あなたと交わらない人生第1話
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私・高瀬紗月(たかせ さつき)の婚約者・御堂圭介(みどう けいすけ)には、真っすぐで世話焼きな後輩・鷹宮真琴(たかみや まこと)がいる。
真琴は彼にマッサージをしてやり、耳かきまでしてやる。下着の買い替え時期やサイズまで把握しているほどだ。
私の誕生日に、圭介が私の好きな店を予約して祝ってくれる時でさえ、真琴は陰で念を押していた。
【言い方悪いけどさ、甘やかされて調子に乗る人、ほんとにいるから。大事にされるのが当たり前になると、気づいたら立場、完全に逆になってる。で、痛い目見るのは、だいたいそっちなんだよ】
私はトーク履歴を突きつけ、圭介を問い詰めた。
けれど、彼はたいして気にも留めなかった。
「真琴は率直なだけで、言い方がきついんだ。でも世話焼きで、根はいい子だよ。他の女みたいに、回りくどいことはしない」
彼の煮え切らない態度に腹が立って、胸の奥が痛み、別れを切り出した。
さすがに堪えたのか、圭介は顔色を変え、真琴をブロックし、もう二度と連絡を取らないと約束した。
――ところが、挙式を目前に控えたある日。
ようやく予約の取れたドレスデザイナーに、私がブロックされていることに気づいた。
調べてみて、すぐに分かった。真琴が圭介のスマホを使い、デザイナーを罵倒した挙げ句、私の予約を勝手に取り消していたのだ。
「あのドレス、正直高すぎじゃない?先輩のお金だと思うと、もったいなくて。
まあ、あんたが恥かくのは勝手だけど。でも、ああいうの、あんたに似合わなくない?周りに笑われたら、先輩まで一緒に恥かくことになるじゃん。それ、見てられないんだけど」
真琴は、にやにやと笑いながら眉を上げてみせた。
そして――私の婚約者は、迷いなく彼女を庇うように前に出た。
「心配して言ってくれてるだけだろ。そんなことでいちいち腹を立てるほうが、面倒じゃない?」
……ああ、そうか。
胸の奥に溜まっていたものが、すっと冷えていくのを感じた。もう、どうでもよくなった。
私は黙って指輪を外し、彼の頬に向かって投げた。
「もういい。結婚、やめる」
* * *
私・高瀬紗月(たかせ さつき)の婚約者・御堂圭介(みどう けいすけ)には、真っすぐで世話焼きな後輩・鷹宮真琴(たかみや まこと)がいる。
真琴は彼にマッサージをしてやり、耳かきまでしてやる。下着の買い替え時期やサイズまで把握しているほどだ。
私の誕生日に、圭介が私の好きな店を予約して祝ってくれる時でさえ、真琴は陰で念を押していた。
【言い方悪いけどさ、甘やかされて調子に乗る人、ほんとにいるから。大事にされるのが当たり前になると、気づいたら立場、完全に逆になってる。で、痛い目見るのは、だいたいそっちなんだよ】
私はトーク履歴を突きつけ、圭介を問い詰めた。
けれど、彼はたいして気にも留めなかった。
「真琴は率直なだけで、言い方がきついんだ。でも世話焼きで、根はいい子だよ。他の女みたいに、回りくどいことはしない」
彼の煮え切らない態度に腹が立って、胸の奥が痛み、別れを切り出した。
さすがに堪えたのか、圭介は顔色を変え、真琴をブロックし、もう二度と連絡を取らないと約束した。
――ところが、挙式を目前に控えたある日。
ようやく予約の取れたドレスデザイナーに、私がブロックされていることに気づいた。
調べてみて、すぐに分かった。真琴が圭介のスマホを使い、デザイナーを罵倒した挙げ句、私の予約を勝手に取り消していたのだ。
「あのドレス、正直高すぎじゃない?先輩のお金だと思うと、もったいなくて。
まあ、あんたが恥かくのは勝手だけど。でも、ああいうの、あんたに似合わなくない?周りに笑われたら、先輩まで一緒に恥かくことになるじゃん。それ、見てられないんだけど」
真琴は、にやにやと笑いながら眉を上げてみせた。
そして――私の婚約者は、迷いなく彼女を庇うように前に出た。
「心配して言ってくれてるだけだろ。そんなことでいちいち腹を立てるほうが、面倒じゃない?」
……ああ、そうか。
胸の奥に溜まっていたものが、すっと冷えていくのを感じた。もう、どうでもよくなった。
私は黙って指輪を外し、彼の頬に向かって投げた。
「もういい。結婚、やめる」
「そこまでしなくてもいいでしょ、紗月。ドレス一着で、大げさすぎ。結婚なんて、ドレスが主役じゃないでしょ」
真琴が、私の腕をつかんだ。
彼女は圭介のほかの友人たちと同じく私より年上だが、あの連中みたいに私を「紗月ちゃん」と甘く呼ぶことはない。呼び捨てで、距離を詰めてくる。
「それに、人に物を投げつけるなんて。法律の勉強してないの?恋人同士でも、暴力は犯罪だよ」
1カラットのダイヤの指輪なんて、圭介の顔に当たったところで、赤くもならない。
それより、真琴の鋭いネイルが私の腕に深く食い込み、すでに皮膚が破れていた。
育ちのせいか、人前で喧嘩を晒す真似はできない。
「――離して」
私は冷え切った声で、最後の警告をした。
真琴はびくともせず、正義を振りかざしたような口調で言う。
「先輩が警察を呼ばなかっただけでも、十分でしょ。普通ならアウトだよ。だから、あなたが謝るべき」
陰で何度も私を笑いものにし、丹念に準備してきた式の段取りまで壊しておいて、まだ謝れと言うのか。
吐き気がするほど、うんざりだった。
堪えきれず、私はもう片方の手を振り上げ、頬を叩こうとした。
その腕は、途中でつかまれた。
さっきまで真琴に絡まれても黙っていた圭介が、そのとき立ち上がった。
「もういいだろ!」
普段は私に怒鳴ることのない彼が、三度目も真琴のために私を怒鳴った。
喉の奥が酸っぱく、言葉が詰まる。
それなのに、周りまで真琴の肩を持つ。
「紗月ちゃん、ドレスなんて一回しか着ないだろ。あんな高いの頼んだら、レンタルで何着借りられるんじゃないか」
「真琴、次はそこまで世話を焼かなくていいよ。みんながみんな、お前に感謝するわけじゃない」
「若いとさ、すぐ態度に出るよな」
今日は圭介の誕生日だ。
ずっと前から準備してきたし、二人きりの時間が足りないって彼が言うから、仕事まで休んで祝うつもりだった。
それなのに、朝早く。
私たちはベッドで寄り添っていたのに。
外が急に騒がしくなり、真琴が勝手に顔なじみの連中を連れて押しかけてきた。
彼女は手際よくスリッパを配り、勝手に飲み物まで用意し始めた。
まるでこの家の主みたいだった。
私は呆然としたまま、どうして彼女が家の暗証番号を知っているのかも分からなかった。
その間にも、真琴は寝室の前まで来ていた。
半裸の圭介がシーツで私を包み込むのを見るなり、真琴は声を上げて笑った。
「女同士で、何を隠すの?別に珍しいものでもないでしょ。それより先輩、朝から元気すぎ。体、壊すよ?」
声がやたら大きい。
外にいた連中が気づいて、すぐに囃し立て始めた。
「真琴、ちょっとは控えろよ。留学してた頃から俺たちと一緒に住んで、そういう距離感に慣れすぎなんだよ。紗月ちゃんは、そういうの苦手なんだから。前にブロックされたの、もう忘れたのか?」
私は圭介を見つめ、信じられない気持ちになった。
真琴をブロックしろと言ったのは、他でもない圭介自身だったはずだ。それなのに、いつの間にか全部、私のせいになっている。
それに――私たち二人のことが、どうして友人たちのからかいのネタになるんだろう。
けれど、圭介の視線は入口に立つ真琴から離れなかった。
「ほら、出てけ」
命令みたいな言い方なのに、口元には消えかけの笑みが浮かんでいる。
からかうようで、妙に距離が近かった。
真琴はふざけた仕草で舌をちらりと見せ、そっとドアを閉めた。
ようやく圭介が、私の様子がおかしいことに気づく。
「紗月、夜にちゃんと説明する。今日は俺の誕生日だし、みんな好意で来てくれたんだ。ここで空気壊すの、やめよう」
彼は癖みたいに身を屈め、キスしようとした。
私は眉をひそめて身を引いた。
圭介は私を見て小さく息をつき、困ったような顔をしたが、何も言わずに慌てて服を着て出ていった。
外は笑い声でいっぱいで、やたらと賑やかだ。
扉一枚を隔てて、私は部屋に一人、冷え切った静けさの中に取り残されている。
胸が痛くて息が詰まり、涙が大粒のまま、ぽろぽろと落ちていく。
ドアがまた、不意に開いた。
真琴が口元を押さえ、わざとらしく驚いてみせる。
「紗月、どうして一人でここに隠れて泣いてるの?もしかして……私たち、歓迎されてない?
知らないかもしれないけどさ。先輩、前はよく私たちと集まってたんだよ。紗月と付き合い始めてから、急に来なくなって。分かってる人なら恋人優先なんだなって思うけど、知らない人から見たら、束縛されてるって思われても仕方ないよ。
紗月がそんな人じゃないのは分かってる。だから今日は先輩の誕生日だし、みんなで賑やかにしてさ。早く私たちに慣れてほしかったんだよ。
これからも集まりがあるたびに、先輩が紗月を連れて来てくれれば、余計な誤解もしなくて済むでしょ。
今日この人をブロック、明日はあの人をブロック……なんてことになったら、先輩だって外で立場なくなるんだから」
そう言いながら、真琴は部屋に入ってきた。
床には、昨夜圭介が脱ぎ捨てた下着が落ちている。
真琴はそれを平然と拾い上げ、しばらく眺めたあと、ふっと笑った。
「男ってさ、三十過ぎてから脂が乗るって言うじゃない。先輩、下着のサイズまで大きくなってるし」
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