もう愛してると言わなくていい第3話
この話は約1269字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
やつれて見えないように、薄く化粧をした。
街で一番腕利きの法律事務所に行って、離婚の手続きと、娘が医療ミスで死んだ件について相談した。
離婚については、弁護士がすぐに書類を準備してくれた。
でも、翔と菫の責任を問うには、もっと証拠が必要だった。
その日の夜、私はキャンドルを並べ、ごちそうを手作りし、翔が大事にしていた赤ワインを二本開けた。
翔は家に帰ると、ダイニングテーブルに静かに座っている私を見て、最初はきょとんとした顔になったけど、すぐににっこりと笑った。
「沙耶香、こんなことはお手伝いさんに任せればいいんだよ。お前は俺の妻なんだから、何もしないで優雅に過ごしてくれればいいんだ」
翔はそう言って笑いながら、私を腕の中に抱き寄せた。
こんなに近い距離にいると、翔の体から女性ものの甘ったるいバラの香水の匂いがするのが分かった。
翔に、いつからそんな品のない香水に変えたのかと尋ねた。
翔は少し後ろめたそうに、自分の襟元の匂いを嗅ぐと、慌てて言い訳を始めた。
「ああ、今日会議で会ったのが女性社長でさ。うっかりついちゃっただけだよ。
なんだよ、沙耶香、俺を疑うのか?まだ妊婦健診に付き添わなかったことを根に持ってるのか?あれはちゃんと説明しただろ。わかってくれてると思ってたのに」
やましいことがある人間は、墓穴を掘りやすいものだ。
私はただ少し聞いただけで、返ってきたのは嵐のような非難の言葉だった。
私が黙り込んでいるのを見ると、翔は話題を変えた。ポケットから綺麗なエメラルドのネックレスを取り出して、私の首につけてくれた。
「沙耶香、機嫌直してくれよ。これはお前のためにわざわざ買ってきたプレゼントなんだ。世界にたった一つしかないんだぞ。気に入ってくれる?」
エメラルドのネックレスは、キャンドルの光に照らされて深い緑色に輝き、とても綺麗だった。
私は指の腹で、ひんやりと滑らかなネックレスをなぞった。
結婚して6年、喧嘩するたびに、翔はこうして私に宝石を贈ってきた。
でも、いくら高価な物をもらっても意味がない。翔が浮気している事実も、娘が殺された事実も、決して変わらないのだから。
私がやっと笑顔を見せたのを見て、翔は安心して私の手料理に口をつけ始めて、私の料理の腕をべた褒めした。
けれど結局、翔は数口しか食べなかった。
まあ、外で済ませてきたのだから、家の料理なんてお腹に入らないのだろう。
食事の間、翔に何杯もお酒を勧め、彼はあっという間に酔いつぶれてベッドに倒れ込んだ。
翔が酔っている隙に、私は彼の書斎に忍び込んだ。娘が殺された証拠を探すためだ。
書斎中を探し回ったが、見つかったのは6年前の臓器移植に関する書類だけだった。
書類を見ると、翔が私の配偶者として、私になりすまして臓器移植の同意書にサインしていた。
どうりで、あの時あんなに結婚を急いだわけだ。ただ、菫を早く元気にするためだったんだ。
書類を写真に撮ってから元の場所に戻し、離婚協議書と一緒にメールに添付して、送信予約をした。
私が乗った飛行機が離陸した瞬間、これらのデータがすべて翔の元へ送られる手筈だ。
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