サンプル、自滅へ第3話
この話は約1330字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
蓮は信じられないという顔で私を睨みつけた。眼球が飛び出さんばかりだ。
「何だと?」
「言ったでしょう。この三年間、あなたがくれたお金には一円も手を付けてないわ。すべて資産運用に回したの。
この家に関しては、信じられないなら権利証を見てみればいい」
私は立ち上がり、用意しておいた書類を彼の前に投げた。
それは不動産譲渡契約書で、受取人は私になっていた。
半年前、私は偽造した身分証明と、彼が泥酔している時に書かせたサインを使って、この名義変更を完了させていた。
あの時、彼はそれを私への贈与契約だと思い込み、自分の度量の広さを見せつけるために中身も見ずにサインしたのだ。
蓮は書類を拾い上げた。手がに震えている。
「そんな馬鹿な……あり得ない……」
顔色を青ざめた。
それは恐怖の色だ。
金銭による支配を失えば、彼は何者でもなくなる。
私は残りの二つの袋を持ち上げ、彼を避けて階下へと向かった。
「あなたのその手口、私には通用しないの。
今日から、貸し借りはなしよ」
玄関まで来て、私は足を止め、まだ震えている彼を振り返った。
「そうそう、その散らばったゴミ、自分で捨てておいてね」
その瞬間、彼の心の防衛機制が崩壊する音が聞こえた。
それはどんな音楽よりも美しく、清々しい音色だった。
……
蓮は三日間沈黙した。
この三日間、私のスマホは鳴り止まなかった。
すべてあの界隈の人間からだ。嘲笑する者、見物人、あるいは蓮の説得役。
私は全員を着信拒否にした。
番号を変え、慧が手配してくれたマンスリーマンションに移り住んだ。
そして、一条蓮に関する最終レポートの作成に取り掛かった。
これはただの別れの手紙ではない。詳細な心理プロファイリングと臨床観察記録だ。
彼の微細な表情分析から、性的抑圧の度合い、そして彼のあらゆるマインドコントロール術の背後にある心理ロジックまで。
データは充実し、論理は緻密。彼を社会的に抹殺するのに十分な代物だ。
四日目、ついに蓮が動いた。
彼はSNSに莉子との婚約写真を投稿した。
写真の中で、莉子は彼の胸に寄り添って甘く微笑み、蓮は世俗を超越したような憂いを帯びた表情をしていた。
明らかに私への当てつけだ。
彼は賭けているのだ。私が嫉妬し、崩壊し、問い詰めに走ることに。
残念ながら、彼の賭けは外れた。
私が気にしないどころか、慧はその写真をプリントアウトして、私のデスクに貼り付けた。
「一条社長、随分と焦ってるみたいだね」
慧はコーヒーを片手に、からかうような口調で言った。
「そんなに急いで代役を探すなんて、あのがらんどうの別荘が怖いのか?」
「これ、招待状よ」
私は写真の隅にある小さな文字を指差した。
その文字は「ナイトフォール」、彼らが婚約パーティーを開催するクラブだ。パーティーの時間は明日の夜。
「ナイトフォール」はあの界隈で最も金が動く魔窟であり、かつて蓮が私を辱めた場所でもある。
彼がそこを選んだのは、私への侮辱のためだ。
だが彼は知らない。私がどんなビッグプレゼントを用意しているかを。
「本当に行く気か?」
慧が眉を上げた。
「あんな場所、行くだけで負けだぞ」
「誰がサンドバッグになりに行くと言った?」
私はデスクの上のUSBメモリを手に取り、口元に冷笑を浮かべた。
「プレゼントを届けに行くだけよ」
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