あなたの冷たさに、愛は霞んで第3話
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「そういう安物が似合うのは、男にすがるような安っぽい女だけよ」
静香は顎を上げ、得意げに私を一瞥した。
「そうですよね、美波さん?」
箱を握る指先が白くなる。私はかすかに笑って言った。
「仮病ばかり使ってると、いつか本当にそうなるわよ」
そう言って私は、指輪の箱をゴミの山へ放り投げた。
翌日になると、救援隊のほうから、ワクチンが届いたと知らせが来た。
私はベッドから身を起こし、高熱を押して受け取りに向かった。だが、救援隊長は言いにくそうに口ごもった。
「最近はウイルスに感染する人が多くて……ワクチンはもう配り終えてしまったんです。あなたのお兄さまから頼まれていたので、本来なら一本はあなたのために残してあったんですが。さっき賀川先生が来て持って行かれました。谷口静香さんに使うと……」
全身の骨が侵されるように痛んだ。私は雅文を探しに行った。
「ワクチンは?返して」
雅文は視線をそらし、やわらかな口調で言った。
「静香が具合が悪いと言っていたんだ。高熱が下がらなくて、症状もウイルス感染にすごく似ていた。だから先に打った。次のワクチンはもうすぐ届く。それまで少しだけ耐えてくれ」
痛みで全身が震え、私は目を真っ赤にして叫んだ。
「もし本当に感染しているなら、救援隊でワクチンを受け取ればいいでしょう。可能性があるってだけで、人の分を奪っていいはずがない!
ウイルスが長く体内に留まれば、神経系に異常が出るのよ。下手をしたら私は麻痺するかもしれない――あなたなら、それくらいわかっているでしょう!」
雅文は唇を二度ほど動かし、何か言おうとした。その時、静香が突然現れ、へりくだるように私へ哀願した。
「美波さん、賀川先生にワクチンを私に回してほしいって頼んだのは、私なんです!美波さん、この前ウイルスに感染した時も乗り切れたじゃないですか。
だから今回も大丈夫だと思って、深く考えなかったんです。責めるなら私を責めてください!全部、私が悪いんです!」
そう言い終えるや否や、彼女は泣きじゃくりながら何度も私に頭を下げた。雅文は慌てて彼女を引き寄せ、私に警告するような目を向けた。
「もうやめろ!ワクチンを受け取れなかったのはお前だけじゃない!それに、お前だって今はこうして無事じゃないか。静香が必要としていると知っていて、わざと彼女に突っかかってるようにしか見えない!」
悔しさに涙が止まらなかった。
前にウイルスに感染したのは、ちょうど半年前。あの時はワクチンも届いていて、全員にきちんと行き渡るはずだった。
けれど静香は、自分の分をうっかり落として駄目にし、私の分を奪っていった。その時も、彼女は今日と同じだった。
泣きながら私に謝り、雅文はすぐさま私が大げさに騒いでいると決めつけた。
「静香だって、わざとワクチンを駄目にしたわけじゃない。症状なんて風邪みたいなものだ。少し我慢すればやり過ごせる。そんなに大騒ぎするな」
私は資源を無駄にしたくなくて、二か月間も薬を飲みながら、どうにか持ちこたえた。けれどその代償に、体の臓器にはもう後遺症が残っていた。
そして今回もまた、彼は迷いなく静香の側に立った。
「彼女が私のワクチンを奪ったせいで病状が悪化したのに、それでも私が彼女を目の敵にしているとでもいうの?」
私が問い返すと、雅文は唇を引き結んだまま何も言わなかった。すると静香は怯えたように後ずさりしながら、慌てて言い募った。
「今はちょうど戦況がきつくて、前線では医師がいちばん必要なんです。美波さん、もし病状が悪化して、ほかの先生たちにうつしたらどうするんですか?賀川先生!私は、美波さんを隔離室に入れるべきだと思います!」
隔離室――そこは重症患者を収容する場所だった。
治療の手立てがなく、死を待つしかない不治の病の感染者たちが集められている場所。雅文は、血の気を失った私の顔を見つめ、眉をひそめて迷いを見せた。
「隔離室の患者には、まともな治療も行われていない。彼女の病状は、まだそこまでじゃ――」
静香はしゃくり上げ、さらに泣きわめいた。
「でも私はもともと体が弱いんです。それに美波さんは、いつも賀川先生にまとわりついてくるじゃないですか。
もしそのウイルスが先生にうつって、それがまた私に感染したらどうするんですか?先生、うちの両親に、ちゃんと私の面倒を見るって約束したでしょう!」
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