スーパーのポイントで買った愛第3話
この話は約1398字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
幸樹が持つワイングラスが、微かに震えた。「結婚してるくせに、こんな場所でゴミを漁って……旦那はそれを知ってるのか?」
私が黙っていると、幸樹の険しかった眉がふっと緩み、口元にいつもの侮蔑の笑みが浮かんだ。
「フン、わかったぞ。嘘だろ、それ。そんな芝居で俺の気を引いて、復縁でも迫るつもりか。理嘉、お前がそこまで計算高い女だったとは思わなかったよ。
しかし、もう終わったことなんだ。たとえ今さらお前に子供がいた、なんて泣きつかれたところで、俺はもう気にしない」
もちろん、知ってる。彼の心には、もう志津香しかいない。
あの時、私を必死にアプローチしたのは、そっちのほうだったのに。
幸樹が、志津香への未練が残っていることを、私に警戒されるのが怖くて、私の前で跪いて「彼女のことはとっくに忘れた」と誓ってくれたくせに。
それが今や、彼の口にかかれば、私はしつこく纏わりついたストーカーのような扱いだ。
その時、傍らの志津香が、私が集めたゴミ袋をひったくり、中身を地面にぶちまけた。
「あんたみたいな貧乏人が、金持ちのパーティーのゴミを漁ろうだなんて!今日ここにあるペットボトル一本だって、あんたなんかに持って帰らせないわよ!」
せっかく息子のために、ほぼ完成させていた社会科の実践課題が台無しにされる。怒りが一気に頭に上った。志津香の手からゴミ袋を奪い返そうと、手を伸ばす。
だが、私の指が彼女に触れる、その直前。
志津香は、まるで計算したかのように大袈裟に後ろへ倒れ込み、ビーチの芝生に尻もちをついた。「きゃあああっ!なにするの!この売女が、私を突き飛ばしたわ!」
あまりの三文芝居に、心の中で冷笑する。こんなもので騙されるのは、幸樹みたいに目が曇っている人間だけだろう。
志津香は地面に座り込んだまま、すぐに涙を浮かべてみせた。「私のドレスが汚れちゃったじゃない!どうしてくれるの、弁償しなさい!」
幸樹は泣きじゃくる志津香を一瞥してから、非難の視線を私に固定した。
「理嘉。そもそも、お前がプライベートビーチでゴミ拾いをしてること自体がおかしいんだ。志津香がそれを注意してくれたのに、逆ギレして突き飛ばすなんて……どこまで性根が腐ってるんだ、お前は!」
私は冷笑を浮かべるしかなかった。傍らでは、志津香がヒステリックに「弁償して」とわめき続けている。
やがて幸樹が、わざとらしく深いため息をついた。「志津香、わがままを言うな。彼女に、このドレスを弁償できる金があるとでも?」
その言葉に、志津香は意地悪く笑った。「ふふ。まあ、それもそうね。じゃあ、今ここで土下座して謝ったら、許してあげるわ」
もう呆れて笑うしかない。この二人とこれ以上関わるのは、時間の無駄でしかない。私はスマホを取り出した。
「ドレスくらい、弁償するわよ」
志津香が眉をつり上げ、鼻で笑った。「ハッ!このドレスがいくらするか知ってるの?あんたのペイペイに入ってる数千円の電子マネーで払えるとでも?」
彼女を無視してスマホのロックを解除しようとした、その時。大きな手が、私の手首を掴んだ。
幸樹だった。彼の視線が、私のスマホの待ち受け画面に釘付けになっている。その目が、みるみるうちに血走っていく。息が荒く、まるで獲物を前にした獣のようだ。
「理嘉」やっとのことで呼吸を整え、幸樹がかすれた声で続けた。「まだわからないのか。俺はもう……こんな『バラの花』なんて、必要ないんだ」
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