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ハンドルは私が握るから第3話

この話は約1668字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

【本当に病気だって言うなら、自分でタクシーでも呼んで病院に行けよ】

彼と言葉を交わす気すら失せ、私はそのまま彼のアカウントをブロックした。

マンションのエントランス前で痛みにうずくまりながらタクシーを待っていると、ふいに聞き覚えのある女の声がした。

「静香?こんなところでしゃがみこんで、どうかした?今日、会社休んでたみたいだけど……顔が真っ青じゃない。具合でも悪いの?」

痛みを堪えながら顔を上げると、目の前に停まった車の助手席の窓が下がり、そこから見知った顔が覗いていた。彩楓だった。

「ええ、ちょっとお腹の具合が悪くて。タクシーを待って病院に行くところなの」

彩楓は窓枠に身を乗り出し、いかにも楽しそうな笑みを浮かべて尋ねてきた。

「旦那さんは?こんなに辛そうなのに、あなたのあの『世話焼きな』旦那さんは送ってくれないわけ?」

彼女のあからさまな嘲笑を察し、私も自嘲気味に答えた。

「彼なら、今頃自分の同僚を家まで送り届けてるわよ」

彩楓はさらに笑みを深めた。

「どこの病院に行くの?彼氏に聞いてみるから、ついでなら乗せていってあげるわよ」

「中央病院」

すると、運転席の男が口を開いた。

「奇遇だね、ちょうど通り道だ」

だが彩楓はすかさず彼の言葉を遮った。

「ねえ……私、急にお腹が痛くなってきたみたい。早く家に帰って横になりたいなあ。ね、いいでしょ?」

その言葉を聞くや否や、彼氏は慌てた様子でエンジンを吹かし、彼女を家へ送り届けようとした。

彩楓は口元に意地悪な笑みを浮かべたまま私を見下ろした。

「ごめんね、静香。乗せていってあげるのはまた今度ってことで」

私は怒りで指先が白くなるほど拳を握りしめたが、すぐに表情を取り繕い、彼女に向かってふっと口角を上げてみせた。

「気にしないで、次なんて必要ないわ。私、あなたほど厚かましくないもの。隙さえあれば同僚の車にタダ乗りしようなんて、これっぽっちも思わないから」

そう言い捨てるや否や、彼女の反応を待つことなく、私は配車アプリで呼んでいた後ろのタクシーに向かって手を振った。

「運転手さん、こっちです!」

病院の救急外来に到着し、医師の診察を受けると、下された診断は虫垂炎だった。

「よくここまで我慢できましたね。もう穿孔寸前でしたよ。ご家族の付き添いはありますか?」

私は痛みに耐えかねて机に突っ伏したまま、ゆっくりと首を横に振った。

「家族はいません。手術の同意書には、私が自分でサインします」

この結婚も、炎症を起こした私の虫垂と同じだ。

――もう、綺麗さっぱり切り捨てるしかない。

手術は迅速に、そして無事に終わった。

麻酔の効き目がまだ完全に抜けていない頃、病室のドアが乱暴に開け放たれた。笙介が肩で息をしながら、あからさまに動揺した表情で病室に飛び込んできた。

彼は私のベッドサイドへ駆け寄ると、血の気の失せた私の顔と、手の甲に痛々しく刺さった点滴の管に目を留めた。その瞳に一瞬、狼狽と心痛の色がよぎり、私の手を強引に握りしめてきた。

「静香!まだ痛むか?なんで虫垂炎なんか!どうして俺に一言も言ってくれなかったんだ!」

私は冷たく彼の手を振り払い、顔を背けて視線を合わせようとしなかった。

私のその拒絶の態度を見た瞬間、笙介の心の中にあったわずかな罪悪感は、一瞬にして逆ギレの怒りへと変わった。

彼は体を起こして立ち直ると、非難の言葉をぶち撒けた。

「そこまで重症だったなら、なんで電話でちゃんと言わなかったんだ?わざとギリギリまで限界を隠して事態を大袈裟にしたのは、俺に罪悪感を植え付けようって魂胆か?」

私は、まくしたてる彼の醜い姿をただ静かに見つめていた。

「笙介」

私の声はひどく穏やかだった。

「私たち、離婚しましょう」

笙介はハッと息を呑んで硬直した。その顔に明らかな動揺が走った。

「俺が病院に送らなかったから怒ってるんだろ?分かった、俺が悪かったから。こんな冗談はやめてくれよ」

私は静かに目を閉じた。

「笙介。結婚してからのこの3年間、私が『離婚』という言葉を冗談で口にしたことが一度でもあった?私は本気よ。私たち、離婚しましょう」

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