18歳の誤ち、今こそ正しき道へ第1話
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18歳のとき、私・明坂星乃(あけさか ほしの)は大学受験を諦め、貯金をすべて持って恋人の兼川涼平(かねがわ りょうへい)と駆け落ちした。
彼は10年かけて、首都のK市で成功をつかんだ。
そしてまず最初にしたことは、島をまるごと貸し切り、私に盛大な結婚式を挙げるという約束を果たすことだった。
私は喜びに胸を膨らませながら、花嫁になる支度をしていた。そんなある日、偶然、彼と女性秘書のやり取りを目にした。
【まだ20歳そこそこで、貧乏な男と駆け落ちなんて考えるのか?今、君がやるべきなのは、自分を磨くことだ!
本当に愛してるなら、君の輝かしい未来を捨てさせて、いつどうなるかわからない苦しい暮らしを一緒にさせるわけがないだろう?
いい?目先の恋にのめり込む人たちを真似しちゃだめ。どこまでも自分を安く扱えば、たとえ一瞬幸せをつかめても、結局は手からこぼれ落ちてしまうんだ】
最後の一文を見つめたまま、私は呆然としている。
長いことぼんやりと座り込んだあと、スマホを手に取った。
そして、半月も放置していたニューヨーク屈指の芸術学院からの特待生合格通知に、ようやく返事を送った。
18歳の私は、愛があればどんな困難だって乗り越えられると思っていた。
でも今、私はもう28歳だ。これ以上、愚かな真似を続けるつもりはない。
* * *
合格通知への返信を送ったその瞬間、芸術学院の指導教官・マーサから国際電話がかかってきた。
「明坂さん、本当に決めましたか?
婚約者が島をまるごと貸し切って、明坂さんに結婚式を挙げようとしていると聞きました。
今そこを離れたら、この10年の努力がすべて水の泡になると思います」
私は喉の奥に込み上げる苦みを飲み込み、静かに口を開いた。
「先生、入学手続きをお願いできますか。できるだけ早くお願いします」
電話を切ると、私は右手に残る、いつまでも消えないしもやけの痕をぼんやりと見つめた。
あれは、K市へ来て初めて迎えた冬のことだった。
涼平のためにサーバーを買うお金を節約しようと、マイナス十数度の寒さの中、庭で冷たい水を使って洗濯をしたときに残った痕だ。
この両手だけじゃない。私の胃も、とうにぼろぼろになっていた。
後になって、涼平が最初の投資を取りつけるのを助けるために、私が代わりにお酒を飲み続けた代償だった。
誰もが私に言った。男は成功すると、真っ先に恋人を替えるものだと。
けれど涼平は私を捨てなかった。それどころか、誰もが羨むような結婚式まで用意してくれた。
私の10年にわたる苦労が、ようやく報われたのだと思っていた。
あのやり取りを見るまでは。
そこで初めて、気づいた。
この10年間、私がしてきたことを、あの人は心の中で、自分を安売りしてすがりつくだけの滑稽な女だと思っていたのだ。
だから、こんなに腐りきった恋なんて、もう続けたくない。
そのとき、スマホの画面が再び明るくなり、涼平から電話がかかってきた。
「星乃、何をしてる?
今日は結婚式の招待状の最終案を決める日だ。時間をしっかり守ってくれ。
このあと、まなみを連れて大事なクライアントに会いに行く。みんなの時間を無駄にするな!」
苛立った声だ。
「今、行く」
私はそれ以上何も言わず、静かに電話を切った。胸の奥には、もはやさざ波さえ立たなかった。
前は、少し声を荒げられただけで、慌てて謝っていた。
機嫌を損ねて、二人の関係にひびが入るのが怖かったからだ。
けれど今は、長年胸の奥に溜め込んでいた重苦しさが、すっかり抜け落ちていくのを感じているだけだ。
社長室の扉を押し開けると、エアコンの冷たい風がまともに顔を打ちつけた。
涼平は私が入ってくるのを見ると、眉をひそめ、不機嫌そうに言った。
「普段、家でだらしない格好をしてるのはまだいい。会社に来るなら、もう少しまともな服を着られないのか?
他人に見られたら、俺が星乃を粗末に扱ってるみたいじゃないか」
私は書類袋を机の上に置き、指先でひんやりとした机の表面をなぞった。
「頼まれてた招待状のデザイン」
涼平は一瞬、言葉を失った。まさか私がこんなに冷めた態度を取るとは思っていなかったようだ。
苛立ちを露わにしてネクタイを引っ張り、今にも怒鳴り出しそうになったそのとき、社長室の扉が開いた。
矢倉まなみ(やぐら まなみ)が、ハイヒールの音を鳴らしながら入ってきた。
今シーズン発売されたばかりのシャネルのスーツに身を包み、上品なメイクを施したその姿は、若々しく華やいでいる。
手には、湯気の立つ紅茶を一杯持っている。
「社長、ご注文の紅茶です」
涼平の顔を覆っていた陰りが一瞬で消え、柔らかな笑みに変わった。
「そこに置いてくれ。ご苦労さん」
まなみがこちらを振り向いた。その目に、かすかな軽蔑の色が浮かんだ。
「明坂さんもいらしたんですね。すみません、いらっしゃるとは知らなくて、お茶を用意していませんでした」
涼平がすぐに言葉を継いだ。
「星乃にはレモン水でいい。こういうのにはこだわらないから」
「いらない。レモンアレルギーだから」
私は淡々と話した。
涼平はわずかに目を見開いた。どうやら、そのことをすっかり忘れていたようだ。
まなみは口元を隠し、くすっと笑った。
「社長もお忙しいですから、うっかり忘れてしまうこともありますよ。明坂さん、気にしないでくださいね」
――「忘れてしまう」って?
昔、私のアレルギーが出たとき、病室でずっと付き添い、水を飲ませたり体を拭いたりしてくれたのは、他でもないあの人だった。どうしてそんなことを忘れられるだろうか?
ただ今は、もう私のことなんて心のどこにも留めていない。それだけだ。
私は何も答えず、ただ机にもたれながら、招待状のデザインの最終確認が終わるのを静かに待っている。
涼平が軽く咳払いをし、私が持ってきた書類袋を開けた。
中に入っているのは、3日間ほとんど眠らずに、私が自分の手で描き上げた涼平との結婚式の招待状のデザイン原稿だ。
彼は一目見ただけで、また机の上へ放り返した。
「なんだ、これ?」
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