あなたと永遠の別れを第3話
この話は約1557字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「清枝、私と基成くんの婚約式には来てくれないの?」
「あなたは基成くんの元婚約者だけど、彼はずっとあなたを妹のように思っていたわ。私はその義姉になる身として、あなたの祝福が欲しいの」
私は遠くの姿に目をやった。
彼は高級車のそばに寄りかかり、穏やかなまなざしを浮かべていた。
その瞬間、胸の中に不思議と静かな感情が広がっていった。
「ええ、二人が末永く添い遂げますように。心からお祝いするわ」
基成は数人の友人とテラスで酒を飲んでいた。
彼の視線はたびたび安芸たちのほうへ向けられる。
彼女たちがまた清枝に何かを伝えに行ったことくらい、彼には手に取るように分かった。
昔からそうだった。
彼のそばに他の女性が現れれば、すぐに彼女たちは清枝に報せる。
すると清枝は怒って駆けつけ、騒ぎを起こす。
彼はそういう面倒が何より嫌いだった。
そのうち、他の女性との関係も全て断つようになった。
今回も、どうせ同じ結末になると思っていた。
だからこそ、清枝が江松へ行く日を選んで婚約式を開いたのだ。
ただ、少しばかりタイミングが悪かった。
婚約式の開始は午後七時。
基成は額を押さえ、少しばかり頭を痛めていた。
清枝が情報を聞いてすぐに飛行機を取れば、ちょうど式に間に合ってしまうのだ。
「基成、もし清枝が乗り込んできたらどうする?」
「そうだよ、お前の元婚約者だし、他の女と婚約するって知ったら、間違いなく発狂するだろ」
「でも最近、あいつやけにおとなしくないか?」
「お前、白河のために婚約破棄までしたのに、あの子全然騒がなかったもんな」
「前なら泣き叫んでたはずだろ」
基成の手にあったワイングラスが空中で止まった。
口に運ぶのを忘れていた。
頭の中で、友人たちの最後の一言が繰り返されていた。
――清枝は、確かに最近静かすぎる。あの子らしくない。
彼はよく知っていた。あの子はそんな性格ではない。
何度拒絶しても、決して諦めなかった。何度倒れても立ち上がる子だった。
年齢を重ねて、少しは落ち着いたのかもしれないが――
基成はふと何かを思い出し、微かに笑った。ワイングラスを置きながら言った。
「見てろ。あいつが大人しく済ませるような子じゃないって、俺が一番よく知ってる」
「基成、お前……清枝が騒ぎに戻ってくるってことか?」
基成は何も答えなかった。
だが、心の中では確信していた。
あの子は昔から感情で動くタイプだ。
思春期の頃は恋愛ドラマに夢中になって、くだらない恋愛ごっこを真剣にやっていた。
その手の子どもじみた「駆け引き」を、彼は何度も体験してきた。
今の静けさも、どうせ「引いて見せて押す」だけの駆け引きだ。
賭けてもいい。
式が始まるまでには、必ず現れる。
「警備を強化しろ」
基成は腕時計を見ながら命じた。
「関係ない奴は中に入れるな。騒ぎを起こさせるな」
言い終わらぬうちに、安芸が慌てて駆け寄ってきた。
「お兄さん!清枝が来たって!車がもう正門に着いた……!」
基成は胸の奥にざわめきを覚え、すぐに険しい顔つきになった。
「まったく、反省って言葉を知らないのか。まだ騒ぎに来るなんて……!」
「お兄さん、どうするの?彼女が暴れたら、うちの顔が丸潰れになるよ……」
基成は顔を曇らせ、無言で大股に歩き出した。
「行って、どんな芝居をするつもりか見てやる!」
人々が彼の後を追うように、ぞろぞろと外へ向かう。
テラスを出ようとしたそのとき――
「基成くん」
月美の柔らかな声が、彼を呼び止めた。
彼女はシャンパン色のドレスを纏い、上品にまとめた髪に、淡く清楚なメイクを施していた。
婚約式は夜七時。あと数時間ある。
心の内では不安を抱えながらも、その表情は穏やかだった。
「どうしてこっちに?」
基成は足を止め、彼女の顔に視線を落とした。
月美は――やはり美しい。
守ってあげたくなるような、繊細で優しい美しさを持つ人だった。
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