
彼は髪を拭きながら何気ない風を装って言った。
以前なら、この手のイベントに彼は決して私を連れて行かなかった。
「公私混同はしない」というのが理由だ。
今回自ら誘ってきたのは、おそらく私の疑念を晴らすためだろう。
「いいわよ」
奏太は一瞬きょとんとした。私がこれほど素直に応じるとは思っていなかったようだ。すぐに近づいてきて、私のおでこにキスをした。
「そうでなくちゃな。一日中疑心暗鬼になるのはよせよ」
彼の唇が肌に触れた瞬間、胃の中で何かが逆流しそうになったが、なんとか堪えて彼を突き飛ばさずにいた。
週末。山奥のリゾート施設。
私が到着したとき、里帆は奏太の隣に立っていた。
彼女はオフホワイトのニットを着て、下はプリーツスカートを合わせている。
そのニットは、私が先月彼女に送ったものだ。4万円以上する、インターンの学生にとっては贅沢品だ。
当時、彼女はラインで「冬なのに寒くて、厚手の服がない」と泣きついてきた。
私は忍びなく、買って送ってやったのだ。
今、彼女は私が買った服を着て、私の彼氏の隣に立ち、満面の笑みを浮かべている。
「茜さん!久しぶり、会いたかった!」
私を見るなり、里帆は目を輝かせ、親しげに私の腕に絡みついてきた。
彼女からは、あの日奏太が帰宅したときと同じ香水の匂いがした。
安っぽくて、甘ったるいピーチの香り。
その後、彼女は私を上から下までしげしげと眺め、わざとらしい驚きの声を上げた。
「茜さん、どうしてそんな格好で来たの?奏太さん、そういう年増っぽい格好好きじゃないよ。私、そばで働いてるから、今は彼の趣味よく知ってるの」
言葉は柔らかいが、棘がある。
私は相手にしなかった。小娘の魂胆など、あまりにも透けて見えすぎる。
「奏太もよくあなたの話をしてるわよ。仕事ができるし、音楽の趣味まで彼と一緒だって」
里帆の表情が凍りつき、無意識に奏太の方を見た。
奏太は眉をひそめた。
「茜、嫌味な言い方はやめろ」
私が黙っているのを見て、里帆はその挑発的な態度を隠そうともしなくなった。
彼女は小首を傾げ、無邪気な顔を作る。
「ここ数年、茜さんの支援のおかげで、こんなにいい服が着られた。でも、奏太さんにも感謝しなきゃ。この色が肌を白く見せてくれて、すごく……ピチピチに見えるって言ってくれたのよ」
彼女は「ピチピチ」という言葉を強調し、挑発的な視線を送ってきた。
指先がわずかに震え、心臓が冷え切っていく。
美山里帆、21歳。確かに若く美しく、肌にはハリがある。
だが私だってまだ28歳だ。仕事も成功し、女性として最も充実した時期にある。どこが彼女に劣るというのか。
里帆はさらに続けた。
「そうそう、奏太さんが言ってた。来月には、私を早期正社員登用してくれるって」
正社員?
彼女はまだ大学4年生で、入社して半月しか経っていない。
私は奏太を見た。
奏太は少し気まずそうに視線を逸らした。
「里帆は働きがいいからな。来月、正社員に引き上げようと思ってる」
私は冷笑した……
私の金で服を買い、私の彼氏と寝て、さらにそのコネを使って近道を行く。
その計算高さ、実に見事なものだ。
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