お人好しな父もういらない第3話
この話は約2172字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
教室の外で、クラスメイトが尋ねた。「田中さん、あれお父さんだよね。なんで伊藤さんの保護者会に出てるの?」
伊藤の目には得意げな光が浮かんでいた。
「自分の父親がいないからって、人の父親を奪いたいんでしょ。知らないけどね」私は気にしないふりをして言った。「どうせ私の両親はもう離婚した。この父親なんてもういらない」
隣の席の子が私の視線を察し、小声でわざとらしく言った。「聞いた話だけど、伊藤のお父さんって実は......」
伊藤は青ざめた顔で、大股でその場を立ち去った。
私は冷たい笑みを浮かべた。
前世の保護者会でも、母が来られず、父が代わりに出席した。父は「伊藤の母親が病気で来られないから、君たちはクラスメイトだし、ついでに出席しただけだ」と言った。
だが、座ったのは伊藤の席だった。
あの日、伊藤の得意げな顔やクラスメイトたちの哀れむ視線に、私は全身が冷え切った。
あの時、逃げるように去ったのは私だった。
保護者会の後、母と一緒に病院で妊婦検診を受けた。お腹の子供は順調だった。
母は妊娠に気づいていたが、当初その子を産むつもりはなかった。それを私が説得したのだ。
「お母さん、その子を産んで。私、地元の大学に進学するつもりだから、一緒に面倒を見るよ」
母は何度も考えた末、産むことを決めた。
私たちはその子が弟なのか妹なのかを話し合い、たくさんの名前を考え、赤ちゃん用品を買いに出かけた。
週末、私は「友達と教科書を買いに行く」と言い訳をし、本当は父に会いに行った。
父は当直中だった。
前世の同じ時期にも保護者会が終わった後、伊藤の成績はクラスで最下位だった。伊藤の母が泣きながら父に補習費を貸してほしいと頼んでいたのだ。
「お父さん、ピアノのレッスン料がもうすぐ締め切りなんだ。先生のところに何回も遅れてるんだから」私はそう告げた。
父は一瞬驚いた表情を見せ、困った様子で言った。「今ちょっと手元が厳しいんだ。先にお母さんに払ってもらえないか?」
「お父さん!離婚の時に、学費や習い事の費用はお父さんが払うって約束したじゃない!それを今になって破るの?」私は声を上げた。
「そんなつもりじゃないよ」父は慌てて弁解した。「ただ、もうすぐ三年生で、今は勉強が大事な時期だから、ピアノは一旦休んだ方がいいかもしれない。後で再開すれば......」
彼の丁寧な言い訳は、前世とまったく同じだった。
どうやら伊藤の母はもう父にお金を借りていたらしい。
「お父さん、お金は伊藤の補習に使っちゃったんでしょ。それで私のピアノレッスン代がないんだ!」私は冷笑を浮かべた。「いったい誰の父親なの?」
「もう知ってるんだね?」父は口ごもりながら言った。「なんとかするよ、心配しないで」
周囲の人々が気まずそうに見守る中、父は同僚からお金を借りて私に渡した。
父が私を外まで送ってくれ、タクシーを待っている間、私は言った。「お母さんが妊娠してるの。あれもあなたの子供だから、少しでも良心があるなら、養育費を払うべきだよ」
タクシーが発車する時、窓越しに父の驚きと喜びが入り混じった表情を見た。
母が子供を産むことを決めたことで、父は復縁のチャンスがあると思い込み、母を訪ねてきたが、追い返された。
それ以来、父は頻繁に食べ物や日用品を送ってくるようになった。離婚前よりも気遣いが増したほどだ。
給料の半分もきちんと母の口座に振り込まれるようになった。
父がお金を私たちに使うほど、伊藤の家に回るお金は少なくなる。
前世では、伊藤の母は様々な理由で父にお金をせびっていた。
「伊藤にはあんな父親がいるんだから、せめて身なりだけでも良くしないと同級生に馬鹿にされる」と言ってブランド物の服や靴を買ったり、
「補習クラスが効果がなくてやめたから、もっと良い先生を雇いたい」と言っていた。
だが、私の隣の席の子は家がアパレル業で、伊藤の服や靴は一目で偽物とわかるし、
補習クラスにも一日も通ったことがなかったらしい。結局、伊藤の母がすべて自分に使っていたのだ。
今世では、私もあらゆる理由をつけて父にお金をせびった。ピアノレッスン、補習費、季節ごとの服、弟の養育費、誕生日、母の妊婦検診......
何かしらの理由を必ず見つけて。
父の給料は限られており、すぐに生活が厳しくなり、職場に住み込むようになった。そして友人や同僚に頻繁に借金をするようになった。
母がその話をした時、私は念を押した。「お母さん、男を哀れんではダメだよ」
「何を言ってるの、母さんはそんなに甘くないよ」母は笑いながら、私のおでこを指で突いた。
「でも、あんまり父さんからお金を取るのもやめなさい。母さんがちゃんと育ててあげるから」
「それは嫌だ。父さんがお金を他人の子供に使うなんて許せない。私は彼の娘なんだから、当然の権利よ!」私は反論した。
お金は始まりに過ぎない。父も伊藤も、私は絶対に許さない。
すぐに好機が訪れた。
月例テストの後、伊藤は相変わらずクラスで最下位だった。
私は「勉強のための教材を買う」と言って父に電話をし、お金をせびった後、父はこう切り出した。「暇な時に伊藤に勉強を教えてあげられないか?君は成績がいいし、助けてやってくれ」
私は即答した。
父は感激して言った。「奈奈は本当にいい子だ」
補習の日、伊藤の表情を見て、彼が何を企んでいるのかはすぐにわかった。
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