あなたと永遠の別れを第1話
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婚約者に人前で結婚を破棄された翌日、私は飛行機に乗って江松市へ向かった。
彼は恋人を慰めながらこう言った――
「早乙女清枝(そおとめ きよえ)は小さい頃から甘やかされて育った。少し騒げば自分で戻ってくるさ。君が気に病むことはないよ」
友人たちは、私がなおも墨谷基成(すみや もとなり)に未練を抱き、また何か騒動を起こすのではと恐れていた。
だが、私はすでに、別の人の求婚を受け入れていたことを彼らは知らなかった。
今回の江松行きは、嫁ぐための旅だったのだ。
結婚式が近づく中、私は基成からこれまで贈られた物を一つ残らず箱に詰めて送り返した。
かつて宝物のように大切にしていた、あの想い出のネックレスさえも。
これからは、時だけが流れ、あなたとは二度と交わらない。
* * *
墨谷基成(すみや もとなり)が人前で婚約破棄したあの光景を、私は今でも思い出すたびに顔が熱くなる。
宴会場は満席だったにもかかわらず、静寂に包まれていた。
まるで空気が凍りついたかのように、呼吸の音さえはっきりと聞こえた。
基成にしっかりと手を握られていた白河月美(しらから つきみ)が、しばらくしてからおそるおそる口を開いた。
「基成くん、やめて……清枝はまだ若いんだから……」
「若い?もうすぐ二十六だろ?」
会場の隅から皮肉な声が聞こえた。
ひそひそと交わされるささやきが、場の空気をさらに重苦しくする。
私は意地になって基成の服の裾を掴んだ。現実を受け入れたくなかった。
けれど、彼を見上げたときには、すでに目が潤んでいた。
「清枝、俺にそんな酷いことを言わせたいのか?」
基成はシャンパンを置き、ゆっくりと立ち上がった。
「何度言ったら分かる?俺たちは家同士の政略結婚に過ぎない。俺は君を愛していないし、これからも愛することはない」
「じゃあ、どうして私が恋愛することを許してくれなかったの?」
私は涙交じりに抗議した。
「君は俺の『名目上』の婚約者だからだ。くだらない真似をされて恥をかくのは、早乙女家と墨谷家なんだよ」
「じゃあ、卒業式の夜、どうしてキスしたの?」
基成の目に、一瞬だけ嫌悪の色が浮かんだ。
「酔っぱらって絡んできたのは君のほうだろう」
私は思わず笑った。でも、涙は止まらなかった。
「でも、この数年、あなたのそばに他の女の人は一人もいなかった。本当に、私に対して何の感情もなかったの?」
「それは、まだ本気で好きになれる女と出会っていなかっただけだ」
基成は月美の肩を抱いた。
「これが最後だ。よく聞け。
俺が好きなのは月美で、彼女と結婚する。
今までの君の小細工なんて、今回は全部通用しない」
月美は基成の胸に身を寄せて言った。
「基成くん……」
基成は彼女に顔を近づけて、キスをした。
月美も彼の首に腕を回し、情熱的に応えた。
私の婚約披露宴の場で、彼は何の遠慮もなく他の女と人前で愛し合っていた。
その瞬間、私は卒業式の夜の、あのキスを思い出した。
同じように情熱的で、同じように甘くて、私はあの夜の夢に、四年間も酔いしれていた。
彼の心には私がいると、信じて疑わなかった。
基成は墨谷家の本宅を出て行き、月美と共に、川沿いの高級マンションに引っ越した。
引っ越しの日、彼はわざわざ友人たちに私へ知らせないよう口止めしていた。
きっと、また私が騒ぎを起こすのを恐れていたのだろう。
けれど今回は、私はもう取り乱したりしなかった。
彼の会社のビルの前で泣きながら待ち伏せするようなこともなかった。
ただ、胸の奥がひりつくような痛みに襲われたあと、私は無理やり自分に言い聞かせた。
――もう忘れよう、と。
夜、数人の友人と近くの店で食事をしていたときのこと。
会計のタイミングで、偶然月美に出くわした。
「清枝、基成くんもここにいるの。挨拶していかない?」
私は穏やかに首を振った。
「ごめんなさい、友人と約束があるので……行かないわ」
すると月美の目に、ふいに涙がにじんだ。
「清枝、私、自分の家柄があなたほど立派じゃないことは分かってる。
でもね、お願いだから、目上の人の前で私の悪口を言わないでくれない?」
私は驚いて彼女を見つめた。
「白河さん、私はあなたについて、目上の人の前で何も言ったことはない」
月美は涙を浮かべて続けた。
「分かってるの。あなたは基成くんの許嫁だったし、彼のことをずっと愛していた。
急に私たちの関係を受け入れろと言われても、戸惑うのは当たり前だと思う。
でも、清枝、同じ女性として、譲り合う心を持ってほしいの」
私は昔から、思ったことをそのまま口にしてしまう性格だった。
この言葉を聞いた瞬間、思わず声を荒げた。
「白河、お願いだから適当なことを言わないで……」
言い終わらないうちに、月美の身体がふらりと揺れ、ひざまずいて崩れ落ちた。
「清枝、本当にお願い……」
私は驚いて、とっさに彼女を支えようとした。
けれど、手が触れる前に、彼女は全身の力を失ったかのように後ろへ倒れ込んだ。
「清枝、何をしているんだ!」
背後から基成の怒声が響いた。
次の瞬間、ものすごい力で私は突き飛ばされた。
腕が鉄の手すりに激しくぶつかり、鋭い痛みが体中を駆け巡った。
「基成、違うの、これはただの誤解で……」
「まだ言い訳するつもりか!こんな手口、いつまで続ける気だ!」
基成は月美を抱きしめ、私を睨みつけた。
その視線は、私の全てを否定するように冷たかった。
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