これが、妻が選んだ家族か第1話
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妻の幼なじみが、子どもを連れて帰国した。
彼の体面と、その子の将来を守るために、妻は自分がその子の母親だと言い張った。
その代わりに、僕たちの子どもは、僕が外で女を作ってもうけた、ろくでもない私生児だと蔑まれることになった。
取り乱して、問いただす僕に、彼女はどこまでも冷静だった。
「恒一(こういち)は、ずっと家族に恵まれずに生きてきたの。
彼の子には、母親が必要よ。
だから私が、あの二人を支えなきゃいけないの」
その言葉を聞いた瞬間、七年間愛し続けた女の姿が、ひどく遠く感じられた。
そして僕は、もう二度と彼女を愛すまいと心に決めた。
* * *
妻の沢村文香(さわむら ふみか)が、三日後に幼なじみの高橋恒一(たかはし こういち)と旅行へ出かけるつもりだと知った。
恒一の子こそが、自分の実の息子だと周囲に印象づけるために。
僕は義母に電話をかけた。
「お義母さん。離婚したいです」
受話器の向こうで、義母は小さくため息をついた。
「……文香が、あなたに申し訳ないことをしたわね」
ある日突然、文香が外に向かって、デタラメな噂を流し始めた。
僕たちの子どもを、僕が外で不貞を働いてもうけた私生児だと言い張った。そして、僕がその子を家に連れ帰って無理やり彼女に育てさせているのだと。
僕たちは、この七年でいちばん激しい口論をした。
それだけでなく、僕が子どもを連れて出て行こうとすると、彼女は人を使って僕を別荘に閉じ込めた。
子どもを健診に連れて行くときでさえ、背後には十人以上のボディガードがついてくる。
彼女は言った。
「この子は私たちの子よ。
手放せるわけがないでしょう」
――ちゃんと分かっているくせに。
なんて皮肉だろう。彼女の偽りの言葉ひとつで、僕とこの子の人生は壊された。
僕たちの子こそが、彼女の本当の子で、恒一の子のほうこそ、素性の知らない子だということを、彼女は知っているはずなのに。
眠っている子どものやわらかな頬に触れながら、僕は思った。
これが最後の機会なのだと。
幼い頃から母親の愛情を知らずに育つことを思えば、不憫でならない。
それでも、生まれたばかりのこの子に、他人のために心ない言葉を浴びせられるような人生を背負わせたくはなかった。
僕の手のぬくもりを感じたのか、子どもが小さく身じろぎした。
眠ったまま、ふっと笑みを浮かべる。
まるで、つらい気持ちを見透かして、僕を慰めてくれているようだった。
その瞬間、涙がこぼれた。
僕はそっと手を引き、立ち上がってベランダへ向かった。
「ごめんな。こんな父さんで」
ようやく気持ちを落ち着かせた頃、別荘の扉が外から開いた。
文香は僕の前まで来ると、少し赤くなった目元を見て、淡々と言った。
「子どもの前でそんな顔をしないで。笑っていて」
簡単に言ってくれる。
もし自分の感情を思いどおりにできるのなら、僕は最初から目の前のこの女を愛したりしなかった。
彼女の心の中にはずっと恒一の存在があったことも、彼女が僕に向けていたものは本当の愛ではなかったことも……僕は最初から分かっていたのに。
深く愛した相手ほど、いちばん深く人を傷つける。
「これだけ僕を傷つけておいて、閉じ込めて、自由まで奪っておいて――
どうして、悲しむことすら許されないんだ?」
彼女はただ僕を見つめていた。どこか後ろめたそうな表情を浮かべながらも、何ひとつ言葉にできない。
数か月前のことを思い出す。
彼女が子どもを産んで間もない頃、僕は息子を予防接種に連れて行った。
そこで偶然、恒一の子を連れて予防接種に来ていた文香と鉢合わせた。
彼女はその子を大事そうに抱き、少しも目を離そうとしなかった。
どこかにぶつけはしないか、痛い思いをさせはしないかと、細やかに気を配っていた。
「沢村さん、この子、本当にあなたにそっくりですね」
その言葉に、文香の表情がふっと和らいだ。恒一は彼女の手を取り、子どもの小さな頭にそっと触れさせる。
次の瞬間、彼女は顔を上げ、曲がり角に立っていた僕を見つけた。
けれど、何ひとつ言い訳もしなかった。
ただ呆然と、その場に立ち尽くすだけだった。
なんて幸せそうな三人家族なのだろう。
もし僕が文香の夫でなかったなら、きっと心から羨ましいと言えたはずだ。
だが、僕には言えない。
そして彼女にも、その言葉を受け止める資格はなかった。
目の前の女はしばらく黙り込んだあと、ようやく何かを思い出したように――
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