これが、妻が選んだ家族か第3話
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二人が店の前にいて、すべて聞いていただろう。
個室の中で、僕がどんなふうに罵られ、どんなふうに笑いものにされていたのかを。
それなのに文香は、何ひとつ口を挟まなかった。
ただ、恒一が再び僕を中へ引き戻すのを、黙って見ていただけだった。
「主役が先に来てたなんて、ごめんね。子どもが心配で、ベビーシッターが寝かしつけるのを待ってからじゃないと来られなくて。俺がタクシーだとつらいだろうって、文香はわざわざ迎えに来てくれたんだ」
恒一は得意げに文香を抱き寄せ、それから僕を見た。
まるで、お前は彼女の夫だから何だ、そう言いたげに。
その言葉に、周囲から囃し立てる声が上がる。
「昔から文香は、恒一のことだけは特別だったもんな」
「子どもがもう少し大きくなったら、ちゃんと招待しろよ。祝い酒くらい飲ませてくれ」
祝福めいた声が飛び交うなかで、誰もかもが忘れているようだった。
僕がまだ文香の夫であることを。
そして、ここが婚約の席でも何でもないことを。
これは本来、文香が埋め合わせのつもりで用意した、僕の誕生日会だったが、その場に並ぶ顔を見ているうちに、込み上げる吐き気を抑えきれなくなった。
立ち上がって出ようとしたそのとき、なぜか文香の目がこちらを向き、彼女は眉をひそめ、冷たく言った。
「あなたの誕生日会なのよ。あなたが先に帰ってどうするの。お腹の調子が悪いだけでしょう。少し我慢すれば治るわ」
けれど次の瞬間、恒一がひとつ咳払いをしただけで、彼女はたちまち顔色を変え、慌てて彼を座らせた。
水を注ぎ、そのまま手ずから飲ませる。
周囲からまた囃し立てる声が上がり、僕はそっと目を閉じた。
僕の誕生日会は、いつの間にか、文香と恒一が仲睦まじさを見せつけるための場に変わっていた。
二人はまるで本当の夫婦のように、共通の友人たちと笑い合い、楽しげに言葉を交わしている。
その一方で、僕は隅に置き去りにされ、誕生日につきもののケーキすら、用意されていない。
なんと滑稽で、馬鹿げた話だろう。
これが、文香が僕のために用意した誕生日会だった。
怒りを必死にのみ込み、胸の内の苦さごと、腹の底へ押し込める。
彼女とはあと二日なのだから、彼らを祝ってやるべきなのかもしれない。
二日後には、僕は完全に彼女の前からいなくなり、夫という立場も、彼女が本当に大事にしているその人に譲ればいい。
そしてあの夜、僕は帰らなかった。
ただひとり隅に座ったまま、この滑稽な誕生日会が終わるまで見届けた。
お開きになるころになって、ようやく文香は隅にいた僕に気づき、自分が送っていくと言い出した。
彼女は間違いなく僕の妻なのに、その態度を見ていると、僕たちの家をまるで自分の家だとは思っていないかのようだった。
彼女が言い終えるより先に、あとから来た恒一がその腰に手を回した。
「文香、俺疲れた。早く帰って休みたい」
文香は、いとおしむように彼の頬をつまむ。
「昨日も子どもの世話で、ちゃんと眠れなかったの?じゃあ先に帰りましょう」
彼女は恒一の手を引いて去っていき、僕だけがまたボディーガードの車に乗るしかなかった。
まるで、道化になった気分だった。
そっと頬に触れてみたが、流れると思っていた涙は、とうとうこぼれなかった。
痛みが極まると、本当に何も感じなくなるのだ。
そこまで幼なじみを大切に思っているのなら、なぜ僕と結婚し、子どもまで持ったのか、どうしてもわからなかった。
あれほど必死に、自分が恒一をどれだけ特別に思っているかを見せつけたいのなら、なぜ僕と離婚しないのか。
なぜ僕と子どもを無理につなぎ止め、一緒に罵られ、嘲られるままにしておくのか。
その夜、ほとんど眠れず、翌日の昼近くになって、ようやく眠りを破ったのは、玄関のベルだった。
恒一が、彼の両親を連れて、突然家にやって来たのだ。
彼の母親は僕の顔を見るなり、さっそく嫌味をぶつけてきた。
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