すれ違った愛第3話
この話は約1582字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「紗世、お前、頭おかしいのか!」
低い怒鳴り声とともに、遼真が水の中から寧音を引き上げ、そのまま抱きかかえた。
寧音はお腹を押さえながら、苦しそうに息を吐く。
「遼真……紗世を責めないで。悪気はなかったの」
遼真は私を一瞥し、氷のような目で睨みつけると、そのまま寧音を抱えて出ていった。
私はその場に崩れ落ちた。震えが止まらない。
――夜半。
怒声とともにドアが蹴り開けられ、遼真が私をベッドから乱暴に引きずり起こした。
「お前、俺の子どもを殺す気だったのか!?どこまで腐ってんだよ!」
首を掴まれ、息が詰まる。その目には、愛も情もなく、ただ憎しみだけがあった。
本気で殺されると思った。
顔が赤く染まり、すべての息が胸に詰まった。窒息かけたとき、彼の手がようやく離れる。私は床に崩れ、咳き込みながら必死に息を吸った。
彼は見下ろしながら冷たく言い放つ。
「寧音は妊娠してる。結婚式は急ぐ。来月の一日に決めた。
お前は彼女の親友だろ。式の準備は全部お前に任せる。……それと、寧音が言ってた。お前にブライズメイドをしてほしいってな」
頭を下げたまま、私は何も言わなかった。爪が掌に食い込んでも、痛みは感じなかった。
私の沈黙に苛立ったのか、遼真が拳を握りしめ、掠れた声で言った。
「……もし、当時俺と別れたのは、何か事情があったなら――」
「ない」
私の言葉は短く、冷たかった。
遼真は苦笑し、歯を食いしばって、何度も頷いた。
「そうか、『ない』のか。……だったらその哀れな顔、やめろ。俺と寧音の結婚式、完璧に仕上げろ」
言い終えると、彼は振り返りもせずに出て行った。
ドアが勢いよく閉まり、重い音が響く。
身体が震え、顔を上げたときにはもう涙が溢れていた。
――チャイム音。
スマホの画面に遼真の親友――鷲尾修悟(わしお しゅうご)の名が光る。
【紗世、聞いた。遼真が寧音と結婚するって。
……今回も、手伝おうか?】
あの時、遼真と別れると決めた瞬間から、私はすべてを断つ覚悟をしていた。
彼の愛がどれほど深いか、私は知っていた。中途半端にすれば、彼は絶対に私を諦めない。
私が困っていた時、修悟が私を見つけて、芝居を一緒に演じようと提案してくれた。
「遼真は、信じてる相手に裏切られないと、諦められない男だ。彼女と親友、両方に裏切られたら、さすがに終わる」
その言葉どおり、あの時の遼真は壊れるほど傷ついた。
その後、私は帰国し、修悟とは連絡を絶った。この一年、何も話していない。
突然のメッセージは、結婚の噂を聞いたからだろう。
私は息を整え、【お願い】とだけ返した。そして母の入院先の情報を送り、――式の日に、母を連れ出してほしいと頼んだ。
あの日、遼真は式の準備で手一杯になる。その隙に、母を遠くへ。
私自身も、その日にこの街を離れるつもりだった。
――寧音は二日ほど入院した。その間、遼真は一歩も離れなかった。
食事を運ぶのは、私の役目だった。
食べ終えると、遼真は彼女の口元を優しく拭ってやる。
寧音は恥ずかしそうに、彼の手を軽く叩いた。
「遼真……紗世が見てるよ」
遼真は無表情で手を引き、黙って仕事の書類を取り出す。
私はテーブルの食器を片づけながら、黙ってその光景を見ていた。
「紗世、色々ありがとね」
寧音が穏やかに笑う。
「私の世話までして、式の準備まで……遼真が急ぎすぎなのよ。もう少し先でもよかったのに」
遼真がふっと笑い、軽く冗談を言う。
「今はまだ一か月ちょっとだし、見た目じゃ分からないけど……そのうち大変になるのはお前だからな」
――久しぶりに見る、遼真の笑顔だった。
本当に、嬉しそうに見えた。
彼は子どもが好きだった。
昔、私たちが付き合っていた頃、彼は私たちの子供をとても楽しみにしていた。できれば男の子と女の子が一人ずつだと最高だと言っていた。
子供は私たちの愛の結晶だと彼は言い、花を育てるように、細やかに彼らを育てていくんだと。
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