チョロい彼女第1話
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記念日に、私は長谷川陸夫(はせがわ りくお)の大好物ばかりを食卓に並べた。
なのに、彼はまた約束を破った。
沈黙の後、私は慣れた手つきで、彼の高嶺の花、高坂沙耶(こうざか さや)のインスタを開いた。
【とある人を大絶賛!私が「電球が切れちゃった」って一言言っただけで、彼女そっちのけで飛んできてくれたの!】
【彼女より友達優先とか、マジ神対応じゃん?これからもそのままでいてね!】
投稿された写真には、椅子の上に立って、天井の電球を取り替える陸夫の姿が写っていた。
沙耶は両手で彼のを脚を支え、その顔は、彼の太ももの内側に、さりげなく顔を擦り寄せていた。
陸夫はそれを避けるでもなく、口元には淡い笑みさえ浮かべていた。
あまりに目に焼き付く光景だったけど、私はもう、以前のように泣き叫んだりしなかった。
ただ静かに「いいね」を押し、彼に別れのメッセージを送った。
けれど陸夫は、それを全く信じていないようだった。
「どうせ拗ねてるだけだろ。数日ほっとけば、俺がちょっと指を鳴らせば、すぐ機嫌直して尻尾振って戻ってくるさ」
でも、彼は知らなかった。
私が今まで簡単に機嫌を直したのは、ただ彼を愛していたから。
これからはもう、二度と彼の思い通りにはならない。
* * *
記念日に、私は長谷川陸夫(はせがわ りくお)の大好物ばかりを食卓に並べた。
なのに、彼はまた約束を破った。
沈黙の後、私は慣れた手つきで、彼の高嶺の花、高坂沙耶(こうざか さや)のインスタを開いた。
【とある人を大絶賛!私が「電球が切れちゃった」って一言言っただけで、彼女そっちのけで飛んできてくれたの!】
【彼女より友達優先とか、マジ神対応じゃん?これからもそのままでいてね!】
投稿された写真には、椅子の上に立って、天井の電球を取り替える陸夫の姿が写っていた。
沙耶は両手で彼のを脚を支え、その顔は、彼の太ももの内側に、さりげなく顔を擦り寄せていた。
陸夫はそれを避けるでもなく、口元には淡い笑みさえ浮かべていた。
あまりに目に焼き付く光景だったけど、私はもう、以前のように泣き叫んだりしなかった。
ただ静かに「いいね」を押し、彼に別れのメッセージを送った。
けれど陸夫は、それを全く信じていないようだった。
「どうせ拗ねてるだけだろ。数日ほっとけば、俺がちょっと指を鳴らせば、すぐ機嫌直して尻尾振って戻ってくるさ」
でも、彼は知らなかった。
私が今まで簡単に機嫌を直したのは、ただ彼を愛していたから。
これからはもう、二度と彼の思い通りにはならない。
......
別れのメッセージを送ったが、それはまるで糠に釘。彼からの音沙汰は一切なかった。
その代わり、沙耶から一本の動画が送られてきた。
賑やかなカラオケボックスで、陸夫の友人たちが囃し立てている。
「君を7年も追いかけてきた結菜が、まさか別れ話なんて。本気じゃねーだろうな?」
陸夫はマンゴーケーキを切り分けながら、気だるげに答えた。「ただ拗ねてるだけさ。俺に構ってほしいだけだろ」
「本当は電球を替えたらすぐ帰るつもりだったんだ。でも、あんな態度取られたら、こっちも甘やかす気になれない。しばらく放っておくさ」
そう言うと、彼はケーキを沙耶の口元へ運んだ。「『Pâtisserie C』の新作。好きか?」
友人たちはニヤニヤしながら、さらに煽った。
「どうせあの結菜は身代わりなんだし、いっそ別れちまえよ」
「本命が帰ってきたんだ。君ら、付き合っちゃえばいいじゃん?」
「そうだよ、沙耶ちゃん。陸夫はさ、この何年もずっと君のことだけを想ってたんだぜ」
陸夫は何も言わず、ただ熱い視線で沙耶を見つめていた。
「もう、何言ってるの?陸夫と私はただの親友だってば。純粋な友情ってやつ」
彼女は驚いたふりをしながら、甘えるように陸夫を軽く叩いた。
「早く彼女さんの機嫌、直してあげなさいよ。じゃないと私が濡れ衣を着せられちゃうでしょ」
陸夫の眼差しが少し翳り、声に複雑な感情が滲んだ。「心配すんな。俺がちょっと指を鳴らせば、すぐ機嫌直して戻ってくるさ」
私は無表情で動画を見ていた。吹っ切れたはずなのに、胸の奥がひどく締め付けられた。
だって彼は、私がまだ幼い頃に一目惚れして、丸7年間も愛し続けた人なのだから。
大学1年のある祝日、私は彼に告白した。
彼はクールな学園の王子様で、数えきれないほどの女の子を冷たく振ってきたことを知っていた。
告白は、ただ後悔を残したくなかったから。
でも月明かりの下、彼は私の顔をしばらく見つめた後、不意に私の髪をくしゃっと撫でた。「バカだな。告白は男からさせてくれよ。俺の彼女になってくれるか?」
あの時の胸の高鳴りと幸福を、私は永遠に忘れないと思っていた。
ある日、彼が私にキスをした時、感情が高ぶって「沙耶」と呟くまでは。
その瞬間、私は全身が凍りついた。それが、私たちの最初の冷戦だった。
3日後、彼は小さなケーキを持って私をなだめに来た。「ただ、昔片思いしてた子だよ。それだけだ」
彼の目の下のクマを見て、私は心が揺れて、彼と仲直りした。
その頃の私は、沙耶が私たちの関係に影響を与えることなんてないと、自信を持っていた。
彼女はただ、彼が若かりし頃に手に入れられなかった高嶺の花であり、始まることのなかった過去だった。
私こそが彼の彼女で、彼の現在であり、未来なのだと。
大学の4年間、私はひたむきに彼を愛し、卒業後は彼についてこの見知らぬ街へ来て、実家と絶縁までした。
彼も私にとても優しかった。
人気のケーキ屋『Pâtisserie C』に新作が出れば、真っ先に買ってきてくれた。
私の長い髪を優しく丁寧に乾かしてくれたし、生理の時は一晩中お腹をさすってくれた。
甘い言葉はなかったけれど、穏やかで温かい日々だった。
私はこのまま学生時代から結婚まで、一生を共に過ごすのだと信じていた。
半年前、沙耶が帰国するまでは。
沙耶が「本当に私に似た子を見つけたのね」と、あっけらかんと言い放った時、真実が少しずつ私を残酷に打ち砕いていった。
彼の告白は、かつて沙耶に振られた無念を晴らすためのものだった。
いつも買ってきてくれたケーキも、沙耶が一番好きなブランドだった。
私へのあの優しさや気遣いは、すべて沙耶が「未来の彼氏に望むこと」として語っていたものだった。
彼はただ、私という身代わりで寂しさを紛らわし、ついでに私を練習台にして、沙耶の理想の男になろうとしていただけなのだ。
私は彼の昔の約束を思い出した。
「結菜、付き合って7年になったら、結婚しよう」
「君は俺のために実家を捨ててくれた。これからの記念日は、毎年必ず一緒に過ごすから」
今年の記念日は、私たちが付き合って丸7年になる日だった。
でも彼は、すっかり忘れていたようだ。
忘れてくれて、よかった。
だって、私も実家に戻って、政略結婚を受けるつもりだ。
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