離婚成立、その直後に私は死ぬ第3話
この話は約1761字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
あの夜、千明は私の足元に跪き、声を詰まらせて泣いていた。
彼は私の手を握りしめ、かすれた声で私たちの幼い頃の思い出を語った。
父のために新しい療養施設を用意すると言い、悦子とも話して、子どもに会わせるようにすると約束した。
最後には自分の頬を強く打ち、赤く潤んだ目で私を見上げた。「やり直そう。もう一度、いいか」
父と双子のために、どれほど悔しくても、私は胸の痛みを押し殺し、うなずくしかなかった。
その後の数年、彼は落ち着きを取り戻した。
記念日を一緒に過ごし、子どもに会う時間も作る。
どんなに遅くまで練習しても家に帰り、さらには恵理をマネージャーから外し、別の人を雇った。
すべてが良くなっていくとそう思い始めた矢先、恵理が尾崎家に現れ、エコー写真を私の顔に叩きつけた。その表情には隠しきれない得意げな色が浮かんでいる。
「ごめんなさいね、梨央さん。私、妊娠したの。
千明はね、あなたは出産で締まりが悪くなった。満たされるのは私のところだけだって言ってたわ。男が後悔するなんて信じるのは、あなただけよ」
解雇も、やり直しもすべて私を誤魔化すための嘘だった。
私はエコー写真を見つめ、乾いた笑いを漏らした。
「どうしたいの?」
彼女は舌打ちまじりに首を振った。
「前にできた子は全部千明に中絶させられた。でも今回は……」
不気味に笑った次の瞬間、彼女は自ら壁にぶつかった。
直後、玄関から千明の怒鳴り声が響く。「梨央、何をした!」
声が落ちた瞬間、彼は私を蹴り倒し、恵理のもとへ駆け寄った。
その背後から、二つの声が響いた。「ママ」
でも、それは私に向けられたものではない。向こう側にいる恵理へだった。
二人の子どもは私の手の甲を踏みつけ、次々と彼女の周りに駆け寄り、心配そうに声をかけた。
そんな状況でも、恵理は芝居をやめない。
「梨央さんを責めないで。私が余計なことを言って、怒らせてしまったの……」
その一言で、千明の怒りはさらに燃え上がる。
彼は振り向き、私を射抜くように睨みつけた。
「お前がこんなに悪辣だと知っていたら、あのとき死なせておけばよかった。
恵理はここまで我慢してるのに、お前はまだ何を求める」
口を開こうとしたその瞬間、双子の兄・海斗(かいと)がそばにあった灰皿をつかみ、私に投げつけた。
「ママを傷つけたな。死ね」
冷たくぬめる液体が、額から目元へと流れ落ちた。
私は震える声で、言葉にならないまま問いかけた。「今、なんて呼んだの……私が、あなたたちの母親なのに……」
次男の風斗(ふうと)は唾を吐きかけた。
「はっ、何もできない人間のくせに。僕たちはチャンピオンになるんだ。ママは恵理ママだけだ」
幼い顔に浮かぶその軽蔑の表情は、悦子とまったく同じだった。
どうりで、本宅に行くたびに、どこかよそよそしく、ママと呼ぶことも避け、私に近づこうとしなかったわけだ。
結局、あの子たちも悦子と同じように、私を見下していた。
私はしばらく呆然とし、やがて大きく笑い出した。
涙と血が混ざり、足元へとぽたぽた落ちていく。
千明が眉をひそめ、近づこうとした瞬間、恵理の苦しげな声で我に返った。
そして彼は私を蹴り飛ばし、そのまま彼女を抱えて外へ駆け出した。
双子も後を追った。
ほぼ同時に、スマホに次々と動画が送りつけられてきた。
誕生日も、記念日も、私と一緒に過ごしていたはずの夜、その後半はすべて彼女と過ごしていた。
軋むベッドの音が、耳にこびりつく。
私はついに崩れ落ち、睡眠薬を瓶ごと飲み干した。
執事が千明に電話をかけ、私が危険だと伝えたとき、彼は電話の向こうで笑っていた。「死ねばいい。どいつもこいつも、俺の足を引っ張りおって」
結局、私は死ねなかった。だがその騒ぎで、街中のメディアが一斉に動いた。
尾崎家は再び世間の見出しを飾った。
手術室から運び出されたとき、悦子は容赦なく私の頬を何度も打った。
「男一人繋ぎ止められない無能のくせに、死ぬ真似だけは一人前ね」
さらに片手で私の首を締め上げ、もう一方の手で隣のICUを指し、嘲笑した。
「父親の命はまだこちらが握っている。これ以上尾崎家の評判を落とすなら、明日まで持たないわよ」
そのとき、病室の入口に立っていた二人の息子が、残念そうな顔をして言った。
「まだ死ななかったのか、この役立たず」
「死んでくれたら、恵理ママが尾崎家に入れたのに」
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