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あいにく、私はもう別の男の妻です第1話

この話は約2175字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

大晦日、私は帰国した。

帰国祝いの席で、恋人の瀬戸健吾(せと けんご)がいきなり赤い薔薇の花束とダイヤのリングを差し出し、片膝をついた。

「プロポーズするまで三年もかかっちゃったけど、僕たちの愛に遅いなんてことはないよね。梓、僕と結婚してくれ!」

友人たちは傍で囃し立て、誰もが私が感極まって頷く瞬間を待ち構えていた。

けれど、誰も覚えていないようだった。三年前の大晦日、健吾が私にプロポーズすると約束していたことを。

あの夜、私は精一杯着飾って、夜が明けるまで彼を待ち続けた。

だが、彼は現れなかった。

届いたのは、彼の冷たい電話の一言だけだった。「雪乃の具合が悪くなった。放っておけないんだ。プロポーズの件は、また今度にしてくれ」

その翌日、元日に私は一人で出国し、親が決めた政略結婚を受け入れた。

三年前のあの時、私はもう、他の男の妻になったのだ。

* * *

大晦日、私は帰国した。

帰国祝いの席で、恋人の瀬戸健吾(せと けんご)がいきなり赤い薔薇の花束とダイヤのリングを差し出し、片膝をついた。

「プロポーズするまで三年もかかっちゃったけど、僕たちの愛に遅いなんてことはないよね。梓、僕と結婚してくれ!」

友人たちは傍で囃し立て、誰もが私が感極まって頷く瞬間を待ち構えていた。

けれど、誰も覚えていないようだった。三年前の大晦日、健吾が私にプロポーズすると約束していたことを。

あの夜、私は精一杯着飾って、夜が明けるまで彼を待ち続けた。

だが、彼は現れなかった。

届いたのは、彼の冷たい電話の一言だけだった。「雪乃の具合が悪くなった。放っておけないんだ。プロポーズの件は、また今度にしてくれ」

その翌日、元日に私は一人で出国し、親が決めた政略結婚を受け入れた。

三年前のあの時、私はもう、他の男の妻になったのだ。

私は表情を変えず、そっと一歩後ろに下がると、手にしたグラスを軽く揺らした。「瀬戸さん、プロポーズの相手を間違えていらっしゃいませんか?」

私は微笑みを浮かべて問いかけた。「あなたがプロポーズすべき相手は、望月雪乃(もちずき ゆきの)さんでしょう?」

「また雪乃のことで嫉妬しているのか」私の言葉に、健吾の顔が微かに歪んだ。「もう三年だぞ、まだ怒っているのか?何度言ったらわかるんだ……」

私は穏やかに、彼の言葉を先回りして継いだ。「彼女のことは妹だと思っている、二人の間には何もない……でしょう?」

理由は単純。この台詞はもう百回以上、耳にしていたからだ。

彼が「妹」だと言い張る雪乃のために、彼女である私を放り出すたび、必ず口にした言葉だ。

言葉に詰まった健吾は一瞬呆然としたが、すぐに声を和らげた。

「三年前のことは僕が悪かったよ。でも、理由はメッセージで説明しただろう?

雪乃は重病だったんだ。看病が必要だったし、僕たちの結婚が彼女の刺激になるのが怖かった。

なのに君は次の日、子供じみたわがままで何も言わずに出て行って……おかげで僕は三年も待ちぼうけだ。

まあいい、こうして僕のために戻ってきてくれたんだから。

これからはもうどこへも行かなくていい。セレブ妻として、大人しく僕のそばにいなさい」

その自信満々な様子に、思わず笑いが漏れた。「いつ私が、あなたのために戻ってきたなんて言いました?」

私は柔らかな声で言ったが、その中に冷たい距離感が滲んでいた。「お断りします。あなたと結婚する気など、さらさらありません」

健吾は絶句し、その瞳に信じられないといった色が走ったが、すぐに「どうせ強がりだ」という確信に取って代わられた。「まだ怒っているんだな?」

健吾が立ち上がり、私の手を取ろうとしたが、私はそれを軽やかにかわした。

友人たちが次々と口を挟んだ。

「梓さん、いい加減許してやれよ。あいつも当時は事情があったんだから」

「そうだよ。この数年、健吾くんはずっとあなたを探しているのよ」

「お前が帰ってくると聞いて、健吾がどれだけ気合を入れて準備したか……」

友人たちの後押しを受けて、健吾は得意げな笑みを浮かべ、強引に私の指に指輪を嵌めようとした。

私は冷笑を浮かべ、その指輪を床へ叩き落とした。

コロコロと転がる指輪を横目に、私は彼が持つ赤い薔薇を見つめた。「瀬戸さん、私が好きなのは白い薔薇ですよ」

そして、容赦なく、彼の無関心を突きつけた。「赤い薔薇が好きなのは……ずっと、望月さんの方でしょう?」

その瞬間、個室の中の空気が凍りついた。静寂が広がる中、背後から聞き覚えのある声が響いた。「梓さん……お願いです、健吾さんを許してあげてください!」

雪乃が現れ、床の指輪を拾い上げると、涙ぐみながら健吾を見上げた。「全部私のせいなんです。私さえいなければ、お二人がこんなに長く離れ離れになることもなかった。こんなことになるなら、あの時いっそ死んでいればよかった……」

そう言うなり、雪乃は激しく咳き込み、その顔がさらに青ざめていく。

健吾はすぐに私を問い詰めることなど忘れ、心配そうに雪乃を支えた。「雪乃!どうしてここに?家で休んでるって言ったろ」

寄り添う二人を見て、私は小さくため息をついた。

こんな茶番を見せられると分かっていたら、来なければよかった。

「帰国したばかりで時差ボケが酷いので、失礼します。また機会があれば」

周囲に軽く会釈をし、引き止めようとする健吾を無視して、私は未練のかけらもなく部屋を後にした。

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