さよならの後で、あなたと恋を第3話
この話は約1531字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
ペンはテーブルの上を何度か転がり、床に落ちた。
依由の後ろにいた同級生たちが、ぷっと吹き出す。
「あれ?まだ知らなかったの?依由のおじさん、桐和の人事部にいるんだよ。あんたを入社させるために、依由はずいぶん骨を折ったんだから」
依由が私の手を軽くたたいた。
「気にしないで。瑛斗も、あなたに何か打ち込めることがあればと思っただけだから」
同級生の一人が、笑いながら口を挟んだ。
「そうそう。仕事があれば、瑛斗に付きまとう暇もなくなるもんね」
私はとっさに手を引いた。
心を無数のアリにかじられているようだった。
株式会社桐和の仕事は、3度の面接と、グループディスカッションを経て、ようやく手に入れたものだ。
あの頃、私たちは大学を卒業したばかりだった。
依由はまだ電撃結婚していなかったし、私もまだ瑛斗と再会していなかった。
自分の実力で勝ち取ったのだと思っていた。
けれど本当は、瑛斗が依由に頼んで、私に与えてくれたものだったのだろうか。
――この片思いは、私だけが知っている秘密のつもりだった。
瑛斗とのやり取りも、年末年始や季節の挨拶を数言交わす程度でしかなかった。
いつ、みんなに知られてしまったのだろう。
いつ、瑛斗を困らせてしまったのだろう。
私から逃れるために、依由に仕事を世話させるほどに。
「榎並さん、私はね、自分では何の力もないくせに、コネに頼ろうとする人間が一番嫌いなんです」
先方は席を立ち、そのまま出ていった。
私は慌ててあとを追おうとした。
「鈴木さん、違うんです......!私が頼んだわけではありません。企画書はすべて自分で作ったもので――」
ところが依由が、体を半分割り込ませるようにして私を遮った。顔には笑みを浮かべている。
「梨瑚、そんなに焦らないで。案件が流れたなら、それでいいじゃない。おじさんに頼んで、これからはもっと楽な部署に異動させてもらうから。安心して」
彼女は、たったひと言ふた言で、私の案件を台無しにした。
そして今度は、苦労して手に入れた仕事まで、ひと言ふた言で奪おうとしている。
胸いっぱいに重い石が詰まったようだった。
私は振り返り、いかにも私を気遣っているようなその顔を見つめた。
「......わざとやってるの?」
依由は目をぱちぱちさせた。
「何のこと?」
これ以上話したくなかった。
企画書を取りに戻り、もう一度鈴木社長に話をしようと思った。
けれど私が背を向けた途端、依由はなぜか二歩ほど後ずさり、そのまま床に倒れ込んだ。
同級生たちが慌てて彼女を助け起こし、振り返って私を責めた。
「ひどいよ!依由は昔のことを水に流して仕事まで世話してくれたのに、突き飛ばすなんて......!」
依由は痛そうに肘を押さえた。
「いいよ、みんな。彼女を責めないであげて......」
まったく意味が分からなかった。
大学時代、私と依由にはほとんど接点がなかった。
どんな行事でも主役は彼女で、私は隅にいる目立たない一人にすぎなかった。
いったい何を水に流したというのだろう。
問いただそうとしたとき、カフェの外に、こちらへ足早に向かってくる瑛斗の姿が見えた。
彼はまず私を見つめ、それから依由へ視線を移した。
眉間に深いしわが刻まれる。
胸がずしりと沈んだ。
彼も、私が依由を突き飛ばしたと思っているのだろうか。
私が黙っていると、同級生の一人が憤然と言い放った。
「何もしてないみたいな顔しないでよ。依由から全部聞いたんだから!あの結婚式で大西さんが彼女を奪いに来たとき、邪魔して断らせたのはあんたでしょ!」
「あんたさえいなければ、依由と大西さんが丸3年も遠回りすることなんてなかったのに!」
ドアが開いた。
入り口に立つ瑛斗は、驚いた表情を浮かべていた。
彼は私を見つめ、唇を動かした。
「梨瑚......」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
W62393- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。