あなたを知りません、六年後の再会第1話
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大地震から6年後、私、森川彩華(もりかわ あやか)は外国で、妊娠中の妻のために祈りを捧げに来ていた檜山宗弥(ひやま そうや)と再会した。
彼は信じられないものを見るような目で、私を見つめていた。
私を見た時の彼の驚愕した顔といったら、まるで私が瓦礫の下で白骨化してしまったと思い込んでいたかのようだった。
「彩華……大丈夫なのか?」
私は彼に答えなかった。
夫のために一本の線香を供え、祈りを終えると、そのまま背を向けて立ち去ろうとした。
すると、宗弥が追いかけてきて、私の手首を掴んだ。
「6年前……君に何かあったと思っていた……
本当に後悔している。俺を許してくれないか?」
私は静かに彼の手を振りほどき、微笑みながら答えた。
「すみません。私たち、どこかでお会いしたことがありますか?」
宗弥は深くため息をついた。
「まだ俺を恨んでいるんだな。だから、俺から逃げるために出家したんだろう?頼む。君に償う機会をくれ」
どうやら、私が身につけていた白い僧衣が、彼に誤解を与えたらしい。
けれど、私がここへ来た理由は、彼から逃げるためではない。
私はただ、もうすぐ上場する夫の新しい会社のために祈願に来ただけだった。
そしてついでに――
寺院の高僧に、傷だらけのまま心に残っているこの記憶を浄化してもらうためだった。
これから先、宗弥はもう二度と、私の人生に存在することはない。
* * *
「君が今、辛いと分かっている」
宗弥はそう言いながら、目を赤くした。
その瞳には、どこか上から見下ろすような哀れみが浮かんでいた。
彼は昔から変わらない、いつも自分を「救世主」の立場に置きたがる。
この世界は悲劇で満ちていて、自分なら、すべてを救える。
そんな風に、頑なに信じている。
けれど6年前、あの大地震が起きた時、彼が救おうと向かった先は、妊娠していた私ではなかった。
彼は私を置き去りにして、迷うことなく後輩の水嶋優里(みずしま ゆうり)のもとへ駆けつけた。
瓦礫の下に取り残された時の絶望は、今でも鮮明に覚えている。けれど――
私の心は、もう二度と傷つくことはない。
今こうして彼の瞳を見ても、そこに映るのはただの他人だった。
自分には関係のない、見知らぬ人。
「……失礼ですが。これ以上、私に近づかないでください。
私の見間違いでなければ、あちらにいる方があなたの恋人なのでしょう?
もしこれ以上、こんな形で私を困らせるというなら――
私のボディーガードに、あなたと話をしてもらいます」
宗弥は私が指差した方向へ視線を向けた。
そこには銀色のロールスロイスの前に、数人のボディーガードが立っている。
武装した彼らは警戒した目で宗弥を見つめ、いつでも動けるよう身構えている。
宗弥は眉をひそめた、一瞬だけ、顔に緊張が走る。
けれど次の瞬間――彼は笑い出した。
「彩華、君は相変わらず幼いな。
俺を恨んでいるからって、寺に隠れて記憶喪失のふりをしているんだろう?
俺が知らないと思ったか?
ここの寺院は修行の場だ。僧侶たちは質素で慎ましい生活を送っている。
そんな場所にいる君と、あのロールスロイスがどう結びつくっていうんだ?」
自信満々だった彼の笑顔は、そのまま固まった。
ボディーガードたちが一斉に駆け寄り、彼を取り囲んだからだ。
その瞬間、宗弥はようやく笑えなくなった。
「何をするの!私の夫を放して!」
妊娠したお腹を抱えながら、優里がボディーガードたちを引き止めようとする。
そして、彼女は私と目が合った瞬間、同じような驚愕をその瞳に浮かべた。
「……彩華、あなた……生きていたの?」
その驚きは、すぐに恐怖と不安へと変わった。
まるで、私が宗弥を奪ってしまうことを恐れているかのように、彼女は必死に宗弥の腕を抱きしめた。
私に対して、自分の立場を示すように。
けれど私はもう、宗弥に対して何の感情も残していなかった。
ただ静かに手を振り、ボディーガードたちに二人を追い出すよう指示した。
寺院の外へと連れ出される途中、宗弥は突然振り返り、大声で叫んだ。
「彩華!どうして、こんなくだらない芝居で俺を騙すんだ?
今の俺は東雲グループのサプライヤーになったんだ。
君を支援することだってできる……」
私は微かに眉を上げた。
東雲グループと繋がれたことは、宗弥にとって一生誇れるほどの幸運なのだろう。
けれど私にとって、東雲グループなど、夫がまもなく上場させる一企業に過ぎない。
私は彼の続きを聞く気にもならなかった。そのまま背を向け、逸雲(いつうん)上人のいる禅院へ向かった。
ここ一年ほど、私は何度も、あの大地震の夢を見る。
そして悪夢にうなされ、何度も目を覚ましていた。
何年経っても死の淵で感じたあの絶望は、再び私を覆い尽くす。
今回、逸雲上人を訪ねた理由はただ一つ。
あの記憶を、法の力によって消し去ってもらうためだった。
宗弥のこともすべてを忘れてしまうことが、きっと一番いい結末なのだ。
私は逸雲上人に合掌した。
上人は一冊の経典を、静かに私の前へ差し出した。
「森川施主よ。意根と法塵が交わり、念が生じぬこと、それこそが忘却である。
これより術を用いて、過ぎ去りし因縁を取り出し、大乗仏法によって悪夢を洗い流そう。
かつての人も、過ぎ去った出来事も、すべては泡沫の幻となる。
施主よ――本当にその決意がおありですか?」
私は静かに頷いた。
次の瞬間、宗弥に関する記憶がまるで映画のように、私の目の前で流れ始めた。
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