長く思い、長く恋う第2話
この話は約1735字。当サイトで読める2話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第3話からは公式アプリで読めます。
指輪は彼が自分の手で磨いたピジョンブラッドの宝石だった。最初のプロジェクトですべての収益を使い、それを私に贈ってくれた。
「一生、君を幸せにする」そう彼は言った。
でも、すべてが順調に進み始めたそのとき――彼は白血病を患った。
そして、世界中で彼と骨髄が適合するのは、私だけだった。
骨髄移植の代償として、私は二度と自分の子どもを持てなくなった。
それでも――奏真は子どもが大好きな人だった。
もし彼がこの事実を知ってしまったら、きっと、自分が死ぬことを選んでしまう。
だから私は、彼の病床のそばで泣きながら、「お願い……もう解放して……いつ死ぬかもわからない人と一緒にいるのは、もう耐えられないの……」そう言って、突き放した。
彼の絶望のまなざしの中で、私は離婚届にサインした。
その手で、今度は骨髄提供の同意書にも、迷いなく署名した。
それから五年。
感染が進行した私は、もう提供者を待つ時間もない。
私を待っているのは――死だけ。
六百万円を葬儀屋に送金した。
「石榴の花が一面に咲く墓地を選んでください」
やっとの思いでアパートに戻ろうとしたそのとき、弁護士からのメッセージが届いた。
【佐倉さん、あなたが壊したブレスレットは六千万円の価値があります。
支払えない場合は刑事責任を問われ、拘留の可能性もあります】
そして、次に届いたのは――奏真からのメッセージだった。
【俺の秘書になるか、牢屋に入るか。選べ】
私に選択肢なんてなかった。
だけど、最後の時間に彼の幸せを見届けられるのなら――それでいい。
死の宣告を受けた、その日。
私は彼の秘書として働き始めた。
私が現れた瞬間、知花の目にはあからさまな敵意が浮かんだ。
「なんであんたがここに?」
奏真は彼女の手を引きながら言った。「彼女を君の秘書にしたんだ。少しは楽ができるようにね」
知花は彼の頬にキスをして甘えた。「やっぱりあなたは優しいわ。妊娠してる私を気遣ってくれて」
「ちょうど喉が渇いたの。コーヒー持ってきて」
私はコーヒーを持って行った。けれど彼女はまるでわざとやったかのように、カップを落とした。
熱湯が私の皮膚にかかる。
奏真は知花を抱きしめ、優しく言った。「大丈夫?火傷してない?」
そして私には、冷たい目線を投げた。「またその手?本当に哀れね。お金欲しさに、そこまでやるなんて」彼は札束を投げつけてきた。
私は痛みに耐えながら、それを一枚一枚拾い上げ、静かに言った。「ありがとうございます、一ノ瀬社長」
彼らが出て行ってからやっと、私はトイレに駆け込んだ。火照るような膿が浮かんだ水ぶくれを、怖くて潰すことができない。
潰せば、血が止まらなくなるから。
私はただじっと痛みに耐えながら薬を塗っていた。けれど、鼻血は止まらずに、じわじわと流れ落ちてくる。
ようやくの思いで血を拭き取り、震える手で金を握りしめながら。
知花は私に、彼女が奏真からもらった贈り物を拭かせた。
「ちゃんと気をつけなさいよ。壊したら、あなたの一生なんて、到底じゃ足りないんだから」
「これが付き合って一年目にもらった世界に一つだけの指輪」
「これは二年目の二億のネックレス」
「これは三周年記念にくれたマンションの権利書」
「それが終わったら、コーヒーを社長の休憩室に運んで」
私は体調が悪いのをこらえながら、すべてを丁寧に拭きあげ、
コーヒーを持って休憩室に向かった。だが、扉の向こうからは、情熱的な喘ぎ声が聞こえてきた。
どれだけ待ったか分からない。足が棒のように痛む。
ようやく奏真が出てきた。首筋にはいくつもの引っかき傷があった。
彼は私の持っていたコーヒーを受け取り、鼻で笑った。「金のためなら、何でも耐えるんだな」
「元夫と今の恋人の情事を聞かされても、我慢できるなんて」
私は悔しさに奥歯を噛み締め、手を差し出した。「今日の分の給料、いただけますか?日払いでお願いしたいんです」
その瞬間、彼の目が一気に冷たくなった。彼は札束を私の顔に叩きつけ、そのまま怒りに任せて去って行った。
彼の会社は、私のアパートから三時間もかかる。
やっと横になれたと思った矢先――
奏真から再びメッセージが届いた。「知花が胃を痛がってる。今すぐ薬を買ってこい」
「こんな時間に薬局なんて開いてないでしょ?私が行くしかないの?」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第3話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第3話からそのまま読み進められます。
R82222- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。