やり直した私は、迷わず角膜を手放した第3話
この話は約1930字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
隣の部屋から、子どもたちの笑い声が聞こえてくる。
その声につられて、私も思わず小さく笑った。
看護師さんが言った。「ちょっとトイレに行ってくるので、ここで少し待っていてください」
私はうなずき、椅子に腰を下ろした。
数分後、周囲がざわつき始めた。近づいてくる足音と抑えた声から、人が集まってきたのだと分かった。見えなくても、皆が私を見ているような気配だけははっきり感じた。
「柳沢さん、どうしてここにいるんですか」
「本当にあなたなんですね。事故を起こして逃げたんじゃなかったんですか?警察が学校まで来たのに、よくこんなふうに平然と現れるなんて」
私は眉をひそめ、落ち着いて答えた。
「私は何もしていません。どうして捕まえられなきゃいけないんですか」
その瞬間、誰かに腕をつかまれ、無理やり立たされた。
「璃子、やっぱりお前だったのか。もう逃げるな。警察に行って、自分のしたことを話せ」
声で、相手が航だと分かった。
私は腕を振り払う。
「航、どうかしてるの?私がどうして自首しなきゃならないの」
茉莉が私の腕をつかむ手に力を込め、いつになく真剣な声で諭した。
「璃子さん、もうこれ以上間違いを重ねないでください。三人も亡くなっているんです。きちんと説明すれば、私たちも情状酌量を願えます。少しでも罪が軽くなるように」
私は彼女の手を振りほどいた。
「何を言っているんですか。私は何もしていません。説明なんてできません」
そのとき、誰かが私の襟を強くつかんだ。
「昨日、あんな無茶な運転をして、赤信号まで無視して……俺の妻を……
ふざけるな!妻は、まだ妊娠が分かったばかりだったんだ。これから家族みんなで喜ぶはずだったのに……全部、お前が奪ったんだよ。俺の家族を返せ。返せよ!」
私は地面に叩きつけられ、全身に痛みが走った。
必死に叫ぶ。
「人違いです!今日はずっと病院にいました。車なんて運転していません。それに、車はなくなったあと、盗難届を出しています!」
男は、私が患者着を着ているのに気づき、わずかに手を止めた。
しかし茉莉が、すぐに口を開いた。
「璃子さん、あなたの家が裕福で、顔も利くことは知っています。病院に頼めば、診断書くらいどうにでもなるでしょう。でも、多くの命が失われているんです。どうして認めないんですか」
航も私を指さし、声を荒げる。
「璃子、お前は人を殺しておいて、よく平然としていられるな。前にお前が言っているのを聞いたんだ。免許を取ったら、市街地でスピードを出して、赤信号を無視してみたいって。刺激が欲しいって。どうせ家に金も権力もあるから、何があっても怖くないって。止めたのに、本当にやるなんて」
その言葉をきっかけに、周囲のざわめきが一気に荒くなった。見えなくても、皆の怒りがますます燃え上がっていくのが分かった。
誰かが手に持っていた物を私に投げつける。
「世の中に、どうしてこんな腐った人間がいるんだ。人を殺しておいて、まだ偉そうにするなんて」
「金持ちは、私たち庶民を踏みにじっても、人の命まで軽んじるのか。あんたなんて死ねばいい」
男が私の首をつかみ、怒りに震える声で叫ぶ。
「金と権力があれば、俺たちの命なんてどうでもいいのか。お前にも同じ目に遭わせてやる」
喉が締めつけられ、息ができない。
そのとき、遠くからパトカーのサイレンが聞こえ、警察官の怒声が響いた。
「何をしているんです!すぐ手を離しなさい!」
男は悔しそうに叫ぶ。
「俺は妻と子どもの仇を取りたいだけだ。こいつのせいで家族を失ったのに、どうしてこいつは無事なんだ!」
警察官が男をなだめ、手を離させた。
首の痛みで声がかすれていたが、私は必死に言った。
「警察の方、間違いです。今日は一日中病院にいました。車なんて運転していません!」
警察官は冷たい目で私を見下ろす。
「柳沢璃子さん、あなたが罪を恐れて逃げ、通報もしなかったせいで、妊婦の救助が遅れ、命を落としたことを理解していますか」
私はかすれ声で答える。
「証拠はありますか?私は運転していません。本当に違います」
警察官はため息をつき、隠しきれない嫌悪をにじませた。
「事故を起こした車は、あなたの家のものです。事故当時の防犯カメラやドライブレコーダーには、あなたが運転して人をはね、そのまま逃げる様子が映っています。目撃者も大勢います」
私は呆然とした。
行っていないのに、どうして映像の中の犯人が私に?
「今ここで素直に罪を認めれば、減刑される可能性もあります」
そのとき、少し離れたところから誰かの声がした。
「これは何の騒ぎですか?」
すぐに、別の人が答えた。
「この女が車で人をはね殺して逃げたんだ。今、警察が逮捕しているところだよ」
誰かが私を引っ張った拍子に、目を覆っていた包帯が外れた。
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