99回ドッキリ結婚、もう限界です!第1話
この話は約2376字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
5年目の記念日。たくさんの人に見守られる中、松本湊(まつもと みなと)は片膝をつく。
「葵(あおい)、俺と結婚してください」
しかし、私の心はまったく動かなかった。
やはり……次の瞬間、湊は指輪を投げ捨て、ウェディングドレスを燃やし、会場をめちゃくちゃにした。
それを見ている、彼の幼馴染である平野梨花(ひらの りか)もげらげらと笑っている。
こんなプロポーズはもう99回目。うつ病を患っている梨花を笑わせるためだけのただの悪ふざけ。
そして、湊の仲間たちも揶揄うように囃し立てる。
「葵さん、どうしたんだよ?今日はなんだかつれないな。早くうんって言ってあげなよ」
「俺たちは、君が本気にして慌てふためく面白い顔が見たいんだからさ」
私は特に取り乱すことなく、静かに口を開いた。
「ごめんね。私、一昨日婚約したんだ」
湊は一瞬呆気に取られたようだったが、すぐに鼻で笑って言った。
「俺以外に、お前をもらってくれるやつなんているわけないだろ?」
その一言で周りはどっと笑い出し、私がいつ結婚できるかなんて賭けを始める人までいた。
しかし、この人たちはまだ知らないのだ。
私がプロポーズされていると聞いた本当の婚約者が、今まさに私を迎えに来てくれていることを……
* * *
5年目の記念日。たくさんの人に見守られる中、松本湊(まつもと みなと)は片膝をつく。
「葵(あおい)、俺と結婚してください」
しかし、私の心はまったく動かなかった。
やはり……次の瞬間、湊は指輪を投げ捨て、ウェディングドレスを燃やし、会場をめちゃくちゃにした。
それを見ている、彼の幼馴染である平野梨花(ひらの りか)もげらげらと笑っている。
こんなプロポーズはもう99回目。うつ病を患っている梨花を笑わせるためだけのただの悪ふざけ。
そして、湊の仲間たちも揶揄うように囃し立てる。
「葵さん、どうしたんだよ?今日はなんだかつれないな。早くうんって言ってあげなよ」
「俺たちは、君が本気にして慌てふためく面白い顔が見たいんだからさ」
私は特に取り乱すことなく、静かに口を開いた。
「ごめんね。私、一昨日婚約したんだ」
湊は一瞬呆気に取られたようだったが、すぐに鼻で笑って言った。
「俺以外に、お前をもらってくれるやつなんているわけないだろ?」
その一言で周りはどっと笑い出し、私がいつ結婚できるかなんて賭けを始める人までいた。
しかし、この人たちはまだ知らないのだ。
私がプロポーズされていると聞いた本当の婚約者が、今まさに私を迎えに来てくれていることを……
……
彼らはどれくらい笑い続けていたのだろうか。
私がずっと黙っていることに気づいた誰かが、その場をとりなそうとした。
「なんだよ、葵さん。ただの冗談だろ?そんなに怒ることないんじゃないか?」
私は落ち着いて答える。
「怒ってなんかないよ」
それを見た梨花が、湊の胸にすり寄った。
「湊さん。もしかして葵さんは私のこと嫌いなのかなぁ?」
湊は私に視線を向けると、眉を顰めた。
「お前のせいで梨花が不機嫌になったじゃないか。謝れよ」
湊が本気で怒り出しそうなのを感じ取った私は、指をぎゅっと握りしめ、素直に頭を下げる。
「ごめんなさい、平野さん。嫌な気持ちにさせてしまって」
プライドとは大事なものなのだろうか?
ただ私が覚えているのは、梨花に謝らなかったせいで、前回、湊に地下室へ3日3晩閉じ込められたことだけ。
「そういうことで、私はもう帰ってもいいのかな?」
私は手元のバッグを手に取る。
しかし、湊が私を掴もうと腕を伸ばしてきたので、私は反射的に避けた。その拍子に、服がはだける。
服の下の肌には、やけどの痕やアレルギーの発疹、それに数々のいたずらでできた傷跡があった。
それを見た湊の顔が、一瞬で真っ青になる。
「なんでこんな酷いことになってるんだよ。あいつら、痕は残さないって約束してたのに」
私は心の中で冷たく笑った。
ドレスに火のつく粉を仕込んだり、ケーキに私がアレルギーのマンゴーを入れたり、ダンスシューズに釘を隠したり……これで無傷でいられるなら、それこそ奇跡だろう。
湊はさらに、私のズボンの裾をまくり上げた。
そこには、くっきりと手術痕が残っている。
私の夢はダンスをすることだった。しかし、この足を怪我してから、一度も踊っていない。
罪悪感で、湊の表情がますます歪んでいく。
「葵、俺は……」
「きゃっ!」
梨花が悲鳴をあげて、湊の胸に飛び込んだ。「気持ち悪い!」
湊はひどく険しい顔をする。
「ふざけるな、梨花。これは全部、葵が君を元気づけるためにつくった傷なんだぞ。感謝しろよな」
「違うよ。私が感謝するのは湊さん!だって、あなたが私のことを大事に思ってくれなかったら、こんなことまでしてくれないでしょ?」
そう言って、梨花は湊の腕に絡みついた。
「君のご両親が亡くなる前、君のことを頼まれたんだ。その時に、面倒を見るって約束した。ただそれだけだよ」
「じゃあ、私と葵さん、あなたの心の中ではどっちが大事なの?」
「もちろん葵に決まってるだろ?彼女は俺の……」
しかし、湊が言い終わる前に、梨花がつま先立ちで彼の唇を奪った。
すると、湊は感電したかのように固まった。だが、すぐに我に返ると、梨花の頭を引き寄せて、もっと深くキスをした。
「湊さん、やっぱり私のことが好きなのね」
梨花は湊の胸に顔をうずめて、泣きながら微笑んでいる。
しかし、その場から私がとっくにいなくなっていたことに、気づいている人は誰一人といなかった。
時を同じくして、入り口には迎えのマイバッハが到着していた。後ろに何台も車を引き連れているのを見て、思わず笑みがこぼれる。
「安心して。彼らが私に何かすることはないから」
私を奪いにきた男は、私の無事な姿を見てほっと息をつき、骨ばったきれいな手で助手席のドアを開けてくれた。
「ところで、結婚式のことなんだけど。君はどうしたい?」
……
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)