あなたの悔いを待たない第1話
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私・天野汐里(あまの しおり)、鳴海蒼介(なるみ そうすけ)と結婚して十五年目。彼の女遊びは、相変わらず絶えない。
私たちだって、かつては愛し合っていたのだ。
あの日――私の誕生日を祝うために来る途中だった義母が、交通事故で亡くなるまでは。その日を境に、私たちは「憎しみ」だけで繋がった夫婦に成り果てた。
彼は純粋に私を憎み、私は……それでも彼を愛していた。
ある日、主寝室のベッドの下を掃除していた私は、結び目のついた避妊具をいくつか掃き出した。中身は、たっぷりと詰まっていた。
とっくに慣れっこだったはずなのに、私はトイレに駆け込み、胃の中身をすべて戻すほど激しく嘔吐した。
鏡に映る、枯れ木のようにやつれた自分の顔を見て、思った。いくら私の罪が重くとも、もう償いは十分だろうと。
あの十年の愛と罪悪感だけを頼りに、とっくに私を愛していない男に、残りの人生を捧げるわけにはいかない。
私は「骨肉腫末期」と記された診断書をしまい込むと、久しぶりに新しいドレスを買い、完璧にメイクを施して、今まで一度も足を踏み入れたことのないクラブの扉を開けた。
人生の最期の時間くらい、自分のために生きたいと思ったからだ。
だが、ホストを侍らせて座る私を見た瞬間、蒼介は狂ったように激昂した。
* * *
私・天野汐里(あまの しおり)、鳴海蒼介(なるみ そうすけ)と結婚して十五年目。彼の女遊びは、相変わらず絶えない。
私たちだって、かつては愛し合っていたのだ。
あの日――私の誕生日を祝うために来る途中だった義母が、交通事故で亡くなるまでは。その日を境に、私たちは「憎しみ」だけで繋がった夫婦に成り果てた。
彼は純粋に私を憎み、私は……それでも彼を愛していた。
ある日、主寝室のベッドの下を掃除していた私は、結び目のついた避妊具をいくつか掃き出した。中身は、たっぷりと詰まっていた。
とっくに慣れっこだったはずなのに、私はトイレに駆け込み、胃の中身をすべて戻すほど激しく嘔吐した。
鏡に映る、枯れ木のようにやつれた自分の顔を見て、思った。いくら私の罪が重くとも、もう償いは十分だろうと。
あの十年の愛と罪悪感だけを頼りに、とっくに私を愛していない男に、残りの人生を捧げるわけにはいかない。
私は「骨肉腫末期」と記された診断書をしまい込むと、久しぶりに新しいドレスを買い、完璧にメイクを施して、今まで一度も足を踏み入れたことのないクラブの扉を開けた。
人生の最期の時間くらい、自分のために生きたいと思ったからだ。
だが、ホストを侍らせて座る私を見た瞬間、蒼介は狂ったように激昂した。
……
初めて足を踏み入れたクラブ。耳をつんざくような大音量の音楽と、明滅するライトに、少しめまいがした。
アルコールと香水が混じり合った濃厚な空気は、死んだように生きてきた私のこの十年とは、あまりに異質だった。
私は隣のボックス席の見よう見まねで、一番高い酒を注文した。そしてマネージャーに告げた。
「ここのお店で一番いいホスト、全員呼んでちょうだい」
マネージャーは一瞬呆気にとられたようだが、すぐに営業用の貼りついた笑みを浮かべた。
ほどなくして、若く生き生きとした男の子たちがずらりと私の前に並んだ。誰もがスラリとしていて、整った顔立ちをしている。
私は微笑んだ。「みんな座って。特別なことはしなくていいわ、ただお喋りに付き合ってくれればそれでいいの」
彼らは顔を見合わせたが、素直に従って席に着いた。
私のような客は珍しいだろうが、接客の手間がかからない分、彼らにとっても悪い話ではないはずだ。
私はただ知りたかったのだ。蒼介が普段どんな遊び方をしているのか。私も同じことをしてみたかった。
ソファに深く身を預け、彼らの賑やかなお喋りに耳を傾ける。
話題はゲームや、最近見た映画のこと。私はただ静かに聞き入り、彼らが差し出してくれるフルーツを口に運んだ。
そうか、これが蒼介の日常なのか。若く鮮やかな生命に囲まれ、その精気を吸い上げることで、自らの成功と魅力を確かめているのだ。
そう考えていた矢先、個室のドアが凄まじい音を立てて蹴り開けられた。
入り口に立っていたのは、蒼介だ。仕立ての良い高級スーツを身に纏い、髪は一糸乱れず撫でつけられている。
その背後には、同じく身なりの良い友人たちが数人控えており、一様に野次馬根性を隠さないニヤついた表情を浮かべている。
彼の視線は鋭い剣のように室内を薙ぎ払い、最後に私を射抜いた。
そこに驚きはない。あるのは氷のような冷笑と、煮えたぎるような怒りだけだ。
「汐里、いい度胸だな」
彼は一歩ずつ近づいてくる。その強烈な威圧感に、周りの男たちは一瞬にして押し黙った。
「こんな掃き溜めで遊ぶことを覚えたか?」
彼は私を見下ろし、氷の刃のような声で吐き捨てた。
「誰の許しを得て、こんな真似をしている?」
私は彼を見上げた。
彼の怒りに満ちた瞳を見ても、身体が竦まなかったのは、この十年間で初めてだ。
「疲れたのよ、蒼介」
私の声は、驚くほど穏やかだった。
「少しぐらい、楽しい思いをして過ごしたかっただけ」
「楽しい思いだと?」
彼はとてつもない冗談でも聞いたかのように鼻で笑うと、猛然と身を屈め、私の手首を乱暴に掴み上げた。骨が砕けそうなほどの力だ。
「お前にそんな資格があるとでも?
来月は母さんの命日だぞ。よくもこんな場所でどんちゃん騒ぎができるな?汐里、お前はどういう神経しているんだ?」
手首に走る激痛に、私は思わず眉をひそめた。
「お前は母さんを殺したんだ。一生、俺の奴隷として罪を償い続ける義務がある!俺が何をしようとお前は耐えるしかないんだ。それなのに、外で男遊びだと?俺の顔に泥を塗る気か、このあばずれが!」
彼の言葉は鋭利なナイフとなり、私の最も柔らかく痛む場所を正確に抉った。
そうだ。私に幸せになる資格なんてない。
私は、罪人なのだから。
彼がもう片方の手を振り上げる。平手打ちが飛んでくるのが見えた。
私は目を閉じ、避けることもしなかった。
だが、予想していた痛みは訪れなかった。
力強い手が振り下ろされた蒼介の手首をガシリと受け止めていたのだ。
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