この心を焼き尽くして、愛は灰になった第1話
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誰もが、小林悠斗(こばやし ゆうと)は私を狂おしいほど愛しているのだと言っていた。
たとえ私、山本伊織(やまもと いおり)と母が家を追い出されたあとでも、彼は婚約を破ることなく、私に完璧な結婚式を贈るため、たった一人で九十九回も式の段取りを繰り返したのだと。
けれど彼らは知らない。あの結婚式たちで花嫁に選ばれていたのは、みな悠斗が囲っていた九十九人の愛人の中からくじで決められた女たちだったことを。
「伊織、お前はもう小林家の嫁なんだ。あの女たち一人ひとりに式を挙げてやるだけだ。別に大したことじゃないだろ?」
私は感情のないまま、彼が差し出した札束の詰まった箱を受け取り、背を向けて病院へ急いだ。
そして、本来なら私のものだったはずの結婚式で、彼が父の隠し子の山本陽菜(やまもと ひな)を連れて壇上に上がったとき、私はとうとう涙をこらえきれず問いただした。
「誰でもいいのに、どうして彼女なの?」
悠斗は口元に笑みを浮かべたまま言った。
「彼女は俺の子を妊娠してる。
伊織、もっと大人になれ。お前の母親みたいになるなよ。年を取って、治療費までお前みたいな娘が頭を下げて回らなきゃならなくなる」
私は会場中の招待客たちの嘲るような視線を浴びながら、金を抱えて逃げるように立ち去った。
だが病院の入り口で、母が身を躍らせて飛び降りるのを目にした。血しぶきが私の顔にかかり、母は目を見開いたまま、最後の息を振り絞って私に言った。
「伊織、もうあの人に頼るのはやめなさい」
* * *
誰もが、小林悠斗(こばやし ゆうと)は私を狂おしいほど愛しているのだと言っていた。
たとえ私、山本伊織(やまもと いおり)と母が家を追い出されたあとでも、彼は婚約を破ることなく、私に完璧な結婚式を贈るため、たった一人で九十九回も式の段取りを繰り返したのだと。
けれど彼らは知らない。あの結婚式たちで花嫁に選ばれていたのは、みな悠斗が囲っていた九十九人の愛人の中からくじで決められた女たちだったことを。
「伊織、お前はもう小林家の嫁なんだ。あの女たち一人ひとりに式を挙げてやるだけだ。別に大したことじゃないだろ?」
私は感情のないまま、彼が差し出した札束の詰まった箱を受け取り、背を向けて病院へ急いだ。
そして、本来なら私のものだったはずの結婚式で、彼が父の隠し子の山本陽菜(やまもと ひな)を連れて壇上に上がったとき、私はとうとう涙をこらえきれず問いただした。
「誰でもいいのに、どうして彼女なの?」
悠斗は口元に笑みを浮かべたまま言った。
「彼女は俺の子を妊娠してる。
伊織、もっと大人になれ。お前の母親みたいになるなよ。年を取って、治療費までお前みたいな娘が頭を下げて回らなきゃならなくなる」
私は会場中の招待客たちの嘲るような視線を浴びながら、金を抱えて逃げるように立ち去った。
だが病院の入り口で、母が身を躍らせて飛び降りるのを目にした。血しぶきが私の顔にかかり、母は目を見開いたまま、最後の息を振り絞って私に言った。
「伊織、もうあの人に頼るのはやめなさい」
私は少しずつ硬くなっていく母の体を抱きしめたまま、全身の血が凍りついたように動けなくなり、口を開いても声は出なかった。
そのとき、悠斗からの着信音がせわしなく鳴り響いた。私は反射的に電話を取ってしまった。
気だるげな彼の声が聞こえてきた。
「伊織、今夜は俺と陽菜の初夜なんだ。家にゴムがないから、一箱買ってきてくれ」
震える指で電話を切ろうとしたとき、また彼の声がした。
「ああ、それとミルクキャンディも一箱な。あの子、痛がりだから、なだめてやらないと」
その瞬間、ふいに脳裏に浮かんだのは、悠斗が私と母をあの古びた賃貸の部屋から連れ出してくれた夜のことだった。
彼は優しく私の指に指輪をはめながら言った。
「わざと俺から隠れてたのか?ずいぶん探したんだぞ。
たとえお前がもう山本家のお嬢様じゃなくても、お前は俺の妻だ。伊織、俺がお前に完璧な結婚式をやる」
私たちの初めての夜、痛みで涙がにじんだ私の口に、彼はミルクキャンディを一粒押し込んで、愛おしそうに言った。
「伊織、ミルクキャンディで機嫌直してくれるか?それで俺を許してくれるならいいんだけどな」
悠斗の女癖の悪さは有名だった。それを知っていながら、それでも私は愚かなほど彼を愛してしまった。
私はあの愛人たちのことなんて気にしたことがなかった。どうせ遊びにすぎないと分かっていたから。
けれど、陽菜だけは違った。彼は陽菜との子どもを、産ませるつもりでいたのだ。
私と結婚して五年の間、悠斗はどれだけ求めてきても、最後まで必ず避妊していた。
私の身の程知らずな欲は、ついに罰を受けたのだ。彼のただ一つの例外が、よりによって私がいちばん嫌っている相手だったなんて。
もし陽菜さえいなければ、母は夫を失わずに済んだ。私だって父を失わずに済んだのに。
彼はいつもと同じように、先に電話を切った。私は茫然としたまま、母が霊安室へ運ばれていくのを見つめていた。
小さな箱を手渡されたとき、私はついに耐えきれず、声を上げて泣き崩れた。
死亡確認書を受け取ったあと、一本の電話がかかってきた。
「伊織様、DNA鑑定の結果、お母さまは九条家の当主様が若いころに行方不明になった実の娘さんだと判明しました。
チケットはすでに手配してあります。お祖父さまにお会いになりますか?ご心配なく。当主様は世間で噂されているほど恐ろしい方ではありません」
私は母の遺骨の箱をきつく抱きしめ、涙で顔を濡らしながら答えた。
「……はい」
「では三日後、パスポートをお持ちください。こちらでお迎えを手配します」
私は感覚のないまま家へ戻った。だが、そこで酔っぱらった御曹司たちの大声が耳に飛び込んできた。
「悠斗さん、山本陽菜って伊織さんの異母妹だろ?あの女のこと一番嫌ってたんじゃなかったのか?なんで今日の花嫁が急にあいつになったんだよ?」
悠斗はゆったりと赤ワインのグラスを揺らし、くすりと笑った。
「仕方ないだろ。子どもの母親なんだ。それなりの家柄じゃないとな」
場がひとしきり沸いたあと、誰かが恐る恐る尋ねた。
「悠斗さん、じゃあ伊織さんはどうするんです?」
悠斗は意地の悪い笑みを浮かべた。
「伊織か?あいつは聞き分けがいいんだ。俺があいつの目の前で他の女を抱いても、おとなしくゴムを手渡してくるくらいだからな。結婚式なんて一度くらいあとで埋め合わせしてやればそれで十分だろ」
一同はどっと笑い出した。
「悠斗さんも向こう見ずだな。伊織さんが本気で怒って出ていったらどうするんだよ。だって山本陽菜さえいなけりゃ、伊織さんは今でも山本家のお嬢様だったんだからな!」
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