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ヤンデレ彼氏を捨て、機密機関へ逃亡します第1話

この話は約3502字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

個室の重いドアを押し開けた瞬間、桜庭美夕(さくらば みゆ)の目に最初に飛び込んできたのは、激しくキスを交わす一組の男女の姿だった。

一人は、彼女の恋人。

そしてもう一人は、彼女の最も親しい親友だった。

黒川凛(くろかわ りん)は有無を言わさぬ強引な身振りで藤崎玲奈(ふじさき れいな)をその腕の中に押さえ込み、どこか野性味を帯びた仕草で彼女の唇を塞ぎ、熱い吐息を絡ませ合っている。

その光景を目の当たりにした瞬間、美夕は全身の血の気がざわっと引き、得体の知れない冷気が波のように押し寄せてきた。爪が手のひらに深く食い込み、血が滲むほどの傷ができているというのに、少しの痛みすら感じない。

周囲には耳をつんざくような音楽が鳴り響き、集まった大勢の人間が狂ったように囃し立てていた。

* * *

個室の重いドアを押し開けた瞬間、桜庭美夕(さくらば みゆ)の目に最初に飛び込んできたのは、激しくキスを交わす一組の男女の姿だった。

一人は、彼女の恋人。

そしてもう一人は、彼女の最も親しい親友だった。

黒川凛(くろかわ りん)は有無を言わさぬ強引な身振りで藤崎玲奈(ふじさき れいな)をその腕の中に押さえ込み、どこか野性味を帯びた仕草で彼女の唇を塞ぎ、熱い吐息を絡ませ合っている。

その光景を目の当たりにした瞬間、美夕は全身の血の気がざわっと引き、得体の知れない冷気が波のように押し寄せてきた。爪が手のひらに深く食い込み、血が滲むほどの傷ができているというのに、少しの痛みすら感じない。

周囲には耳をつんざくような音楽が鳴り響き、集まった大勢の人間が狂ったように囃し立てていた。

「せっかくキスしたんだから、もっと激しく、ディープキスしちゃえよ」

「おおっ!ディープキス!ディープキス!ディープキス」

周囲から囃し立てる声が響き渡る中、凛は玲奈の唇を強引にこじ開けた。

唇と歯が熱を帯びて絡み合い、しなやかな舌がなまめかしく共舞している。

美夕は雷に打たれたような衝撃を受けた。

耳に入るすべての音が遠ざかり、目の前の景色さえも色を失ってしまったかのようだった。

彼女はただ呆然と、その場に立ち尽くすことしかできない。

とめどなく涙が溢れ出し、胸が鋭い刃物で抉られるように痛んだ。

どれほどの時間が過ぎたのだろうか。凛と視線がぶつかる。

彼の瞳には、少しの濁りもなかった。

だが、彼の最初の反応は焦りなどではなく、狂喜だった。

美夕は目元を真っ赤に腫らして泣きじゃくり、もはや表情を取り繕うことすらできず、無意識にきびすを返してその場を逃げ出そうとした。

凛は、腕の中でキスに酔いしれていた玲奈を容赦なく突き飛ばした。

長い脚で個室を飛び出すと、美夕の背中を追いかけ、彼女をきつくその腕の中に閉じ込めた。

「美夕、来てくれたんだね!

他の女とキスするってメッセージを送った途端に、駆けつけてくれるなんて。お前は俺を愛しているんだろう?だから、俺が他の女とイチャイチャしているのを見て、耐えられなくなったんだ。

だったら、お前ももう他の男と関わるのはやめてくれないか。さっきのはお前への罰だよ。俺に隠れて、他の男と30分も話していたことへのね。俺の心がどれだけ痛んだか、これで分かってくれた?」

凛は美夕の手を握り、自身の左胸へと押し当てた。

その激しく脈打つ鼓動を、彼女に感じさせるように。

美夕は次第に涙を引っ込め、彼の底知れぬ漆黒の瞳を見つめ返した。

「言ったでしょう、あの人はただ道を尋ねてきただけ。私、あの人のことなんて全く知らないって」

凛の冷ややかな目元に、病的な狂気がふっと過る。

彼はさらに強く彼女を抱きしめた。

「だめだ。誰であろうと、お前に近づく奴がいるなら、俺は嫉妬で狂いそうになるんだ」

その言葉を聞き、美夕の涙はさらにとめどなく溢れ出した。

心の底から、深い無力感がじわじわと広がっていく。

次の瞬間、凛のスマートフォンが鳴った。

「凛さん、パーティーはまだ終わってないっすよ。いつも家で彼女とばっかり過ごしてるんだから、俺らがせっかくセッティングした飲み会、今日は帰さないっすからね」

凛は通話を切ると、仕方がないといった様子で、美夕を甘やかすように見つめ下ろした。

「いい子だから、先に帰っててくれないか?あいつらともう少し遊んでくるよ。安心して、罰はもう与えたんだから、この後は他の誰にも指一本触れないと誓うよ」

彼が背を向けて立ち去った瞬間、空はどんよりと曇り、突然の土砂降りの雨が降り出した。

冷たい雨が美夕の衣服を容赦なく濡らしていくが、彼女は何も感じなかった。

ただ感覚の麻痺した身体を引きずるように、家へ向かって歩き続けた。

頬を伝って流れ落ちる水滴が、涙なのか雨なのか、もはや彼女自身にも分からない。

先ほどの目を刺すような光景が、脳裏で何度もリフレインする。

凛がこんな真似をしたのは、決して初めてではなかった。

高校生の頃、ふとすれ違っただけのあの瞬間。

彼女は、どこか冷たげな雰囲気を持つその少年に、どうしようもなく心を奪われてしまった。

彼を振り向かせたくて、毎日弁当を作り、ノートを綺麗に写し、果ては彼を庇って交通事故にまで巻き込まれた。

あの日、彼女を病院へと運ぶ彼の瞳にはパニックが広がり、震える手で彼女の血を何度も拭い続けていた。

「美夕、頭がおかしくなったのか?俺のために命を捨てる気か?そんなに俺のことが好きなのかよ」

「ええ、本当に大好きなの」

美夕がへらへらと笑いながら頷くと、不用意に傷口が引きつり、痛みに顔を歪めた。

凛は呆然とし、そして、彼女の身体を壊れるほど強く抱きしめたのだ。

あの日、二人は結ばれた。

彼は言った。

「美夕、お前は俺の最初の彼女であり、最後の彼女になる。お前が俺を好きになったんだから、一生好きでいろ。永遠に、やめることなんて許さない」

付き合い始めてから、美夕はようやく気がついた。

遠くから見ていたあの完璧な人が、とんでもない恋愛依存症だったのだ。

凛は自身のすべてを彼女に捧げるだけでなく、彼女をこれ以上ないほど甘やかした。

当時の美夕は、自分は世界で一番幸せな女の子だと信じて疑わなかった。

――次第に、凛の異変に気づき始めるまでは。

凛の独占欲はあまりにも強すぎた。いや、どこか病的とさえ言えた。

最初は、彼女のスマートフォンからすべての異性の連絡先を消去するだけだった。

その後、彼女が他の男子を少し長く見つめたり、ほんの少しでも親しげに接したりしただけで、彼は狂ったように暴走するようになった。

ある時、美夕が何気なく他の男子を褒めただけで、凛は彼女を強引に寝室へと引きずり込んだ。

その夜、ベッドは壊れ、美夕は三日三晩、ベッドから降りることすらできなかった。

ついにはエスカレートし、他の女との親密な姿を見せつけることで、美夕を罰するようになった。

美夕が嫉妬して傷つき、彼を愛していると必死に証明する姿を見て、ようやく彼は満足するのだ。

凛は自分を愛しているからこそ、こんなにも狂ってしまうのだと。

美夕は何度も自分に言い聞かせ、そのたびに耐え忍んできた。

けれど今、彼女は本当に疲れ果てていた。

もうこれ以上、耐え続けることなどできなかった。

一時間後、美夕は自宅に到着した。

玄関に辿り着いたその時、配達員が駆け寄ってきた。

「すみません、桜庭さんでしょうか」

美夕は小さく頷いた。「はい、私です」

配達員は慌てて一通の封筒を取り出した。

「桜庭さん、こちらは国家機密生物研究所からの郵便物です。必ずご本人に直接手渡すようにと承っておりまして」

美夕の身体がこわばる。

お礼を言って受け取ると、自室に戻り、急いで封を切った。

【桜庭美夕さん、国家機密生物研究所への合格、おめでとうございます。この職務を受諾した場合、あなたの身元は厳重に秘匿され、今後5年間は外部のいかなる人間とも連絡を取ることが禁じられます。10日後、専用車であなたを基地へと送迎いたします】

彼女は、同意書に記された規定を何度も何度も読み返した。

これは、彼女がずっと抱き続けてきた夢だった。

亡き両親の背中を追いかけ、彼らが成し遂げられなかった事業を完成させること。

以前の彼女なら、ためらっていただろう。凛は彼女を愛し、彼女を精神的な支柱にしていたから。

三日でも離れようものなら、彼はたちまち正気を失って狂乱するのだ。

だからこそ、受験する際も彼女はひどく葛藤していた。

しかし、今は違う。

もう二度と、凛のためにここに留まりたいとは思わない。

自分の未来は、彼とはもう何の関係もないのだ。

今日起きたすべての出来事を思い返し、美夕はついに決断を下した。

ペンを握りしめ、厳粛な面持ちで、書類に自身の名前を書き込んだ。

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