もう愛してると言わなくていい第1話
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娘が重い病気にかかって、高額な治療費が必要になった。
なのに元夫の原田健太(はらだ けんた)は、娘の治療をあっさり諦め、自分の幼馴染である原田菫(はらだ すみれ)とイチャつき始めた。
絶望していた私に、手を差し伸べてくれたのは初恋の相手、野口翔(のぐち しょう)だった。翔は私と結ばれ、私の口座に1億円を振り込み、一緒に娘の看病までしてくれた。
だけど、娘は死神の手から逃れることはできなかった。
それから6年後、私たちの間に新しい命が宿った。
一人で妊婦健診に行った病院で、私は偶然、翔と医者の会話を耳にしてしまった。
「野口社長、あなたと奥さんの間にもお子さんができた今、もしあの時のことが明るみに出たらどうするんですか?」
「当時、菫は重い病気でした。沙耶香(さやか)の子の心臓を菫に移植したのは、やむを得ない手段だったんです。それに今、沙耶香には新しい子供もいて、沙耶香ももう、水に流すべきでしょう」
その会話で、私は全てを悟った。娘は……わざと誤診されていたんだ。
娘の心臓は、翔の手で密かに菫へと移植されていたのだ。
* * *
娘が重い病気にかかって、高額な治療費が必要になった。
なのに元夫の原田健太(はらだ けんた)は、娘の治療をあっさり諦め、自分の幼馴染である原田菫(はらだ すみれ)とイチャつき始めた。
絶望していた私に、手を差し伸べてくれたのは初恋の相手、野口翔(のぐち しょう)だった。翔は私と結ばれ、私の口座に1億円を振り込み、一緒に娘の看病までしてくれた。
だけど、娘は死神の手から逃れることはできなかった。
それから6年後、私たちの間に新しい命が宿った。
一人で妊婦健診に行った病院で、私は偶然、翔と医者の会話を耳にしてしまった。
「野口社長、あなたと奥さんの間にもお子さんができた今、もしあの時のことが明るみに出たらどうするんですか?」
「当時、菫は重い病気でした。沙耶香(さやか)の子の心臓を菫に移植したのは、やむを得ない手段だったんです。それに今、沙耶香には新しい子供もいて、沙耶香ももう、水に流すべきでしょう」
その会話で、私は全てを悟った。娘は……わざと誤診されていたんだ。
娘の心臓は、翔の手で密かに菫へと移植されていたのだ。
それを聞いた途端、声もなく涙が頬を伝った。
今お腹にいるこの子は、翔との愛の証じゃなかった。ただの罪滅ぼしだったんだ。
この6年間は、全部、翔のお芝居だった。たった一人の愛する人、菫のためだけの。
少し膨らんだお腹を撫でながら、力なく笑った。
6年前、私は娘を救えなかった。もう、こんな悪縁は断ち切りたい。
診察室で、医者は少し残念そうにため息をついた。
「分かりました、野口社長。でも、本当にそれでいいんですか?原田さんはもう結婚しているんですよ。野口社長も自分の人生を大事にすべきです。それに、奥さんは野口社長のことをとても愛していて、良い人ですよ」
電話の向こうで、翔は少し間を置いて、きっぱりと答えた。
「いいんですよ。俺は名目なんて気にしません。ただ菫を守れればそれでいいです。菫が誰を愛そうと勝手で、俺はただ、彼女が健康で幸せでいてくれればいいです。
沙耶香のことだけど、確かに本当に良い人ですよ。良い妻だし、良い母親にもなるでしょう。でも残念ながら、俺は沙耶香を愛してません。人の気持ちは、どうにもならないものですからね」
翔の言葉を聞いて、医者は首を振り、それ以上は何も言わなかった。
「奥さん、あまり状態が良くないんです。彼女はすでに一人子供を亡くしていて、本当に可哀想な人ですよ。今度こそ、奥さんと赤ちゃんを大事にしてあげてください」
しばらく沈黙が流れて、最後に翔が小さく「はい」とだけ答えた。
私は唇を強く噛みしめて、必死に声を殺した。
翔と医者が出て行ってから、やっと声をあげて泣くことができた。
まだ小さかった娘は、病気で死んだんじゃない。翔が医者を買収して、わざと誤診させたんだ。
全部、菫に新しい心臓を与えるためだった。
あの頃、娘は重い病気だと診断されて、集中治療室に入った。
元夫の健太は、重荷を背負いたくないと言って病院からいなくなり、幼馴染の菫のもとへ向かった。
そんな時、翔が現れた。翔は私たちにとって唯一の希望の光だった。
でも今思えば、翔が助けてくれたのは、菫にあげるつもりだった心臓を、ただ大事に管理するためだったんだ。
健太と離婚したあと、翔が私と結婚したのは、きっと罪悪感からだったんだろう。
病院を出ると、外はどしゃ降りだった。
タクシーも拾わず、ずぶ濡れになりながら、ふらふらと歩いた。
雨と涙が混じり合って、どれだけ泣いたのかも分からなかった。
家に帰ると、私のひどい有り様を見て、家政婦が慌てて駆け寄ってきた。
「奥様、雨が降っていたのに、どうして運転手を呼ばなかったんですか?お腹に赤ちゃんもいるのに、体を冷やしたら大変ですよ」
物音を聞きつけて、翔が書斎から出てきた。
私の目が真っ赤で、髪もぐちゃぐちゃな様子を見ると、翔は一瞬、つらそうな顔をした。そして、持っていたコーヒーを置いて、私を横抱きにした。
翔は、少し咎めるような口調で言った。
「もうすぐ母親になるっていうのに、もっと気をつけろよ。
風邪をひくだけならまだしも、お腹の子に何かあったらどうするんだ。お前には呆れてものも言えないよ」
私は翔をちらっと見て、独り言のようにつぶやいた。
「翔、私は母親になったことがある。あなたに教わる必要はないわ。
この子が死んだって、別にいい。どうせ一度、子供を亡くしているんだから」
翔はぴたりと足を止め、眉をひそめた。でも、結局何も言わなかった。
バスタブにはもうお湯が張ってあった。翔が服を脱がそうとしてくれたけど、私はそれを断った。
翔は、私のいつもと違う様子をいぶかしむように見つめていた。
気まずい沈黙がしばらく続いた後、翔はバスルームから出ていった。
私はボディソープで体を何度も何度もこすった。この数年間で翔が私に残したものを、全部洗い流したかった。
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