やり直した私は、迷わず角膜を手放した第1話
この話は約2133字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
運転免許を取ったその足で、私は病院へ向かい、角膜の手術を受けた。
前世では、入学初日、恋人の藤原航(ふじわら わたる)の幼なじみである高梨茉莉(たかなし まり)が、私の車を勝手に持ち出した。
クラスメイト3人を乗せ、学校近くのショッピングモールへ向かった茉莉は、市街地で暴走した。赤信号を何度も無視した末、横断歩道を渡っていた妊婦と高齢の男性をはね、2人の命を奪った。
ところが3人のクラスメイトは、逃げた運転手は私だったと口をそろえた。
警察に逮捕されたとき、私は必死に訴えた。
運転していたのは茉莉だ、と。
けれど茉莉は、航の腕の中に飛び込み、まるで被害者のような顔で言った。
「璃子さん、私のことが嫌いなのは分かってる。でも、だからって罪をなすりつけるなんて、ひどすぎるよ」
すると航は、私の車に取りつけてあったドライブレコーダーを差し出した。
映像の中で人をはね、うろたえながら逃げていた運転手は、どう見ても私だった。
「柳沢璃子(やなぎさわ りこ)。お前はまだ反省もせずに、他人に罪を着せるつもりか」
その映像を見た遺族は怒り狂い、私に刃物を向けた。
私は18回も刺され、その場で息絶えた。
そして再び目を開けると、私は茉莉が私の車を持ち出す前日に戻っていた。
* * *
「みなさん、浜凪市の学校へようこそ。私は地元ですので、歓迎の気持ちを込めて、明日みなさんをショッピングモールに連れて行きたいと思います。お土産はもちろん全部私がおごります。みなさんへの初めてのプレゼントということで」
高梨茉莉(たかなし まり)の聞き覚えのある声がした瞬間、私は全身を震わせた。
その瞬間、理解した。
私、柳沢璃子(やなぎさわ りこ)は、やり直したのだ。
クラスメイトたちはその言葉を聞くと、たちまち色めき立った。
「わあ、高梨さんって、本当に美人で優しいお嬢様って感じですね」
「高梨さん、うちのクラスって人数多いですよ。かなりお金かかるんじゃないですか?」
茉莉はにこりと微笑んだ。
「大丈夫です。せっかく浜凪に来てくださったのですから、地元民としてちゃんと歓迎したくて」
そのとき、誰かが私のほうを見た。
「そういえば、柳沢さんもこの辺りのご出身ですよね?名簿で拝見したのですが」
私はうなずいた。
「はい。みなさん、浜凪市へようこそ」
すると茉莉がふいに手を伸ばし、私の腕をつかんだ。
「璃子さん、私の車だけでは全員乗れません。あなた、最近免許を取ったばかりですよね?車を少しお借りしてもよろしいですか?」
その瞬間、私は凍りついた。
前世でも、茉莉は同じ口実で私の車を持ち出した。
そして市街地で暴走し、赤信号を何度も無視した末、横断歩道を渡っていた妊婦と高齢の男性をはねた。
それでも3人のクラスメイトは、逃げた運転手は私だったと口をそろえた。
警察が私を逮捕しに来たとき、私は必死に訴えた。
「車を運転していたのは茉莉さんです」と。
けれど茉莉は泣きながら、私の恋人・藤原航(ふじわら わたる)の胸に飛び込んだ。
「璃子さん、私のことが嫌いだからって、罪をなすりつけるのはひどいです」
航は私の頬を平手で打ち、車に取りつけてあったドライブレコーダーの映像を突きつけた。
映像の中で、猛スピードで走り、人をはねた運転手は、私そのものだった。
私が弁明する間もなく、映像を見て激昂した被害者の遺族に、私は18回も刺されて死んだ。
前世の苦しみを思い出しただけで、全身が抑えようもなく震えた。
まだ反応できずにいると、突然、私のバッグが誰かに奪われた。
航がバッグの中を勝手に漁り、車のキーを取り出して茉莉に渡した。
「茉莉、遠慮せず運転していいよ」
その言葉を聞いた瞬間、私ははっと我に返り、バッグとキーを奪い返した。
「ごめんなさい。明日は車を使う用事があるので、ほかの方に借りてください」
私がそう言うと、航はすぐに不機嫌な顔になった。
「璃子、お前に何の用事があるんだよ。どうせわざと貸したくないだけだろ」
私は冷ややかに彼を見返した。
「ええ、貸したくありません。それが何か?」
すると茉莉は、ひどく傷ついたような顔をした。
「璃子さん、私、どうしてそんなに嫌われているのか分かりません。でも私はただ、明日みんなにプレゼントを買ってあげたくて、車を少し借りたいだけなんです。どうしてそこまで私を困らせるんですか?」
思わず笑いそうになった。
自分のものを貸すのを断っただけで、彼女への嫌がらせになるらしい。
それを見かねたクラスメイトたちが、次々に口を開いた。
「柳沢さん、同じクラスの仲間なのに、ちょっと冷たすぎませんか?」
「茉莉さんは車を少し借りたいだけでしょう?どうしてそんな傷つけるようなことを言うんですか。そもそも茉莉さん、あなたに何かしたわけじゃないですよね」
航は私を強く突き飛ばした。
「璃子、お前さ、そのわがままで高飛車なお嬢様気質、少しは直せないのか?入学初日から茉莉をいじめるなんて」
私は床に倒れ、後頭部を机の角にぶつけた。
鋭い痛みに、思わず息をのむ。
以前の私なら、航の言葉に丸め込まれて、自分が悪かったのではないかと反省し始めていたかもしれない。
けれど今の私にあるのは、彼らへの憎しみだけだった。
とくに航だけは、八つ裂きにしても足りないほど憎かった。
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