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青い鳥は遠い雲の彼方へ第3話

この話は約1972字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

美咲は三日目を待たずして、両膝が青く腫れ上がり、膿み、高熱が下がらなくなった。

目が覚めると、見慣れた狭い家政婦部屋のベッドに寝かされていた。枕元には解熱剤と冷たい水が置いてある。

全身が冷たくて、息だけが熱を持つ。何度も体を起こそうとし、ようやく薬を口にした。

そのまま長い夢を見た。

夢の中で美咲は、幼い頃、佳子の愛情を受けていたことを思い出す。誠一は無口だけど、たまに微笑んでケーキを買ってくれた。

けれど、妹の里奈が生まれてから、美咲は家の中で空気のような存在になった。親の気を引こうと騒いでも、返ってくるのは冷たい視線と叱責だけ。

何もかも、里奈に譲るのが当たり前になった。

その後、翔太の誕生日パーティーで、二人で木から子猫を助けたことをきっかけに、友達になった。

里奈は美咲に嫉妬し、両親は里奈に美咲の服を着せて翔太に会わせたけれど、翔太は一瞬で「偽物」だと気づいた。

その頃から、翔太は美咲の成長の中で唯一で、誰よりもまぶしい光になった。

親に無視され叱られるときも、里奈にいじめられるときも、翔太だけは黙ってそばにいてくれた。校外の不良に絡まれたときも、翔太は必ず助けに来てくれた。

中学生になってからは、翔太はストレートに美咲への気持ちを伝え、いつもそばで見守って、近づく男子は全部追い払った。

地面にキャンドルを並べて告白したり、街全体を花火で彩ったり、ドローンで誕生日を祝ったり。考えうる限りのロマンチックで、ちょっとクサいサプライズを何度も何度もやってくれた。

「美咲、俺はこの世界で一番お前を愛してる。親がちゃんと愛してくれなくても、妹に嫌われても、俺がいるから大丈夫だ。

美咲には、世界一の愛をあげる。誰かをうらやましがる必要なんてないんだよ」

熱い涙が美咲の頬を伝い、あっという間に枕を濡らす。

夢から覚めると、美咲は布団を引き寄せて体を埋め、声を殺して泣いた。

――翔太、どうして他の人を好きになったの?

どうして、その相手がよりによって里奈なの?

高熱はなかなか下がらず、二日間は朦朧としたまま過ごした。その間、家政婦たちがご飯を持ってくるときに、廊下でおしゃべりしているのが聞こえた。

「旦那様、昨日うっかり奥さまのネックレスを壊しちゃったから、今日は朝からずっと謝り倒してるみたいよ」

「聞いた?旦那様、ジュエリーオークションで出てるジュエリー、全部買い占めたって。

しかも、赤いバラを9999本も空輸で取り寄せてるんだって。

今、リビングはプレゼントの山だよ。奥さまが帰ってきたら、もっとすごいサプライズがあるらしいよ」

美咲の胸が鈍く痛む。まだ本調子じゃない体をなんとか起こして、リビングへ向かった。

ロマンチックな照明、花の海、山のようなジュエリー。そして、タキシード姿で優しく微笑む翔太。

この光景は、かつて翔太が美咲にプロポーズした日の再現だった。

美咲の目が、もう一度涙で曇る。

そこへ、里奈が外から飛び込んできて、満面の笑みで翔太の腕に飛びついた。「翔太、ありがとう。私、すごく幸せ」

翔太は優しく里奈の髪を撫でて、「お前が喜んでくれるなら、何だってしてあげる」とささやく。

執事がプレゼントの箱を手渡す。翔太が箱を開けると、美咲は息が止まった。

中には、限定のコレクション香水が十本。

香水好きの美咲のために、翔太は「結婚記念日に世界で一番貴重な香水を集めてプレゼントする」と約束してくれたことがある。

その中の一本は、翔太がイタリアのマフィアと命がけの勝負をして手に入れたものだった。

あの日、美咲は翔太のスマホでその事実を知り、ものすごく怒って「命を粗末にしないで」と泣いた。

でも翔太は美咲の手を取って、そっとキスしながら言った。「大丈夫だよ。ちゃんと考えてるから。それに、美咲が喜んでくれるなら、命を懸けたって構わない」

あのときの翔太の真っ直ぐな想いは、今でも美咲の心に残っている。

けれど今、あのプレゼントは里奈のものになっている。

美咲の目から涙があふれ、視界がぼやける。

胸の奥が、誰かに素手で心臓をつかまれて、そのまま引きちぎられるみたいに痛い。

心の中を冷たい風が吹き抜けて、体中の血が凍りつく。

美咲はこの場から逃げようとするが、里奈が呼び止める。

「こっちへ来て。私たちのためにピアノを弾いてよ。『エリーゼのために』が一番好きなの」

胸が締め付けられる。美咲は思わず翔太の方を見る。

翔太はほんの一瞬黙ったあと、目をそらして言った。「奥さまの命令だ。言われた通りにして」

心臓が音を立てて壊れるのが聞こえる。

美咲は足元の感覚がなくなったままピアノに向かい、椅子に座る。

指先から流れ出す『エリーゼのために』

グランドピアノの反射の中、翔太と里奈が抱き合いながら踊っている。

かつて翔太が美咲のために何度も弾いてくれたこの曲も、今は二人のためのBGMでしかない。

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