ロマンスの始まり第1話
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年末のこの日、音楽アプリが私、篠原茜(しのはら あかね)の「2025年度リスニングレポート」をポップアップで通知してきた。
キーワードは、「共鳴」
今年、私自身の再生時間はそれほど多くない。このアカウントはずっと、恋人の橘奏太(たちばな そうた)が使っていたからだ。
その下には、小さな文字でこう記されていた。
【12月1日午前4時、あなたはまだあの人と、同じ曲を共有していた。曲名は『愛とは、眠れぬ夜を共にすること』】
私は息を呑んだ。
12月1日は私の誕生日だ。だがその日、私は早々に眠りについていた。
奏太はケーキを切り分けるやいなや、「会社に戻って残業がある」と言って慌ただしく出て行ったはずだ。
何かに取り憑かれたように、震える指で、頻繁にインタラクションのあるその見知らぬアイコンをタップした。
相手の年度キーワードは「独占」
心臓が跳ねる。詳細を開く。
【今年、あなたはこのユーザーと深夜に688回、同じ曲を聴きました。その一回一回が、魂の囁きです】
その直後、奏太からラインの通知が届いた。
【今夜も残業になりそうだ。待たなくていいから、先に寝ててくれ】
一方で、あの見知らぬアカウントはたった今、タイムラインを更新していた。車の中で、二つの手が恋人繋ぎをしている写真だ。
【奏太さんと一緒に残業するのが一番好き。私たち、一生同じ歌を聴いていこうね】
* * *
年末のこの日、音楽アプリが私、篠原茜(しのはら あかね)の「2025年度リスニングレポート」をポップアップで通知してきた。
キーワードは、「共鳴」
今年、私自身の再生時間はそれほど多くない。このアカウントはずっと、恋人の橘奏太(たちばな そうた)が使っていたからだ。
その下には、小さな文字でこう記されていた。
【12月1日午前4時、あなたはまだあの人と、同じ曲を共有していた。曲名は『愛とは、眠れぬ夜を共にすること』】
私は息を呑んだ。
12月1日は私の誕生日だ。だがその日、私は早々に眠りについていた。
奏太はケーキを切り分けるやいなや、「会社に戻って残業がある」と言って慌ただしく出て行ったはずだ。
何かに取り憑かれたように、震える指で、頻繁にインタラクションのあるその見知らぬアイコンをタップした。
相手の年度キーワードは「独占」
心臓が跳ねる。詳細を開く。
【今年、あなたはこのユーザーと深夜に688回、同じ曲を聴きました。その一回一回が、魂の囁きです】
その直後、奏太からラインの通知が届いた。
【今夜も残業になりそうだ。待たなくていいから、先に寝ててくれ】
一方で、あの見知らぬアカウントはたった今、タイムラインを更新していた。車の中で、二つの手が恋人繋ぎをしている写真だ。
【奏太さんと一緒に残業するのが一番好き。私たち、一生同じ歌を聴いていこうね】
……
私は奏太への返信をせず、その写真を食い入るように見つめた。
車内のインテリアには見覚えがありすぎる。それは私が奏太の昇進祝いに贈った車だ。
助手席のダッシュボードには、私が手編みした交通安全のお守りがまだぶら下がっている。
私は再びその見知らぬアカウントのアイコンをタップし、彼女のプレイリストを開いた。
トップに固定されたリストの名は【遅すぎた愛】
紹介文にはこうある。
【あなたは遅れてきた喜び、そして余生のすべて】
リストの中身は、奏太が好んで聴くポストロックやマイナーなフォークソングばかりだ。
そのすべてに、彼らが「一緒に聴いた」記録が残っている。
午前2時から、明け方の5時まで。
それは奏太が「残業」を理由に家に帰らなかった、数え切れないほどの夜の時間帯と重なる。
胸の奥から、辛いものがこみ上げてきた。
不意に、スマホが震えた。
メッセージが一件、ポップアップする。
【茜さん、あけましておめでとう!どんなに離れていても、茜さんは私の一番の親友よ】
美山里帆(みやま りほ)。
私が4年間資金援助をし、彼女を田舎から呼び寄せ、さらには奏太の会社に紹介して入社させた、経済的に恵まれない「妹」のような存在だ。
指先を入力欄の上に止めたまま、返信もできないでいると、インスタの「ストーリー更新」を示す赤いリングが先に点灯した。
何かに導かれるように、私はそれを開いた。
動画はわずか5秒。
本来なら徹夜で残業しているはずの奏太が、今は夜の海辺に立っていた。
強い海風の中、彼の手にある線香花火がパチパチと燃え、その優しい横顔を照らし出している。
画面の外から、里帆の甘ったるい声が聞こえる。
「奏太さん、願いごとしてよ」
奏太は笑って火花を吹き消すと、甘い眼差しを向けた。
「願いごとは、毎年今日という日を迎えられること。そして、いつになっても、里帆がいればそれでいい」
一瞬にして、手足が冷たくなった。
いつになっても、里帆がいればいい。
なら、私は何だというの?いつになっても、ただの笑い話?
視線は強張ったまま、さっきの車内で手を繋いでいる写真に戻る。
先ほどは気づかなかったが、今ははっきりと見える。
その華奢で白い手首に、シンプルなシルバーのブレスレットが巻かれているのを。
高価なものではないが、見覚えがある。
それは先月、私がわざわざ選んで里帆に贈った誕生日プレゼントだった。
改めて、その見知らぬアカウントのIDを見る。
RihotoSouta(里帆と奏太)。
橘奏太、美山里帆。
なるほど、そういうことか。
私がずっと実の妹のように可愛がってきた人間が、私が心血を注いで愛した男を盗んでいたのだ。
私は不意に低い声で笑い出し、笑っているうちに、涙が画面に落ちた。
半年前、奏太は眉をひそめて私に愚痴をこぼしていた。
「あの里帆って子、不器用すぎて使えないんだよ。俺に押し付けるのやめてくれないか?」
私は彼をなだめたものだ。
「あの子も苦労してるんだから、大目に見てあげてよ」
なるほど、そういう「大目に見る」方法だったわけだ。
ベッドで、確かに随分と面倒見がいいことで。
私はテーブルの上にある、彼の滋養のために4時間も煮込んだスープに目をやった。表面にはすでに白く固まった脂の膜が張っている。
まるで今の私たちそのものだ。見た目は温かい家庭の味だが、その下には胸焼けするような気持ち悪いあぼらっこさが溜まっている。
私は立ち上がり、鍋ごと中身をすべてゴミ箱にぶちまけた。
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