さよならの後で、あなたと恋を第1話
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同窓会で、元学級委員が「自分だけが経験したこと」を言い合うゲームを始めた。
クラスの人気者はそっと目を伏せた。
「......結婚式に、私を奪いに来た人がいたの。私は断ったけど」
そう言って、料理からネギを取り除いている大西瑛斗(おおにし えいと)に目を向け、目を赤くした。
たちまち、みんながはやし立てる。
「どうりで、水落が離婚した途端、大西がどうしても同窓会を開こうって言い出したわけだ!よりを戻したかったんだな!」
瑛斗は顔を上げたが、口を開く間もなく、別のテーブルの同級生たちに乾杯しようと連れていかれた。
水落依由(みずおち いより)は、彼がネギを取り除いた白身魚の蒸し焼きの鉢を自分のほうへ引き寄せ、懐かしそうに言った。
「あの日私が断ったら、彼、すごく悲しそうに泣いたの。それでも、私の肉うどんからネギを取り除くのは忘れなかった。私、ネギアレルギーだから......」
みんながしみじみとため息を漏らす中、誰かが私に尋ねた。
「梨瑚、依由の結婚式では、ブライズメイドをしてたよね?その場面、見てなかったの?」
私は首を横に振った。
そして、私たちが結婚した翌日、瑛斗が一つの指輪を見つめながら涙を流していたことを思い出した。
彼の深い愛情が、すべて過去に捧げられているのなら。
3年もの間、無理に居場所を作ろうとしてきたこの結婚から、私もそろそろ身を引くべきなのだろう。
* * *
「水落以外は、全員指を一本倒して!」
依由は申し訳なさそうな顔をしたあと、ふと私に目を向け、うれしそうに声を上げた。
「梨瑚、まだ残ってるの、もう私たち二人だけだね」
私は最後の一本を立てたまま、口元に苦い思いをにじませ、ひと言も発することができなかった。
向かいの席から声が上がる。
「瑛斗も、まだ一本残ってるぞ!」
同級生の一人が瑛斗を呼び戻しに行った。
瑛斗は座る前に一瞬動きを止め、依由のほうへ視線を向けたようだった。
依由は顔を上げ、優しくほほ笑んだ。
「ネギを取り除いてくれてありがとう。こんなに年月が経っても、私のネギアレルギーを覚えててくれたんだね」
「ほら、早く座れよ!まだ話してないの、お前だけだぞ!」
瑛斗は無理やり席に座らされた。
「俺は......」
語尾を引き延ばす瑛斗を、みんなが期待のこもった目で見つめていた。
私だけが、ネギを半分ほど取り除いた帆立の雑炊をじっと見つめ、もう片方の手でテーブルクロスをきつく握りしめていた。
「20年間、ずっと好きでいる女の子がいる」
個室中に、一斉にはやし立てる声が響き渡った。
期待に浮き上がっていた心が、重く沈む。私はそっと目を閉じた。
依由と瑛斗が小学生の頃からの幼なじみだということは、クラスの全員が知っている。
これでは、遠回しに告白しているようなものだった。
「ほかにいる人は?いないなら指を折って!」
私は右手を握り込んだ。
目を開けると、なぜか瑛斗と視線がぶつかった。
彼はわずかに唇を引き結んでいた。その目は、余計なことを言うなと私に釘を刺しているように見えた。
でも、そんな心配は要らない。
私はもう負けたのだ。余計なことを口にする資格さえ、残っていなかった。
「榎並も水落も指を折ったから、今回は大西の勝ちだな!大西以外は、全員罰として三杯飲むこと!」
みんなは「さすが秀才だな」と笑い合いながら、それぞれ酒を注いだ。
私も自分のグラスに一杯注ぎ、飲もうとした。そのとき、依由のためらいがちな声が聞こえた。
「でも私、お酒はあまり飲めなくて......飲まなくてもいい?」
瑛斗はそれを聞くと、「ああ」とうなずいた。
「女子はみんな飲まなくていいよ。代わりに水を飲んで」
みんなが訳知り顔で目配せを交わす。隣に座っていた、学生時代に同じ寮の部屋だった友人が、小声で言った。
「まただよ、また。一人を助けるために、女子全員を免除するやつ」
――そう。また、これだ。
前にクラスみんなで集まったのは、大学の卒業写真を撮ったときだった。
いつも落ち着いている瑛斗が、突然「みんなと離れるのが寂しい」と言い出し、一人ずつハグをして別れを惜しんだ。
7年間、彼に片思いをしていた私は、その言葉を聞いただけで手のひらに汗をかいていた。
けれど、男子とのハグを終えた彼が女子のほうへ来るのを待っていると、不意に友人に行く手を遮られた。
友人は、呆れたように言った。
「あなた、本気で行くつもり?あいつが私たちとハグしたいとでも思ってるの?水落を抱きしめたくて、私たちを口実にしてるだけだって!」
そちらを見ると、依由が一番前に立ち、彼に向かって両腕を広げていた。
瑛斗の口元には笑みが浮かんでいた。その瞳に宿る期待が、私の胸を刺した。
あの日、私は逃げるようにその場を去った。
校舎の裏に隠れ、彼に宛てて書いた告白の手紙を、粉々に破り捨てた。
そして今日も、私はまた一人で期待してしまったのだ。
自嘲の笑みを漏らし、グラスを持ち上げて一気に飲み干した。
普段、酒はほとんど飲まない。
久しぶりに口にした酒は、やはりひどく苦かった。
同窓会が終わると、みんなは二、三人ずつ話しながら店を出ていった。遠方から来た同級生の何人かは、そのまま上階にあるホテルへ向かった。
瑛斗は、依由に呼び止められた。
「瑛斗、話したいことがあるの。少し付き合ってくれない?」
離れていたので彼の表情は見えなかったが、断る素振りはなかった。
元学級委員たちは、興味津々の顔をしていた。
「水落、最近このホテルに泊まってるんだって。こりゃ、大西は今夜帰れそうにないな」
「帰ったって面白くないだろ。20年も好きだった相手が離婚したんだ。あいつだって、泊まっていきたくて仕方ないはずさ。よりを戻すチャンスだしな」
私は唇をかんだ。
みんなが帰ったあとも、私だけがホテルの入り口に立っていた。
昨夜、洗面所の照明が切れ、スマホの明かりを頼りに歩いていたら転んでしまった。
膝には青あざができ、スマホも見るも無残に壊れた。
瑛斗は今夜、新しいスマホを買いに連れていき、そのあと家で照明を直してくれると言っていた。
照明の交換くらい、大したことではない。スマホだって明日買えば済む。
それなのに、酔いが回ってきたせいか、妙に意地を張ってしまった。
スマホが壊れてアプリも使えず、代行もタクシーも呼べない。
私たちは3年間、夫婦として互いに礼を尽くしてきたと思う。
たとえ愛されていなくても、置き去りにはされないはずだった。
けれど夜は更け、冷たい風が身にしみた。
午前5時になっても、彼がその入り口から姿を現すことはなかった。
私は自嘲するように笑った。
結婚した日、瑛斗と約束したことがある。
結婚3周年を迎えた日に、二人とも離婚したいと思っていなければ、そのまま一生一緒にいよう、と。
明日は、3度目の結婚記念日だ。
今までずっと、何事にも気を遣い、慎重に振る舞ってきた。
それでも、私たちの結末はこうなってしまった。
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