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あなたへの愛は春まで待てない第3話

この話は約1966字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

朝食を終えると、辰巳は説明もなく南の手を強引に引いて車に乗せ、山の上の別荘へと向かった。

これまで毎年、彼は彼女のためにサプライズを用意し、彼女もそれを楽しみにしていた。

だが今回は、車の外に流れ去る景色を眺めながらも、彼女の気分は冴えなかった。

車が山の中腹に差しかかったとき、辰巳のスマホが突然鳴った。

相手の声は小さかったが、南ははっきりと聞き取れた。

「社長、白野さんは環境の変化に慣れず、高熱を出してしまったようです」

彼がスマホを握りしめ、眉をひそめるのが見えた。「わかった、すぐに向かう」

耳をつんざくようなブレーキ音が響き、南は不意を突かれて前のめりになり、グローブボックスに手をついて、なんとかガラスにぶつかるのを免れた。

「南、ちょっと急な用事ができたんだ」彼は車のロックを解除しながら言った。「ここで少しだけ待っててくれる?すぐ戻るから。今日は君の誕生日だから、絶対に台無しにはしない」

彼女は何も言わずにうつむいてシートベルトを外し、口元にかすかな苦笑を浮かべた。

車を降りた瞬間、熱風が彼女に襲いかかり、瞬時に額には薄い汗がにじんだ。

彼女は猛スピードで走り去る車の後ろ姿を見つめていた。彼は彼女を別荘まで送ることすら待てず、焦るようにその場を去っていった。

胸をえぐられるような痛みが走り、息をするたびに血の味がした。

彼女はまるで人形のように動けなくなり、灼熱の49度の中に五時間も立ち続けた。容赦ない日差しは彼女の肌を焼き、滝のような汗が流れ落ちた。

システムは見かねて口を開いた。「もう待たなくていいですよ、彼は若子と一緒に病院へ行ったから」

一本の映像が南の眼前にリアルタイムで映し出された。

映像の中で、辰巳は顔を赤らめた若子を慎重に抱きかかえ、病院の廊下を大股で歩いていた。彼の顔には、本人も気づいていないほどの緊張が浮かんでいた。

南の顔は青ざめ、震える手でスマホを取り出して番号をかけた。電話は応答がなく、自動的に切れた。

彼女はもう一度かけたが、やはり応答はなかった。彼女はそれ以上かけ直さず、スマホを持つ手を力なく体の横に垂らした。

システムの声が脳内に響いた。「頑固だと言われたことありますか?」

南はうつむき、口元をわずかに歪めた。確かに彼女は頑固だ。それを指摘した人も一人や二人ではなかった。でも、これが彼女にとって最後の頑固になるだろう。

振り返って彼女は山を下り始め、夜になってようやく家にたどり着いた。玄関に入った時点で体力は完全に尽き、その場に倒れこんだ。

彼女は執事が慌てたように駆け寄って来て、自分をソファーまで支えて行き、それから辰巳に電話をかけるのを聞いた。

「旦那様、奥様が熱中症で倒れました!」

「何だって!?」辰巳の切迫した声が響く。「すぐに医者を呼んでくれ、今すぐ戻る……」

そのとき、電話の向こうから医者のかすれた声が聞こえた。「社長、白野さんの熱がまた上がりました……」

受話器が遠ざけられ、騒がしい音の後、再び彼の声が聞こえた。「妻のことは頼んだ。こちらで少し用事ができて、すぐには戻れない」

電話が切られ、リビングは再び静寂に包まれた。かつて南が少しでも体調を崩せば、辰巳は数億円の商談中でも、たとえ遠く離れた海外にいても、すぐに彼女のもとへ駆けつけていた。

けれど今では、「憎んでいる」と自ら語る相手のために、彼は彼女を見捨てた。

辰巳、本当に憎んでいるの?

心臓を大きな手で握りつぶされるかのような、重苦しい痛みが襲った。

執事は彼女が身をかがめたのを見て我に返り、医者を呼ぼうとしたが、南は彼を呼び止めた。口元に浮かべたのは泣くよりも見苦しい笑みだった。

「医者はいらないわ。少し休めば大丈夫だから」

執事がまだ迷っていると、彼女はソファに手をついて立ち上がり、足を引きずりながら部屋へ戻っていった。

辰巳が戻ってきたのは三日後だった。彼が持ち帰ったのは、ひときわ高価そうなネックレスだった。

「ごめん、ここ数日大事な用事で手が離せなくて、帰れなかったんだ。怒らないでくれないか?」

彼は彼女を抱きしめ、許してくれるまで決して離そうとしない勢いだった。

その「大事な用事」って、若子の世話をすることだったのか?

南の目に自嘲の色が浮かび、話題をそらした。「それ、何を持ってるの?」

「君へのネックレスだよ」辰巳は手にしていた箱を開けた。中には華やかなネックレスが入っており、彼はそれを丁寧に彼女の首にかけた。その眼は驚きと賞賛に輝き、すっかり虜になっているようだった。

「オークションでこれを見た瞬間、君にぴったりだと思ったんだ。やっぱりね。

今夜はパーティーがあるから、それをつけて行こう」

辰巳は上機嫌だったが、彼女は何も言わなかった。夜、辰巳が彼女を連れて宴会に向かい、入口に着いて初めて若子も来ていることに気づいた。

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