すれ違った愛第1話
この話は約1765字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
早瀬遼真(はやせ りょうま)が、私の親友と結婚すると決めた日。
みんなが私の失態を笑っていた。
彼は私の顎をつまみ、誘惑するように低く囁いた。
「一言、俺に謝れば、全部水に流してやる。やり直そう、紗世(さよ)」
私は彼の望み通りに言った。――「ごめん」
その瞬間、遼真の目に浮かんだのは嘲り。
唇の端が歪み、冷たく笑った。
「深見紗世(ふかみ さよ)、お前って本当に安い女だな」
* * *
早瀬遼真(はやせ りょうま)が、私の親友と結婚すると決めた日。
みんなが私の失態を笑っていた。
彼は私の顎をつまみ、誘惑するように低く囁いた。
「一言、俺に謝れば、全部水に流してやる。やり直そう、紗世(さよ)」
私は彼の望み通りに言った。――「ごめん」
その瞬間、遼真の目に浮かんだのは嘲り。
唇の端が歪み、冷たく笑った。
「深見紗世(ふかみ さよ)、お前って本当に安い女だな」
その言葉が落ちた瞬間、個室の中に笑い声が広がった。
「へぇ、深見家のお嬢様でも謝ることあるんだ?あんなに遼真がお前に夢中だったのに、お前、あいつの友達と寝たんだろ?そのときは悪いなんて思わなかったくせに」
「まさか今になって遼真が金持ちになったから、ヨリを戻したくなったとか?紗世、お前、マジで腐ってんな」
足元から冷たいものが這い上がる。
チカチカと光る照明の下で、私は遼真をまっすぐ見つめた。
彼の顔には嘲りと愉快が混じり、友人たちの笑いを、まるで楽しんでいるかのようだった。
私は目を伏せ、苦く笑った。
「そうよ、私はそんな女。――遼真、満足した?」
遼真の顔が一瞬で凍りつて、私を睨んでいた。
沈黙の空気の中、水原寧音(みずはら ねね)が歩み寄る。
彼女は遼真の服の裾をそっと引き、「遼真、もういいよ。紗世をこれ以上、惨めにしないで」と柔らかく言った。
遼真はその手を握り、指先を撫でた。
そして私に視線を向け、命じるように言った。
「家にコンドームとローションが切れてたな。買ってこい。ついでに浴槽に湯をいっぱい張っておけ。寧音は帰ったら風呂に入りたいんだ」
去ろうとした彼は、何か思い出したように振り返り、冷たい声で言い捨てた。
「俺たちが帰るまで寝るな。呼んだらすぐ動け。――小間使い」
その「小間使い」の一言に、警告の棘があった。
私は無表情のまま個室を出て、ぼんやりと街を歩いた。
過去の記憶が、潮のように押し寄せてくる。
――遼真と私は三年間付き合っていた。
卒業したら結婚しようと約束していた。
けれど卒業直前、私は彼に別れを告げ、そして彼の御曹司の親友と付き合い始めた。
あの日は雨が降っていた。
遼真はびしょ濡れのまま別荘の前で私に会わせてくれと頼んだ。
彼は私に捨てないでくれと頼み、一生懸命お金を稼いで私が望む生活を送らせてくれると言った。
必死に、何度もそう言った。犬みたいに。
でも私は冷たく笑って、「最初から遊びだった」と言い切った。
遼真の顔がみるみる青ざめていくのを見ながら、私は警備員に命じて彼を追い出させた。
その夜、彼は高熱を出し、死にかけた。何度も電話をかけてきたけど、私はすべて切って、最後にはブロックした。
卒業後、私は彼の親友と一緒に海外へ逃げた。
遼真は病み上がりの体で追ってきたけど、私は一度も振り返らなかった。
――数年後。
彼はビジネス界の大物になり、私はクラブのホステスとして落ちぶれた。
母の脳腫瘍が見つかり、治療費を払えずにいた私に、彼は契約書を突きつけた。
それは――「私をそばに縛り付けて彼の小間使いにし、彼が他の女と寝るのを世話させる」という契約だ。
最初は苦しくて、泣いてばかりいたけど、やがて何も感じなくなった。
そして、あの日。遼真が私の親友――寧音を連れて帰ってきた。
いつものように金を放り投げて言った。
「寧音は本番前にお風呂に入るのが好きで、新鮮なバラの花びらを買ってこい、湯を張れ。しっかり仕えろよ」
私は呆然と寧音を見た。彼女は頬を染め、唇を噛み、目を逸らした。
遼真はその肩を抱き、怒鳴った。
「早く行けよ。聞こえねぇのか?」
目の前が霞んだ。
「なんで……よりによって寧音なの?」
彼は私の顎を掴み、耳元で低く唸った。
「お前も、俺の親友と寝ただろ?」
そのとき初めて、私は悟った。
――彼がどれほど私を憎んでいるかを。
ガタッという音で目が覚めた。
ぼんやりとした視界の中、重なり合う二つの影が見えた。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)