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あなたに二心があると聞いたから、別れに来た第2話

この話は約1677字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私はもう、玉に心を揺さぶられることなんてないと思っていた。

彼に二度と傷つけられることもないと、信じていた。

けれど、私は所詮、ただの人間だった。

感情を持たない機械ではなかったのだ。

幼い頃から一緒に育った幼なじみ。五年も恋人として過ごした相手。

そんな彼が、たった数ヶ月で別の誰かを「本命」にして、私をまるで化け物みたいに扱うようになるなんて。

かつては、彼にとって何よりも大事な私だったのに。

それでも、涙は見せたくなかった。

だから無理に笑顔を作って口を開いたけれど、喉がつまって、声がかすれていた。

「玉、私たちは長く一緒にいたでしょう?私がどんな人間か、わかってるはずよ」

玉は眉をわずかにひそめ、私の顔を見つめていた。

何かを思い出したのか、ほんの少しだけ表情が和らいだ。

そのとき。

「玉くん……お姉ちゃんとケンカしないで」

桜宮が口を開いた。

「部屋を譲ってもらったのは私が悪かったの。お姉ちゃんが怒るのも当然だよね……」

彼女の声は次第に小さくなり、まるで誰かに責められているかのような調子だった。

その瞬間、玉の目から最後の信頼の色が消えた。

瞳は冷たく、光を失っていた。

「姉なんだから、妹に譲るのは当然だ。たかが部屋一つのことで、どうしてそんなに執着するんだ?

以前のお前は純粋で優しかったのに、今はなんでこんなに狭くて嫉妬深くなったか」

心が真っ二つに裂かれるようだった。

ひとつはまだ痛み、彼への想いを叫んでいた。あれほど愛した人を、そう簡単には忘れられないと。

でも、もうひとつの心は静かに言っていた。もう終わりにしよう、と。

この家を出て、玉から離れて、お互いの人生から消え去るべきだと。

玉は桜宮を抱き寄せ、彼女の怪我を気遣いながら部屋を出て行った。

まるで私など、最初から存在していなかったかのように。

私はぼんやりとした足取りで部屋に戻り、荷物をまとめはじめた。

ここを出るなら、すべてを置いていこう。

下からは、桜宮の笑い声が聞こえてきた。

継母の声、父の声、玉の声。

みんな、惜しげもなく桜宮に優しさを注いでいた。

私は、完全に部外者だった。

荷物は多くなかった。

着替えと、母が遺してくれた紫檀の箱だけ。

その中には、母との大切な思い出が詰まっている。

スーツケースを引いて、家を出るようとした。

あの小さな部屋には行くつもりはない。

もうすぐ出て行くのだから、自分を苦しめる必要はないから。

ホテルにでも泊まって、静かに過ごせばいい。

「お姉ちゃん」

背中越しに、桜宮が呼びかけてきた。

「ねえ、お誕生日にパパからもらったネックレス、見なかった?すごく大事なものなんだけど……」

「見てないわ」

私は彼女と関わりたくなかった。

今すぐにでもこの息苦しい空間から離れたかった。

桜宮は目を潤ませて続けた。

「でも……あれ、私の一番のお気に入りなの。パパのプレゼントだし、なくなったら本当に悲しい……

姉ちゃんが持ってるなら、返してくれない?

パパが私ばかり可愛がるから、姉ちゃんが嫌な気持ちになるのはわかってる。

でも……気に入ったなら、他のネックレスは全部あげるから、お願い……」

そこに継母の声も重なった。

「明空、桜宮ちゃんに返してあげて。後で私がもっといいの買ってあげるから、ね?」

たった数言で、私が「盗んだ」ことにされていた。

「私、取ってない」

そう答えたものの、桜宮は父の方を見て、涙ぐんで言った。

「パパ……お姉ちゃんのスーツケース、ちょっと見てくれない?」

胸の奥に、悪い予感がじわじわと広がっていった。

また罠だ。あいつは、また私を陥れようとしている。

この家に来てからずっと、彼女はそうしてきた。

私を愛してくれていた父を失望させ、私と愛し合っていた玉の心まで、変えてしまった。

父は黙って立ち上がり、私をきつく見つめた。

「明空……本当にお前が持ってるなら、今返せ。そうすれば、今回のことは水に流す」

「だから言ってるでしょ。取ってないって」

父はもう何も言わず、私のスーツケースを無理やり取り上げ、中を乱雑に探り出した。

そして――母の形見が入った紫檀の箱の中から、あのダイヤネックレスを見つけ出したのだった。

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