もう、引き止めない第3話
この話は約1172字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
どうりで夢乃があそこまで狂気じみたことをし、母親の墓を掘り返してまで私を陥れようとしたわけだ。
死は全て偽装だったのだ。
私は晶也にメッセージを送った。【林夢乃の母親は死んでいない。真実は送ったメールに書いてある】
読むかどうかは、もう私には関係ない。
飛行機のチケットは三日後、涼馬が自ら手配してくれた。
晶也が戻ってきた時、私は荷物をまとめていた。
服の半分は捨て、一部は南市へ送る準備をしていた。
「どうして急に片付け始めた?」晶也は疑わしげな表情を浮かべた。
「引っ越しなの」と私は適当に答えた。
彼は一瞬黙り、不自然さに気付かないまま独り言のように続けた。
「藤原家の会社は南市にあるから、結婚後はそっちに移住する予定だ。早めに準備するのも悪くない」
そう言うと、鋭い目で私を睨みつけた。
「夢乃の母親の件は早めに謝ってくれ。結婚式当日でいいだろう?それでいいな?」
言い終えると彼はスマホを放り、マイナンバーカードを探しに行った。今日は夢乃と婚姻届を提出する日だ。
夜になっても彼は戻らなかった。スマホを開くと、夢乃からのメッセージが飛び込んできた。
写真には晶也と彼女がペアルックでベッドに並んで寝ている姿が写っていた。
私は目を閉じ、胸の奥が鋭く締めつけられる。
その感情を必死で押し殺し、スマホの画面を消した。
深夜、枕元のスマホは一時間おきに振動した。毎回、夢乃から送られてくる晶也との動画の挑発だった。
翌朝、涼馬からメッセージが届いた。
【藤原さん、花が咲きました。ゆるりとお戻りください】
添付されていたのは、婚姻届二通と、
一鉢の見事な赤い牡丹の写真だった。
あの時何気なく贈った花を、彼がまだ育てていたとは。
言葉では言い表せない感情が胸に湧き上がった。
私は一言だけ返信した。【わかった】
スマホを置いて仕事のファイルを整理していると、いつの間にか晶也が帰宅していた。
彼は普段使いの荷物を詰めながら言った。「僕は夢乃のところに暫く泊まる。一人で婚礼の準備じゃ手が回らないからな。あなたは後日の式に遅れずに出席しろよ」
その後、ただの手伝いだから騒ぐなと長々と説明してきた。
「ええ、行かない」と私は俯いたまま答えた。
昨夜を境に、彼への最後の情も完全に消えていた。
晶也は私の平静な様子に言い知れぬ不安を覚え、躊躇した。
だが夢乃の甘える姿を思い出すと、スマホを握っていた手の力が緩んだ。
志咲は自分を愛しているのだから、何か問題が起きるはずがない。
そう考えると安心し、私にかまうことなく姿を消した。
彼の去り行く背中を見ながら、私は一通の電話をかけた。
その夜、広場にヘリコプターが着陸した。
一人の男性が近づいてきた。「藤原様、ご手配のヘリが到着しました。三十分後に南市へ安全にお送りします」
私は頷き、封筒を手渡した。
「明日、これを婚礼会場に届けて。新郎新婦への私の結婚祝いだ」
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